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第190話 影の疾走

 急いでエラ達と合流すべく影世界を移動するジェイ達。

 ジェイと明日香で外の様子を窺い、アルフィルク王は侍女に任せている。捕らえた誘拐犯達は影で押さえ付けて拘束している形だ。

 ようやく事態が飲み込めたらしいアルフィルク。ジェイはそのキラキラした視線を背中に感じつつの移動となる。

「ん……?」

 その途中、ジェイが何かに気付いて振り返った。

「ジェイ、どうしました?」

「いや、あいつに『添』えてた影が消された」

「えぇっ!?」

 ジェイの魔法『添』は、相手に影に『添』わせる事でその位置を把握する事ができる。

 おそらく『絶兎』は、下からの攻撃を警戒して足下にも魔法を撃ち込んだのだろう。その際に影に『添』わせていたジェイの魔法も消し飛ばしたのだ。

 つまり彼の魔法『空幻絶兎』はジェイの『影刃八法』にも有効という事である。

 正体不明の魔法であったためあの場は即座に退いたが、その判断は間違っていなかったようだ。

「皆は大丈夫でしょうか?」

「モニカ達か……あいつらも隠密行動中だろうから、見付けても避けてるとは思うが……」

「でも、あの調子で魔法を連発してたら、森で何かあったって気付きませんか?」

 特に倒木は大きな音を立てていた。森の外まで聞こえているだろう。

「心配して森に入ってきたりしませんか?」

「モニカがいるし、大丈夫だろ」

 心配そうな明日香に対し、ジェイは焦る事無くそう答えた。


 一方その頃エラ達は、明日香の予想通り倒木の音が森の外まで届き、異常事態が起きている事を察知していた。

「ジェイ君達、大丈夫かしら?」

「エラ姉さん、ジェイは心配いらないでしょ……明日香達もジェイが一緒だし」

 モニカの方は、あまり動じていない。

 対してエラは何が起きているか分からない事もあり、心細さからジェイに側にいて欲しいという思いがあった。

「え、えっと……あなたとあなたは……」

「ストーップ! エラ姉さん!」

 忍軍を二人森に送り込もうとするエラを、モニカが声を張り上げて止めた。

「こういう時は分散しちゃダメ! ほら、撤収準備!」

 幸か不幸か、モニカは修羅場慣れしていた。アーマガルトにいた頃、ジェイと幕府の隠密部隊の戦いに何度か巻き込まれた事があるためだ。

 ジェイは心配いらない。即座に撤収準備。それが終わるまでにジェイと合流できれば良し。無理なら自分達だけで撤収。

 モニカはその経験から即座に取るべき行動を導き出し、テキパキと指示を飛ばす。

 忍軍に護衛されながら、モニカ自身も率先して後片づけ。エラも慌ててそれを手伝う。この辺りは経験値の差だろう。


 ジェイ達が到着したのは、そろそろ撤収準備が終わろうかというタイミングだった。

 倒木の音は連続してという程ではないが、不定期に聞こえ続けている。

 草の上に敷いていた行楽シートを持ち上げ、その下の影からジェイだけが顔を出した。不意を突かれたのか、エラがビクッと身を震わせる。

「大丈夫か?」

「こっちには誰も来なかったよ。ただ、音がちょっと近付いてきてるかも」

 対して平然と答えたのはモニカ。確信は持てないが、倒木の音が段々大きくなってきている気がするとの事だ。

 まだ片付けが終わっていないが、猶予はそれ程無さそうだ。そう判断したジェイは、まず影世界への避難を優先させる事にした。

「こっちも色々とあったが、先に影へ」

「分かった。皆、早く入って!」

 モニカがシートを持ち上げ、エラ、そして侍女と忍軍がまだ鞄に仕舞い込む前の荷物をそれぞれ抱えて影に『潜』って行く。

 続けてモニカが『潜』ると同時にシートが地面に落ち、最後にシートそのものが地面に引きずり込まれるようにして自らの影に消えて行った。


 影世界に入った面々、忍軍と侍女は早速片付けの続きを始める。

 近くに影を作るのが草ぐらいしかないため影世界から外の様子を窺うのが難しい。

 逆に外を見ようとしなければ、近くで『絶兎』の魔法を使われても影響が無いだろう。そういう意味では安心である。

「あ~……」

 そしてモニカは、捕らえられた誘拐犯達を見て「やっぱり」と言いたげな顔になった。トラブルがあった事自体は予想していたのだろう。

「へ、陛下!?」

 エラは、アルフィルクの姿に気付いて驚きの声を上げた。エラは宰相の孫娘だけあって子供の頃から宮廷に出入りしており、彼とも面識があった。

 アルフィルクの方も、知り合いの顔を見てホッとした様子だ。ジェイに対する憧れはあるが、安心感はまた別のようだ。

 エラはすぐさま駆け寄り、アルフィルクに怪我等が無いか確認する。

 きつく縛られた跡や、かすり傷等はあったものの、大きな怪我はしていないようだ。

「一体何があったの?」

「陛下を誘拐したこいつらが、森の中で仲間と落ち合ってた。現状分かっているのはそれだけだ」

 安堵したエラが問い掛けると、ジェイは影で拘束している誘拐犯達に視線を向けながら答えた。

 実際どうやって誘拐したのか。宮廷に手引きした者がいるのか。その辺りは分からない。

 分かる事があるとすれば、転移できる『絶兎』が実行犯でないという事ぐらいであった。転移を使って拉致すると、その魔法の特殊性から犯人が絞られてしまうからだと考えられる。

「エラ、陛下を守っているのは『春草騎士団』だよな?」

「ええ、そうだけど……」

「あっ……愛染は出掛けておったのだ」

 ジェイの言葉に責めるニュアンスを感じ取ったのか、アルフィルクが愛染を擁護した。

「つまり、出掛けている隙を突いた……?」

 話を聞いていたモニカが呟くと、ジェイは「有り得なくはないな」と頷く。

「もう誘拐されたって話は伝わってるんでしょうか?」

「それは流石に伝わってると思うわ。愛染様が不在でも、他の春草騎士はいたでしょうし」

「つまり、今も探してるって事か……」

 ジェイが上を見上げる。今は外の様子を窺う事ができない。

 『添』がそのままならば『絶兎』の位置をリアルタイムに把握できたが、それも望めない。

「多少スピードが落ちるだろうが、外の様子を窺いながら帰ろう。もし愛染団長が『風の丘』に向かっていたら、見付けて止めないと」

 外の世界と影世界、ジェイ達が愛染達に気付かずすれ違ってしまった場合……愛染達が『絶兎』と遭遇してしまう可能性が有る。

 愛染達の実力は分からないが『絶兎』の魔法は危険だ。何も知らないままでぶつかれば危ないだろう。それは防がねばならない。

 ジェイ達は外の様子を窺える大きさの影がある場所を探しながら、少し遅いペースで帰路に着くのだった。

 今回のタイトルの元ネタは、テーブルトークRPGのシステムのひとつ『シャドウラン』です。


 『魔神殺しの風騎委員 世界平和は業務に入りますか?

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