第185話 交差する捜査線
それはそれとして、ひとつ聞き逃せない事があった。
「寄付……ですか?」
忍軍の一人が問い掛けた。すると住職は、少し困った様子で眉をひそめる。
「ええ、まぁ……と言っても、我が寺にではないのですが」
「菩提寺以外に? それは不義理ではないのか?」
「あ、いえ、若様が寄付していたのは孤児院でして……ここではやっていませんから」
それは義理に欠けるのではと不快そうな反応を見せた獅堂。住職は慌ててフォローを入れた。
「そうですね、あれは御両親を立て続けに亡くされてしばらくしてからでしたか……御自身も天涯孤独の身になって思うところがあったのかも知れません」
しみじみ言う住職に、獅堂は一転して同情的になっていた。
しかし忍軍の二人にしてみれば、家に来て主人に喧嘩を売ってきた男というイメージが強く、なんとも言えない複雑な表情を顔を見合わせている。
「御住職殿、その話極天騎士団には?」
「いえ、この話は……個人的な話、ですし……」
そこまで言ったところで、住職はハッとなって口元を手で隠す。プライベートな事情を話し過ぎたと思ったのだろう。
「あの、この事は御内密に……」
「いえ、調査で来てますので」
「…………ですよね」
おずおずと問う住職に対し、獅堂はバッサリであった。
「もちろん、公言はしませんので」
ストレートな物言いだが、それだけに嘘ではないと感じさせる。住職は少しでも事件解決につながるならばと自分を納得させたようだ。
華族の寄付というのは、皆やってるとは言わないがそう珍しいものでもない。
しかし、今までやっていなかった事を急に始めたとなると、そこに心境の変化があったはずだ。
その理由は何か? 忍軍達は、それは見逃せない情報だと感じていた。
「獅堂殿、その孤児院気になりますな」
「なるほど……御住職殿、どちらの孤児院かは分かりますか?」
「そ、それは……」
「眉我を殺した犯人を突き止めるためにも!」
先程口を滑らせたばかりなため躊躇していた住職であったが、獅堂の真っ直ぐな態度に抵抗を諦めたのか、力無く肩を落として口を開くのだった。
一方その頃ジェイは、ポーラの魔法である『青の扉』を潜ってアルマの領主屋敷に赴いていた。
元ロシェル村代官、世木の不正に関する調査に進展が有ったため、その報告を受けに来たのだ。
「世木の送金先を突き止めました」
「……あの、母上?」
まとめられた資料を指差しながら説明しようとするポーラ。ジェイはそれを遠慮がちに止める。
無理も無い。なにせポーラは、腰掛けるジェイの後ろから抱き着いているのだから。書類を指差しているのも、肩越しに手を伸ばしている。
体重を掛けられているというのもあるが、それ以上に比類なき双丘が彼の後頭部に押し付けられていた。頭が半ば埋まっている状態だ。
「どうかしましたか?」
「…………いえ、何も」
「では、続けますよ」
対するジェイは、あまり厳しくは言えずにいた。アルマ代官を任せてしまっているため、離れ離れになってしまっているからだ。
ポーラとしては久しぶりの親子のスキンシップ。遠慮する理由も無く、上機嫌で話を続ける。
「まず世木の送金先ですが……輸入雑貨を扱う貿易商でした」
「そこで調度品でも?」
華族の贅沢としては、割とありがちな話である。華族の社交の世界では、所有している調度品によって格付けされたりする事も有るのだ。
そのためにちょっと無理をして……というのも珍しい話ではない。世木の場合は、無理どころの話ではなかった訳だが。
「私もそう考えたのですが……違ったようです」
資料の一点を指差すポーラ。その動きでジェイの後頭部を挟むボリューム溢れた肉も動く。
視線がズレてしまったジェイだったが、すぐに戻して該当箇所を読んだ。それは代官屋敷に残されていた調度品のリストだった。
そのラインナップは代官相応、いや、それよりもやや質素と言ったところか。まかり間違っても不正蓄財で調度品を買い漁った者のそれではない。
「となると……送金していただけ?」
思わずポーラの方へ視線を向けようと顔を上げるジェイ。後頭部が更に深く埋まる。
「そのようですね。何度も、繰り返し、送金していたようです」
「ローン、か……?」
何か高い買い物をしたのではと調度品リストに再び目を通すが、それらしい物は見つからない。
「いえ、どうもその貿易商は、活動実績がほとんど無いようです」
つまりは貿易商自体がダミーだったという事だ。送られた金は、そこから更に別の場所へと移されていたのだろう。
「……本当の送金先は?」
「それは……」
ハッと息を呑むジェイ。
ポーラが口にした名、それは獅堂が住職から聞き出したものと同じ名であった。
その後ジェイは、すぐに学生街の家へと戻った。ポーラが何か言いたげな顔をしていたので、また近い内に顔を出すと約束して。
丁度その頃に獅堂が戻ってきたため、居間で集めてきた情報を確認する。
「……『神愛の家』?」
「それって……」
「フライヤ先生の孤児院じゃないですか!?」
そしてジェイ達は知った。眉我が寄付していたのも、世木が不正で得た金を送金していたのも、どちらも鎧の着付け講師フライヤが運営する孤児院である事を。
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