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第187話 風の吹く丘

 モニカの提案を受けたジェイ達は、翌日は学園が休みだった事もあり皆で出掛ける事にした。

 獅堂には眉我、忍軍には冷泉家を通じて『神愛の家』を探ってもらっているが、日帰りならば問題無いだろうという判断だ。明日香に気晴らしが必要だったというのもある。

「ねえ、ジェイ君。獣車と魔法、どっちが速いの?」

「速さだけなら魔法じゃないか?」

 現在家は監視されているため、獣車は残したまま影世界で魔法を使っての移動となる。

「でも、魔法だとそんなに遠くまでは行けないでしょ?」

「そりゃ、まぁ」

 かなりのスピードが出るが、無限に使える訳ではない。そのため、行ける範囲は限られている。

「それなら……」

 と言う訳で、行き先は内都郊外にある小高い丘『風の丘』となった。エラが子供の頃から何度も行っているというオススメの場所である。


「ね、ねぇ……これ大丈夫なのよね?」

 エラが不安気に尋ねた。

 相も変わらずモノクロな影世界を進むジェイ達一行。

 今回は獣車を使わず徒歩なのだが、現在彼等は獣車以上のスピードで移動している。

 これもジェイの魔法によるもの。影世界は、文字通り影で構成されている。魔法でそれを動かして自分達を動かしているのだ。

「まぁ、慣れてないとそういう反応になるよね」

 モニカの言葉に四人の忍軍達が揃ってうんうんと頷いた。

 慣れているモニカは、ジェイの隣で高速で流れるモノクロの風景を楽しむ余裕があった。忍軍達も同じような様子だ。

 エラは前述の通り不安がっており、ジェイの背にしがみ付いている。

「すごい! すごいですよ、ジェイ!」

 対して明日香は、こんな高速移動は初めての体験だったが怖がる様子は無く目を輝かせていた。

 今回は明日香とエラの侍女も同行しているが、彼女らはそこまで肝は据わっていないようで、戸惑いつつキョロキョロと流れる風景を見ていた。

「この高速移動……! お父様との戦いでも使ったんですか!?」

「『潜』ってはいないけどな」

「おぉ~~~♪」

 楽しそうにジェイの周りをちょこまかしている明日香。

 影を操るというのは『影刃八法』の基本であり、応用の範囲は広い。「影に乗っての滑るような高速移動」もそのひとつであり、龍門将軍との戦いでも使われたものであった。



 そのまま何事も無く、一行は『風の丘』へと到着。

 エラは移動中緊張していたのか、影から出てきたところでへたり込んだ。

 彼女の侍女は流石プロと言うべきか、テキパキと休憩する準備をしている。

 明日香は解き放たれた大型犬のように野に駆け出し、侍女が慌てて追い掛けて行っていた。

「元気だね~」

 モニカはジェイの隣を確保しつつ、少し呆れ気味にその後ろ姿を見送っていた。

「それにしても、他に人はいないみたいだな」

 周囲を見回しながらジェイが言う。エラが何度も来ているという話なので、内都の人達には有名な行楽地かと考えていたが、辺りに人影は無かった。

「平日だからじゃない?」

 モニカが言う。今日華族学園は休みだが、世間一般的には休みではない。

「それもあるでしょうけど、ここは元々有名な行楽地という訳でもないのよ」

 そう補足したのは、侍女が用意した行楽シートに腰を下ろして一息ついたエラだった。

 少し前までは騎乗の練習で使われており、エラもそれが切っ掛けで知ったそうだ。

「ほら、あそこを見て」

 そう言って彼女が指差した先では、草原が途中から茂みに変わっており、その先には森が広がっているのが見えた。

「あの森から魔物が出て来たら危険じゃないかって言われるようになって、騎乗の練習は別の場所を使うようになったのよ」

「ああ、そういう事か」

 しかし吹き抜ける風が心地良く、この場所を気に入っていたエラは、その後も度々ここを訪れているそうだ。ちなみに魔物を見掛けた事は一度も無いとの事。

 今は毎日監視されている状況だから丁度良いのではないかと紹介してくれたそうだ。

「魔物っ!?」

 話が聞こえていたようで、明日香がドビュンッと勢いよく戻ってきた。勢い余ってジェイに飛び付いているのはご愛敬である。

「ジェイ、ジェイ! 狩りに行きましょう!」

 そして頬を寄せ、甘えた声で提案、いや、おねだりしてくる。

 本人としては遊びに行こうぐらいのノリなのだろうが、それはまかり間違っても一般的な遊びではない。狩猟は華族の嗜みと言われているが、それは領地を守るための戦いでもあるのだ。

「いや、実際にいるかは分からんぞ」

 魔素の濃度がそれなりにありそうなので、探せばいるかも知れない。

 しかし、探すのは大変そうだとジェイは感じていた。

「それに狩りって、弓は用意しているのか?」

「もちろん!」

 明日香がそう言うと、背後に控えていた侍女が鞄の中に入っていた筒状のケースから弓を取り出して見せた。

 中に入っていたのは折り畳み式の弓。これは武闘派華族であれば備えとして持ち歩いてる者も珍しくない弓であり、明日香も例外ではなかった。

「ま、いいんじゃない? ボク達はここで休んでるし」

「そうね。今日は明日香ちゃんの気晴らしなんだし」

「しょうがないな……よし、行くか!」

「はいっ!」

 モニカとエラも賛成したため、ジェイは明日香と一緒に狩猟に行く事にした。当然明日香の侍女は付いて来るため、忍軍四人をモニカとエラの護衛に残し、三人で森に入る事となる。

「ジェイの弓は?」

「魔法が有る」

 なお魔法使い、中でも攻撃的な魔法が使える者は、そういう備えの武器を持ち歩いていない事がほとんどだ。ジェイはそちらの意味では例外ではなかった。



 一方その頃、宮廷ではある事件が起きていた。

 と言っても城内は平穏なもので、騒ぎにはなっていない。


 すなわち、それだけ重大な事件が起きたという事だ。


「……迂闊!」

 悔し気な声を漏らしつつ、早足で歩を進める愛染。彼がその報告を受けたのは、集会の件の調査のために町に出ていた時だった。

 報告に来た部下と共に、他の部下達と合流して騎獣を受け取る。細身ながらも機動力に優れた優美な騎獣だ。

 急いでそれに跨った愛染は、数騎を引き連れて駆け出した。

「私がお側に付いていれば、このような事には……!」

 愛染の下に届いた報告、それは少年王アルフィルクが宮廷から拉致されたというものだった。彼の不在の隙を突いた形だ。

 これは偶然なのか。それとも狙われたのか。狙われたとすれば、どこから情報が漏れたのか。次々に疑問が浮かんでは消えていく。

 ハッと今はそれどころではないと気付いた愛染は、手綱をギュッと握り直す。

「追跡は!?」

 余計な情報を振りまかないよう端的に尋ねる愛染。

 部下も心得たもので、必要最低限の言葉で答える。

「それらしき獣車が……『風の丘』に!」

 一旦森に身を隠し、後に脱出を図る気か。或いはそこで仲間と合流するのか。

 手綱を握る手に力が入った愛染は、更に騎獣を急がせるのだった。

 龍門将軍との戦いは、1巻の加筆部分に入っています。



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― 新着の感想 ―
[一言] ここで偶然にも事件への対応が間に合う形になるのか…? というかここで少年王を助けたらまたキラキラした視線向けられるなw
[一言] なんだかもう実は魔神でも絡んでいるんじゃないかと思い始めました。 ジェイ達は間違いなく疑われるでしょうけど、どうやって回避するのか…。
[一言] またしても何も知らないジェイ一行…… 憧れの英雄に救けてもらえたなら、誘拐も良い想い出になるかも?
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