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第18話 赤ペンモニカの添削指導

 自分が転生した事に気付いたばかりでまだ魔法を「不思議な力」と思っていた頃、ジェイが相談を持ち掛けたのは幼馴染のモニカだった。

 モニカは幼い頃から読者家で物知りだったというのもあるが、何より彼女ならば秘密を打ち明けられると考えたのだ。

 モニカは書物で得られた魔法の基本的な知識を伝えた。しかし、具体的な修行法などは『純血派』によって秘匿されていたため、それ以上の事は分からなかった。

 だが、モニカのおかげで魔法とはどういうものかを知ったジェイは、前世で見たファンタジー小説などの知識を元に、独自の修行法を模索していく事となる。

 どうしてそんな修行法を思い付くんだろう? そんな事を考えながら、密かに修行するジェイを見守っていたモニカ。

 少しでも手助けできればと更に魔法について調べていたところ、彼女は気付いてしまったのだ。自分も魔法を使える事に。

 それとなく父エドに尋ねてみたところ、モニカの母方の曾祖母が元華族であり、商家に嫁いでいた事が分かった。モニカも華族の、魔法使いの血を引いていたのだ。

 なお、当時の彼女はそれを聞き、自分でもジェイと結婚できるかもと思ったとか。

 そんなモニカは、魔法について調べている内に『純血派』についても知った。

 ジェイやモニカのように『純血派』の家系以外から魔法使いが発見された場合、『純血派』の家に婿入り・嫁入りさせられると。

 魔法が使えるとバレたらジェイと引き離されてしまう。そう考えたモニカが、ジェイに魔法の事を隠そうと提案したのは言うまでもない。

 おかげでモニカの魔法についてはいまだ本人とジェイ以外には知られていなかった。


 そんな彼女の魔法は、その名も『天浄解眼(てんじょうかいがん)』。名付け親はジェイである。

 その効果は「書面上に書かれた文章の間違っている箇所が、使用者にだけ赤く光って見える」という、傍目には地味な事この上ないものだった。

 しかし、今回のようなケースではモニカの『天浄解眼』が真価を発揮する。彼女の目には、一枚の書類が赤々と光って見えていた。

 他の面々には聞かれないよう、モニカはジェイに顔を近付け、耳元でささやく。

「他にも誤字とかあるけど、これだけは別。書かれてる項目、ほとんどが光ってる」

 この書類は、島に持ち込まれる物品を南天騎士団がチェックする際に作成される。

 項目は送り主、届け先、品名、品数、そして配送人とチェックした南天騎士の名前だ。

 その書類は送り主、品名、更に配送人までが、間違っていた。品名と品数が書類の半分以上を占めるため、モニカの目には書類が真っ赤に光って見えている。

 モニカは商人の娘だ。魔法で正しい答えは分からなくとも、間違っている箇所に何が書かれているかである程度は推理できる。

 まず送り主、ここが違っている場合は、違法品の密輸が絡んでいる可能性が高い。

 配送人も違うとなれば、ほぼ確実にと言っていいだろう。モニカがこの書類に目を付けたのも、それが理由だった。

 そして品名は、推理するための最大の手掛かりである。それでチェックを通っているという事は、その品に偽装していたという事なのだから。

 ジェイもモニカに顔を近付け、声をひそめて話す。

「品名は学生向けの図鑑か。このシリーズは、確か大きいヤツだっけか?」

「多分だけど……ページをくり抜いて、中に短剣を隠してたんじゃないかな」

 モニカが言う方法は、密輸の手段としては割とオーソドックスなものである。

 密輸したのが件の短剣かどうかはまだ断言できないが、モニカの目には他に大きく光っている書類は映らない。これが当たりである可能性は高いだろう。

「届け先は合ってるんだったな」

「うん、騎士団も後でチェックとかするから、架空の届け先を使うのは危険だし」

 店自体がダミーの可能性もあるが、それがモニカの目に光って見えないという事は、その場所に届けられた事は間違いないという事だ。

「……ジェイ、どうする?」

 モニカが恐る恐る尋ねてきた。この件を狼谷団長に報告するか、ひいてはモニカの魔法についても話すのかと尋ねている。

 やはりモニカは、魔法について知られるのが不安なのだ。特に『純血派』には。

「今晩、この店に忍び込む。何か証拠が見付かれば、魔法を抜きに報告できるだろう」

 そう答えるとモニカは目を輝かせ、ひしっと抱き着いてきた。

「むー! あたし達を忘れちゃダメですよーっ!」

 しかし、そこに明日香が飛び込んで来た。

 何やら内緒の話をしている内は訳有りなのだろうと黙ってみていたが、それで抱き着くとなると我慢できなくなったようだ。

 モニカの方も周りの人の存在を忘れ、明日香の乱入でそれを思い出したようで、パッと距離を取ってモジモジしている。

「と、とにかく片付けましょう。小熊さん、書類そのままにして行っちゃいましたし」

 ジェイも誤魔化し、エラも追及してこなかったため、そのまま書類を片付けていく。

「ジェイ君、ここは許婚として明日香ちゃん達もハグするべきだと思いませんかー?」

「……後でね」

 なおロマティが興奮気味に踏み込んで来たが、ジェイはそれを軽く受け流した。



 その後帰宅した一行。今日の調査はここまでという事にして、ロマティには夕食を一緒に食べた後、帰宅してもらう事となった。

 流石に書類にあった店への潜入捜査まで同行させる訳にはいかないからだ。

「良いもの見させてもらいましたー!」

 明日香とエラ、そしてモニカと、ジェイが一通りハグするのを見届けると、ロマティは満足気な顔をして帰っていった。

 問題はその後だ。エラが南天騎士団本部資料室での内緒話について尋ねてきた。

「え~……あんまり話したくないんだけど……」

「もしかして、『純血派』を警戒してる?」

「……そこまで分かってるなら、聞かなくてもよくない?」

「半信半疑だったけど、その反応で確信が持てたわ」

 噂に聞く『純血派』ならば、許婚でもまだ結婚していないならば、強引な手を使って引き離そうとしてくるかもしれない。モニカはそう考えているのだ。

 実際のところ、モニカの抱くイメージは、ゴシップなどで語られる『純血派』の影響を多分に受けている。

 というのも魔法使いの数が減ってきた今、彼等は王国華族の中でも少数派なのだ。

 それだけに数を増やす事に躍起になっているのは確かだが、だからといって宰相や辺境伯が絡む縁談に口出しできる程の力がある訳ではないのである。

「……まぁ、今まで隠していたのは間違ってなかったでしょうね」

「ですよねっ!」

 もっともジェイと許婚になる前ならば『純血派』が動いていたと考えられるので、今まで隠してきた事については、エラも正しい判断であったと考えていたが。

 更に言うと、『純血派』の中には、それこそ犯罪に手を染めてでも全ての魔法使いを手中に収めようとする者がいるかもしれない。

 エラもそう考えてしまうほど一般的にそういうイメージを抱かれているのが、今の『純血派』であった。

「え~っと……つまり、モニカさんは実は魔法使いだけど、大好きなジェイと離れたくないから、秘密にしておかないとダメって事ですか?」

「否定しないけど、もう少しオブラートに包んでくれないかなぁ!?」

 ストレートな明日香に、顔を真っ赤にして声を上げるモニカ。

 ジェイはそっぽを向いてコホンと咳払いをし、聞こえなかったフリをしていた。


「……ジェイ、今夜は四人で行こう」

「いいのか?」

 心配そうに確認するジェイに、モニカはコクリと頷いた。

「もうバレちゃったみたいだし……まぁ、二人になら良いかな」

 その後頬を染めながら、小声で「四人で家族になる訳だしね……」と呟く。

 ジェイは気付いていたがあえてそれを指摘せず、彼女の提案を受ける事にする。

 明日香は四人で行く事に乗り気だったが、非戦闘員であるエラの方は不安気だ。

「あの、私戦闘はちょっと……」

「エラ姉さん、大丈夫だから」

 しかし、モニカはそれを意に介さない。彼女もまた非戦闘員であるにもかかわらずに。

 何故ならば、彼女には確信があった。ジェイの魔法があれば、自分達が危険に晒される事は無いという事を。

「ジェイ、早速行っちゃう?」

 これについては百聞は一見に如かずだ。モニカはそれ以上は説明せず、準備ができ次第出発する事を提案した。

「そうだな。エラ、安心してくれ。俺の『魔法』が守るから」

「……信じますよ? 私、本当に戦えないんですから」

「ああ、信じてくれていい」

「嘘ついたらお仕置き、本当だったらご褒美ですよ?」

「……違いを具体的に」

 確認したところ、膝枕をするかされるかの違いであった。

 そういう態度が出るあたり、エラも納得して余裕が出てきたという事だろう。

 早速準備を整えて家を出る一行。そして厩舎に入ると、獣車が用意されていた。

「獣車で行くんですか? 目立ちますよ?」

 エラの疑問に、ジェイはニッと笑みを浮かべて答える。

「大丈夫。目立たないし、こいつは慣れてるから」

 そう言ってエラの背を押し、エラ、明日香、モニカの三人を乗り込ませた。

 そして自らは御者台に座ると、魔法の『力ある言葉』を発動させる。

「……『(セン)』……!」

 その言葉と共に、薄暗い厩舎の中で獣車が地面に()()()()()

「なっ!?」

 思わず声を上げて腰を浮かすエラ。対してモニカは、慣れているのか平然としている。

 明日香はというと、車窓を覗き込みながらすごいすごいと歓声を上げていた。

 そんな能天気な姿を見てしまうと、エラも騒ぐ気が失せてしまった。小さくため息をついて再び腰を下ろす。

「心配ないよ。ジェイの魔法はボクのなんかよりずっとスゴいから」

 モニカが自信に満ちた笑顔でそう言った。エラからすれば初めて見る笑顔だ。

 そしてエラは、すぐに気付いた。それがモニカ自身ではなく、ジェイを信じているからこそできる笑顔である事に。

「……少し、うらやましいですね」

 エラがそう呟いた時、獣車は完全に地面に沈み切り、後にはもぬけの殻となった厩舎が残されていた。

 今回のタイトルの元ネタは『進研ゼミ』の「赤ペン先生の添削指導」です。


 モニカの魔法『天浄解眼』の由来は四字熟語の「天網恢々」、悪人や悪事は決して取り逃がさないという、悪を戒める言葉です。

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[良い点] 更新乙い [一言] 監査の人達から熱烈ラブコールされるwww
[一言] ものすごいどうでもいい事なんだけども この世界にもオブラートってあるのね
[良い点] 意外にモニカさん乙女思考だったw [気になる点] 敢えて方法をばら撒いて魔法の 希少性を薄れさせる方が、案外 純血派の歯止めになるのでは? と思ったり。 後、この魔法、何をもって書類の内…
2021/02/17 20:51 退会済み
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