第183話 おじさんの知恵袋
独立部隊の隊員となり、早速調査を始める獅堂。彼には鉄火場を連れ歩けるような従者はいないため、ジェイからアーマガルト忍軍を二人借りての調査となる。
まず訪ねたのは『打毬愛好会』のメンバー、ドリュー=中村=グリシナの屋敷だ。少々古さを感じさせる佇まいである。
「おや、ローディ君じゃないの。家まで来るなんて珍しい」
出迎えてくれたのは、侍女などではなくドリュー本人。
長身で細身、やや面長。そしてやや猫背だ。眠そうな目をしているが、これは普段からである。
この男を一言で説明するならば「軽い男」だ。普段の態度も軽ければ、立場も軽い。
宮廷華族なのだが、下っ端も下っ端の小役人との事。愛好会の中では比較的若い、まだ隠居していない現役当主である。
「前触れの使者も出さずにすいません、ドリューさん」
「いーのいーの、そんな大した家じゃないんだし」
しかしお世辞にも愛想が良いとは言えない獅堂にとっては、入ったばかりの頃にメンバーとの仲を取り持ってくれた恩人でもあったりする。
「えっと……そちらさんは?」
ドリューはチラリと獅堂の後ろに控える忍軍の二人を見た。彼は獅堂の従者を知っているので、不審に思うのも無理は無い。
「ああ、実は……」
獅堂は、風紀委員の臨時独立部隊の隊員に選ばれた事。隊長である『アーマガルトの守護者』の命で眉我の背後関係を洗っている事。そして、そのために愛好会の力を借りたい事を説明する。
「ああ、そゆ事……出世したねぇ」
連れている二人は、軽装だが良い防具を装備している。獅堂のお財布事情では雇えそうにないと思っていたドリューだったが、その話を聞いて隊長から借りたのだと納得した。
「……まぁ、立ち話もなんだから入りなさいな。そっちの二人も」
獅堂達が通されたのは、ドリューの書斎。調査で来たのであれば、仕事となるのでこちらで応対するとの事。
「おじさんってば入り婿だからさ、あんまり居間を占拠したりできないんだよね~」
「は、はぁ……」
笑顔で反応に困る話を振りつつ、ドリューは彼等を書斎へと案内した。
そして到着した書斎はこじんまりとした部屋だった。左右に大きな本棚が並んでいるので、余計にそう感じられてしまうというのもあるだろう。
部屋の奥に執務机。その手前には低めのテーブルとソファがある。ドリューは机の椅子を引いてテーブルの方に向けて座り、獅堂もソファに座るように促す。
忍軍は二人は、一人は獅堂の後ろに、もう一人は入り口の側に立った。獅堂が何も言わずともそう動く二人を見て、ドリューは微かに目を細める。
「それで、眉我……ってアレだよね。殺された極天騎士」
「ええ、昴……隊長は、今の町の騒ぎと関係しているかも知れないと……」
「ダメだよ~、隊長を呼び捨てにしちゃ~」
笑いをこらえながら突っ込むドリュー。
「でも、それは朗報だなぁ」
「えっ?」
「だってほら、そうでしょ? その眉我の事件でさ、その前の金貸しのもそうだけど。濡れ衣着せられそうになっちゃって『アーマガルドの守護者』が怒ってたら……」
「……ああ、なるほど」
今、町で起きている中央と地方の対立を煽る騒ぎ、その中心に地方側の代表としてジェイがいた可能性もあったという事だ。内都華族にとっては考えたくもない事態である。
「た、隊長は、そうしようと目論んだ者がいると考えております」
意識してしっかりした言葉遣いにしようと努める獅堂。それを見るドリューは、微笑ましそうににまにましている。
「それで背後関係を洗ってるのね」
「はい、ドリューさんは何か知りませんか?」
「眉我って人の事は知らないなぁ……」
ドリューは、腕を組んで天井を仰ぎ見ながら答えた。
しかし、そういう可能性も考慮の上だ。獅堂は更に話を続ける。
「では、愛好会の中に知っていそうな人は?」
「う~ん……エルトンさんなら?」
「あの髭がすごい?」
「そうそう、長い髭の。あの人ああ見えて元極天騎士よ」
「マジですか……」
エルトンと言うのは、愛好会の中でも古株の老人の事だ。既に隠居しており時間が有り余っているのか、獅堂的には「愛好会に参加すれば毎回いる人」である。
「驚いた?」
「え、ええ、まぁ……強そうってイメージは無かったので」
「ハッハッハッ、極天騎士は強さばっかり求められる訳じゃないよ」
騎士団ごとに目的が異なるため、求められる能力も異なる。
だからと言って全く戦えなくても良いという訳ではないが、外敵と戦う事を目的とした騎士団程の力は求められない。
それでも騎士団と言うと、どうしても「強い騎士」をイメージする人が多いのが現実だ。獅堂もまた、そういう一人であった。
なるほどと、次はエルトンに会いに行こうと考える獅堂。背後に立つ忍軍にも小声で伝える。
その様子をじっと見ていたドリューだったが、扉の側に控えていた一人が自分の方を窺っている事に気付くと、ばつが悪そうに頭を掻いた。
「あ~……ローディ君。君、隊員になったって事は聞いてるよね? 推薦状」
「えっ? ええ、まぁ。功績を挙げれば、書いても良いとは聞いてます。まだ考えてませんけど」
「眉我にもね、いたと思うよ。書いた人」
「はぁ……」
それがどうかしたのかと言いたげな獅堂。不思議そうに首を傾げている。
「あ~……つまり、なんと言うか……」
助言しようとしたのに理解してもらえない。そう言えば、こういう子だったと思い出し、もっと詳しく説明しようとする。
しかしその前に、後ろに控えていた忍軍が動いた。
「獅堂殿、おそらく眉我は、実力で騎士団入りした訳ではないでしょう」
「そりゃまぁ、あっさりやられた訳だしな」
「それでも極天騎士団に入れる。それだけ推薦状に力があった……という事だと思われます」
「…………なるほど! 誰が書いたか調べろと言う事か!」
ようやく理解したようだ。ドリューは大きくため息をついた。
「ありがとうございます! ドリューさん!」
「あ~……うん、がんばってね」
勢いよく立ち上がって頭を下げる獅堂。対するドリューはドッと疲れた様子で、ひらひらと手を振って応えた。
見張るようにドリューを見ていた扉の側の忍軍はと言うと、その表情はいつの間にか呆れ混じりの苦笑いに変わっていた。
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