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第191話 内都争乱

 愛染達を探しながら町へと戻る。残念ながらこれは上手く行かなかった。

 『風の丘』までの道が開けた野原である事は分かっていたが、改めて見てみると影世界とつなげられるような影がほとんど無かったのだ。

 そのため外の様子を窺えない場所が多い。これではどこかで愛染達とすれ違っても分からないという事になりかねないだろう。

「これは、仕方ないな……」

 そこでジェイは忍軍の内の二人を外に出して町に戻らせる。

 もし愛染達が誘拐犯を追って『風の丘』に向かっているならば、道に沿って町に戻っていれば会える可能性は高いだろう。

「ねえ、ジェイ。その人達、ちゃんとこっちに向かってるのかな?」

 モニカがチラチラとアルフィルクの方を窺いながら尋ねる。彼等が誘拐犯の逃走経路を把握できていない場合、今も的外れな場所を探している可能性もあるという事だ。

「あ、愛染は助けに来てくれる!」

「ぴぃっ!?」

 思わず声を上げたアルフィルクに、モニカは思わずジェイの背に隠れた。

 間に挟まる形となったジェイ。本音を言えば、愛染達は的外れな場所を捜索してくれていた方が良いのだ。『絶兎』の魔法は、前情報無しで戦うのは危険である。

「あちらも道に沿って進んでいれば、入れ違いになる事も無いでしょう。今はとにかく、陛下は安全な場所へ」

「う、うむ……『アーマガルトの守護者』がそう言うならば……」

 逆に言えば、道に沿わずに『風の丘』に向かっていると危険なのだが、そこまで説明して心配させる事はないだろう。

 二人の忍軍を外に出したジェイ達一行は、速度を上げて町へと戻った。

 そして町に入ったところで、残りの忍軍二人も外に出す。

「お前達は獅堂と合流して連れてきてくれ」

「了解です」

 獅堂には現在、眉我が不正していた可能性を探ってもらっている。

 しかし、王家が狙われたとなると、内都で更なる騒動が起きる事も考えられる。彼とも早く合流した方が良いだろう。

「それじゃ、私達は宮廷へ……」

「いや、それもまずい」

 エラの提案を止めたジェイは、足下の影で拘束された誘拐犯達に視線を向ける。

 彼等がどうやって宮廷に侵入したかが分からない。内部に手引きした者がいる可能性も有る。そう考えると、宮廷も決して安全とは言えなかった。

「……では、どこに?」

 その視線で察したエラは、真剣な目で尋ねた。

「冷泉邸だな」

 ジェイがそう答えると、エラは知ってたと言わんばかりに大きくため息をついた。

 そもそもジェイが知っている場所となると、候補は冷泉邸か極天騎士団本部ぐらいなのだ。

 そして後者は、個人相手とはいえ最近トラブルがあったばかり。信用を第一に考えると、冷泉邸が選ばれるのは至極当然の話である。

 冷泉邸が危険に晒される事になりかねない。しかし、その二つと宮廷以外に安全な所となると難しい。内都出身であるエラにも、第四の選択肢を提示する事ができなかった。

「こっちよ。ここからなら、この方向に真っ直ぐ行けばいいわ」

 他に選択肢は無い。そう判断したエラは、モノクロで再現された町並みの中、指差しで道案内を始めるのだった。



 町に入ったところで別行動となった忍軍達、獅堂を探す事自体はそう難しい事ではなかった。

 彼が調べているのは眉我の不正、それを調べられる場所は眉我邸しか無いからだ。

 そのため、すぐに獅堂と合流する事ができるはずなのだが……。

「何ごとだぁ!?」

 二人が眉我邸に近付いた時、そこは既に戦場になっていた。

 普段は騎士の邸宅が並ぶ閑静な住宅街。しかし今は何人もの騎士達が入り乱れて戦い、剣戟の音が響き渡る戦場と化していたのだ。

 激戦を繰り広げる相手は全身白づくめの戦士達。顔も白い布を巻いた覆面で隠している。

 ロングコートを着ているため、その下の防具までは分からないが、それぞれ手には剣や槍などの武器を持っている。

「王家の横暴を許すなー!」

「内都華族を討てー!」

 彼等が口々に主張する言葉は、町の各所で集会を開いている者達と同じもの。おそらく関係者、あるいはその影響を受けた者達だろう。

 この光景を見た瞬間、二人は眉我の件が原因ではないかと考えたが、この状況ではそうとも言い切れない。

 とにかく急いで獅堂と合流しなければはならない。忍軍の二人は眉我邸へと急いだ。


 二人が駆け付けた時、獅堂は眉我邸の玄関先で戦いを繰り広げていた。

 相手はやはり白づくめの戦士。ただ、明らかに他の者達とは体格が違う。長身の獅堂よりも頭一つ分は大きいであろう男だ。長柄武器のハルバートを頭上で振り回している。

 獅堂は剣を手に迎え撃っているが、苦戦していた。ハルバートは先端の「槍」、横に広がった「斧」、そしてその反対側には「鉤爪」が付いた多機能な武器。

 リーチの違いも有るが、大男はそれを器用に、そして見事に使いこなしている。獅堂をして近付く事もできずに防戦一方だった。

 獅堂も忍軍を連れていたはずだが姿が見えない。それを確認した二人は、その経験から厄介な事が起きていると感じていた。

「ム……援軍か」

 大男は振り向かないまま、二人の接近を察知した。

 これは戦いを避けられないと、二人も腰の剣を抜く。

「待て! 援軍なら裏口に! 向こうからも敵が来ている!」

 獅堂も二人に気付いて声を張り上げた。

 二人は顔を見合わせ頷き合うと、一人が駆け出して裏口へと回る。そしてもう一人は残り、獅堂と大男を挟撃するべく剣を構えた。

「ほぅ、武士のような片刃……だが、刀ではなさそうだな。アーマガルトか」

 二人の動きに気付いて、大男が振り返った。

 獅堂から見れば相手が背を向ける形になったため即座に斬り掛かるが、大男は彼に視線を向ける事無くハルバートの穂先を向けて、その動きを制した。

 淀みないその動きは、通りで戦っている者達とは別格だろう。

 厄介な事になった。忍軍がポツリと呟く。

 別格の男が正面から攻め込み、裏口も攻撃されている。ここだけ執拗ではないだろうか。通りの方は乱戦になっているのに、この眉我邸では防衛戦が行われている。

 ジェイと共に幕府の隠密部隊と戦ってきた彼の経験上、こういう時は何かしらの目的が有る。

 そう、有るのだ。この眉我邸に、この大男が狙う何かが。

 チラリと眉我邸を見上げると、屋根の上から煙が立ち昇っているのが見えた。忍軍の男は、何事かと眉をひそめる。そして煙の量が増えているのを見てハッと気付いた。

「まさか、焼き討ち!? 裏口がやられたのか!?」

「なんだと!?」

 獅堂も声を上げるが、振り向いて確かめる事ができない。目の前の男が、それを許さない。

 「証拠隠滅」そんな言葉が頭を過る。覆面で隠れて見えないはずの唇の端がニィッと吊り上がった。獅堂はそんな錯覚を覚えるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここで露骨に証拠隠滅とかしちゃうと騒乱を起こしてる連中と犯人のつながりが目立っちゃうと思うんだけどrそれはもういいのかな?
[一言] 色々起こりすぎですのぅ。 ジェイ達も頭パンクしそう。
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