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第181話 シティコネクション

「でも、惜しいですよ!」

 明日香がそんな事をぼやいたのは、入浴中の事だった。

「何がだ?」

 そう返したのはジェイ。彼は湯舟につかり、明日香はその背に身体を預けている。そのためジェイは明日香の肩越しに覗き込む形だ。

「せっかくの好機なのに、ジェイは部下を作らないんですか?」

「……欲しいのか?」

「はいっ!」

 元気一杯の返事と共に、形の良い脚がお湯を跳ね上げて飛沫を飛ばす。

 そして密着させた身体をもぞもぞと動かすと、ジェイと向き合う体勢になった。

 明日香は豊かな双丘を押し付けつつ顔を近付け、真っ直ぐに彼を見つめる。

「一国一城の主! 一軍の将! 武士の誉れです! それは騎士も同じでしょう?」

「それは、まぁ……」

 言葉に力を込める度に、二人の間で柔肉が押しつぶされるように形を変える。ジェイは思わず視線を逸らした。

 明日香の言う事には一理有る。セルツ騎士も、その辺りは変わらない。

 問題が有るとすればジェイはどちらも既になっている事だろうか。

 それは明日香も分かっている。しかし、せっかくの栄達。この機を逃すのは良くないという考えが有るようだ。

「う~ん……」

 とは言え、これは安請け合いできるものではない。

 隊長となったジェイは、確かに部下を持つ事を許されている。この場合は、担当している調査を手伝ってもらう事になるだろう。

 しかし、それは同時に部下となる者に対して責任を持つ事でもある。

 たとえば自分を雇ってくれと言ってきた色部。仮に彼を部下とするならば、まず彼が風騎委員になれるように推挙しなければならない。

 それによって風騎委員になれた場合。彼が功績を上げればジェイも評価されるだろうし、逆もまた然り。責任を持つというのはそういう事である。それだけに慎重に考えなければならない。

 既に家臣がいるジェイだからこそそう考えており、明日香のお願いに即座に頷く事ができない理由であった。

「ジェイ~、ダメですか~?」

 それ故にジェイは、己に胸に感じる充実した柔らかな感触に、ただただ耐えるしかなかった。



「申し訳ありません。我々の立場では限界が……」

「いや、それは俺のミスだ。気にするな」

 なお二日後、そんな事も言ってられない状況になる。

 居間でジェイに頭を下げているのは、報告に戻ってきた上忍。内都で捜査を進めてみたが、思いの外情報が集まらなかったのだ。

 アーマガルトでも、ジェイの下で優秀な調査員として活躍してきた彼等。何故、今回に限って上手くいかないのか。

 原因は分かっている。彼等の立場だ。

 と言うのも彼等は、アーマガルトでは昴家直属の兵。領民に対して調査する正当性が有る。

 だが調査対象が華族となると、彼等は昴家と対等の立場という事になる。家臣の立場ではこれまで通りに調査する事ができなくなってしまうのだ。

 ジェイはこれを忘れ、いつもの感覚で彼等の調査を命じてしまっていたのだ。


 この問題を解決する方法は三つ。

 まずジェイならば「アルマ子爵家当主」の立場で調査できる。

 エラも「冷泉家の令嬢」として協力を要請するぐらいはできるだろう。

 前者は他家相手に渡り合える公的な立場を使う方法であり、後者は私的な立場で知り合いを頼る方法と言える。

 そしてもうひとつは……。

「ジェイ、ジェイ♪」

 明日香が目を輝かせてジェイを見ていた。

 そう、華族である風騎委員を部下にして調査を任せるのだ。

 ジェイは腕を組んで考え込む。明日香はその隣に移動し、期待の眼差しでその顔を覗き込んだ。

 今回の一連の事件は、今のところ中央と地方の対立を煽るためのものと考えられている。

 ジェイはエラとモニカに視線を向けた。

「……なぁ、黒幕にとって現状は思い通りに動いてると思うか?」

 エラとモニカは顔を見合わせる。

「どうかしら? 全部思い通りって事は無いと思うけど」

「いや~、肝心なとこがダメなんじゃないかなぁ……」

 そしてジェイの方に向き直った二人は、揃ってやんわりと否定した。

「だって、ジェイに濡れ衣を着せる事は失敗したでしょ?」

「うんうん、だからジェイが声上げてないし」

 町で集会を開いて、声を上げている地方勢力。そこにジェイが加わっていないのは片手落ちではないか。それが二人の意見だ。

「だよな……」

 うんうんと頷くジェイだがそこで表情を変える。

「だが俺が動けば同じ事をやってくる可能性が有る」

 今回彼が直接動かず忍軍に任せていたのは、それを恐れていたのだ。

 ジェイに濡れ衣を着せるため、彼と会った直後に殺されたオリヴァーと眉我。またジェイが動けば、第三の犠牲者が出るかも知れないと。

 だからと言って、エラに動いてもらうのも避けたい。危険だ。

 だとすれば、選べる選択肢はひとつ。ジェイが明日香に視線を向ける。すると彼女は何を言いたいのか察したようで、誕生日プレゼントをもらった子供のような満面の笑みを浮かべていた。


「さて、誰に頼むか……」

 当主であれば良いのだが、そんな例外はジェイぐらいしかいないので考えない事にする。。

 内都の華族に協力を要請できるぐらいに顔が利く事が第一の条件となるだろう。

 更に調査してもらうとなると、危険が有ると考えられる。当然忍軍を護衛に付けるが、本人も相応に強い者が望ましい。

「……ラフィアス、風騎委員になってくれないかな」

 真っ先に思い浮かんだのは、クラスメイトの魔法使いラフィアス=虎臥=アーライド。

 彼ならば『純血派』に対してコネが有るし、本人の実力も折り紙付きだ。

「いや~、無理でしょ。風騎委員やってくれるとは思えないもん」

 ただしモニカの言う通り、彼がこういう事に協力してくれるとは考えにくかった。

 顔が利くという意味ではロマティを筆頭に何人かの候補がいるが、実力面で躊躇してしまう者達ばかりである。


 ならば風騎委員の中から選ぶ事になるが……。

「内都で顔が利く人って誰かいるの?」

「……さぁ?」

 モニカの問い掛けに、明日香は首を傾げた。そして二人は、助けを求めるようにエラを見る。

「そうねぇ……個人的な交友関係までは分からないけど、実家が大きい人なら家の名前を使えるんじゃないかしら?」

「そっか、家の名前を出すんだね」

「風騎委員だと少ないんじゃないか……?」

「大きい家で、後継者じゃない人とかなら?」

 風騎委員は、卒業後騎士団入りを目指している者が多いため、家を継ぐ立場の者はそもそも入らない事が多い。

 そのため大きい家出身で風騎委員となると、後継者が別にいる家を継げない立場の者である事が多くなるのだ。

 エラとモニカは、連絡網である名簿を広げて、部下候補となる人を探し始める。

「……待てよ。あいつなら顔が広いんじゃないか?」

 その一方でジェイは、その条件には当てはまらないが、彼ならば内都で顔が利くのではという人物を思い出していた。

「ジェイ、誰か良い人いるんですか?」

「ああ、獅堂はどうだろう?」

 赤豹組のローディ=獅堂=レオニス。ジェイとは尚武会で手合わせした事が有る。

「ああ、あの子も風騎委員だったわね」

「でもあの人、マグドク出身じゃなかったっけ?」

 エラとモニカの言う通り。彼は内都出身ではないが『打毬愛好会』というものに所属している。

 セルツでは廃れつつある伝統競技、打毬。そのため愛好会メンバーは年配の騎士が多い。そう、ほとんどが内都華族の当主か隠居である。

 数少ない若者である獅堂。彼ならば愛好会メンバーに顔が利くだろう。

 何より武芸の腕については折り紙付き。彼ならば安心して調査を任せられるだろう。

「一度、声を掛けてみるか」

 問題は部下になってくれるかどうかだが、それは実際に話をしてみなければ分からない。

 まずはアポイントを取ってみようと、ジェイは手紙を書く準備を始めるのだった。

 今回のタイトルの元ネタは、ゲーム『シティコネクション』と、TRPG用語の「シティアドベンチャー」です。



 『魔神殺しの風騎委員 世界平和は業務に入りますか?

 ~勇者と魔王の魂を受け継いだ俺ですが、そこまで責任持てません~』


 電書版、ピッコマ様の方で『¥0+』というのが始まっております。

 詳しくはこちらのツイートで。

 https://twitter.com/HibihanaN/status/1690672191095107584



 物理書籍でお求めの方は、限定特典付きのこちらをどうぞご利用ください。


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[気になる点] 第44話だと獅堂は風騎委員ってことになってますが?
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