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第184話 DEF

 ドリューの家を出た獅堂は、早速エルトンの家に向かおうとする……が、忍軍に止められて、まずは先触れの使者を出す事にした。

 基本的に暇をしている隠居。今日も打毬をするために競技場に行っている事が分かったため、獅堂達はそちらへと向かう。


「眉我? ああ、あの殺された。面識は無いが古巣の話だから少し調べているぞ。まったく、極天騎士とあろう者が情けない……!」

 同じ愛好会の誼ですぐにエルトンに会う事ができた。

 風騎委員の臨時部隊に選ばれたと聞くと、我が事のように喜んでくれる。

 そんなエルトンは、年齢の割にはガッシリした体格で、長い顎鬚を蓄えた威厳のある人物だ。

 元極天騎士だが、現場叩き上げと言うか出世とは縁の無い平騎士だった彼。隠居してからの方が威厳が出てきたなんて言われたりしているのはここだけの話である。

 とは言え趣味の時間をわざわざ中断して会ってくれたのは、獅堂だからこそであろう。

 これがジェイであれば、終わるまで待つか、後日改めてという事になっていたはずだ。

「眉我の推薦人は分かりますか?」

「推薦人? ああ、誰が推薦したんだと調べたぞ。富岳卿だったはずだ」

 あんな情けない奴を推薦するなと文句を言いたくなって調べたらしい。

 と言っても糾弾するとか仰々しいものではなく、スポーツ観戦をしながら愚痴るようなノリに近く、実際に行動には移していない。

「富岳家か……」

「宮中伯だな」

 相手がそれなりに大物だったから、できなかったとも言う。

「……会えますかね?」

 獅堂も宮中伯と聞いて及び腰になる。

「それこそ隊長か風騎委員長に頼みなさい」

 それに対し、すぐさま助言をしてくれるエルトン。彼は元極天騎士であると同時に、元風騎委員でもあった。


 相手が宮中伯であれば、ジェイの冷泉宰相とのコネが有効だ。

 冷泉宰相も今回の件は気に掛けていたようで、すぐに富岳と会えるように取り計らってくれた。

 その際にジェイが中央と地方の対立に関わる気が無いと聞いて、こっそり胸を撫で下ろしていたりする。

「眉我の推薦? ああ、あれは父がやった事だ」

 と言う訳で獅堂は、翌日富岳家を訪ねたが、推薦した本人と会う事はできなかった。一昨年の冬に亡くなったとの事だ。

 その息子だと言う今の富岳家の当主は、獅堂の父よりも少し若いぐらいの年頃だ。お世辞にも強そうには見えない。典型的な役人、獅堂はそんな印象を抱いた。

「眉我とは、どういう関係だったのでしょう?」

 冷泉宰相が事前に話を通してくれているのも有り、ズバズバと切り込んでいく獅堂。

「彼の親に頼まれたと聞いている。本人との面識はどうだろうな? 少なくとも私は無い」

 富岳は一瞬眉をピクリと動かした。しかし冷泉宰相の紹介という事も有り、包み隠さず答えた。

 推薦した本人が墓の中であるため、元々答えられる事がほとんど無いというのもあったが。


 これ以上の情報は得られなさそうだと判断した獅堂は、お礼を言って富岳家を後にした。

 続けて眉我の親に会おうと彼の家を訪ねたが……。

「留守か?」

「いえ、これは留守と言うか……」

 獅堂の疑問に怪訝そうな顔をして答えた忍軍だったが、彼はその感覚を明確に言語化する事ができなかった。

 もう一人の忍軍が近所の人達に聞き込みに行ったところ、ある事実が判明した。

「両親は既に亡くなっていたみたいですね。他の家族もいないみたいです。仕えていた者達も既に離散しているようで……」

 なんと、眉我は天涯孤独の身だったのだ。そう、眉我家は既に断絶。この家に住む人はもういないのである。忍軍は言語化できなかった感覚の正体を知り、納得した様子だ。

 しかも近所の人達によると、眉我はプライベートで親しい相手がほとんどいなかったとの事。極天騎士団の調査も進まないはずである。

「ここで情報が途切れるのか……!」

 獅堂は、思わず眉我邸の前で天を仰いだ。

 更に近所の人から得られたのは、極天騎士団もその辺りの事を聞いていったという情報。彼等もここまでは調査していたらしい。

「……つまり、ここまでの調査は無駄だったという事か?」

「いえ、決してそんな事は……」

「この件が極天騎士団から伝えられなかったのは事実ですし、無意味という事はありませんよ」

 ショックを受けた様子の獅堂。忍軍はフォローしようとするが、極天騎士団の調査を再確認しただけなのは事実なので勢いが無い。

「それはそうなんだろうが……ハァ、まぁ、仕方ない。帰るか」

 そう言って踵を返す獅堂。しかし、数歩進んだところで足を止めて眉我邸の方を振り返る。

「…………」

「どうかされましたか?」

「……いや、任務でここに来た訳だが、これも何かの縁だ。誰も参る事の無い墓、せめて手を合わせていくか」

「ああ、なるほど……」

 家が断絶したと聞いて哀れに思ったのか、獅堂は眉我家の墓を参拝しに行こうと言い出した。

 彼としては、故人について探りを入れた後ろめたさもあったのかも知れない。

 やる必要が有るかと言えば無いが、断る事でも無い。忍軍は互いに顔を見合わせて頷くと、眉我家の墓所がどこか調べるため聞き込みに動き出すのだった。



 眉我の両親の方はそれなりに交友関係が広かったらしく、墓所の場所はすぐに判明。

 この国では召喚された武士達の影響で寺社が有り、眉我家の墓も併設された墓地にあるとの事。尋ねてみると年老いた住職自ら案内してくれた。

「眉我家が断絶して、もう参る人もいないと思っていましたが……」

 獅堂達が恭しく手を合わせると、住職はしみじみした様子で呟いた。

 忍軍の一人が縁戚は?と尋ねると、住職は黙って首を横に振る。

「眉我の若様は、立て続けにご両親を亡くして苦労しておられましたが……まさか、あのような事になるとは……」

 菩提寺として付き合いの長い住職は、沈痛そうな面持ちで顔を伏せている。

「任せてください!」

 声を張り上げたのは獅堂。落ち込む姿を見ていられなくなったのか、殊更に元気付けるように力強い声だ。

「我々は今、眉我の事件を調べています! 必ずや犯人を捕らえてみせます!」

「おお、かたじけない……! 眉我家の無念をお晴らしください……!」

 死ぬ間際に問題を起こした事もあって、この墓を訪れる者もほとんどいなかったのだろう。

「最近は積極的に寄付をするなど、眉我の若様も……!」

 しかし住職から見れば、子供の頃からよく知っている若様なのだろう。それだけに獅堂の力強い言葉に感動しきりだ。

 その様子を見ていた忍軍は、獅堂のこういう所が『打毬愛好会』のお年寄り達に可愛がられているのだろうなと思いながら再び顔を見合わせるのだった。

 D ドリュー

 E エルトン

 F 富岳


 ちなみにABCが


 A エイダ

 B ビアンカ

 C シャーロット


 のクラスメイト三人娘です。




 『魔神殺しの風騎委員 世界平和は業務に入りますか?

 ~勇者と魔王の魂を受け継いだ俺ですが、そこまで責任持てません~』


 電書版、ピッコマ様の方で『¥0+』というのが始まっております。

 詳しくはこちらのツイートで。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あの感じで菩提寺に寄付なんてするかな? [一言] 天涯孤独でボッチ気味って眉我くんさぁ……、犯人にとって都合良すぎでしょ
[気になる点] 最近は積極的に?・・・・・ 途切れたはずの糸が確かに今ここに!
[一言] 獅堂のお墓参りに行こうというのが忍軍とは違いますね。 やはり身分の違いもあって考え方も少し違うのかな。
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