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第180話 アオハルデイズ

 『春草騎士団』、それは王城内の王家居住区を守る直属の護衛騎士団である。

 しかし、城内まで攻め込まれた事などセルツの歴史上一度も無く、彼等が直接剣を振るう事はほとんど無い。

 そのため実力よりも容姿の良さが求められるお飾りの騎士団、普段は居住区の庭園の管理を主な役目としているため『花園騎士団』と揶揄する者もいる。


 というのが表向きの姿。


 団長の愛染を含めた一部の騎士達は王直属の隠密であり。いわゆる「御庭番」の役割を担っていた。「春草」の「草」は「草の者」という訳だ。

 バルラは独自の手勢で調べたのだろうが、春草騎士団は王家ではなく王直属、本来王以外の王族はその正体を知らないものだ。

 本来ならば、春草騎士団が王以外の命令で動く事があってはならない。たとえそれが太后の命令であってもだ。

 しかし、今町で起きている異常は、放置していると国難と成り得るレベル。バルラの命令が無くても動かなければならないレベルだと判断する。

 まだ幼い少年王は、自主的に命令を出す事ができない。だが、形式を整える事はできる。

「……仕方ない、か」

 僭越ではあるが、アルフィルクと話をして命令を出すよう促すしかない。そう決意する愛染は、その整った顔立ちに苦渋の色を滲ませていた。



 王家居住区の奥まった場所に、王の部屋は在った。

「愛染!」

 部屋に入ってきた愛染を見て、アルフィルクはパァッと顔を綻ばせた。

 アルフィルクはテーブルの上におもちゃを並べて遊んでいた。テーブルも椅子も大人サイズで大きく、座るアルフィルクの小ささを際立たせている。

 テーブルを囲むように侍女達がいたが、愛染が手で合図を送ると恭しく一礼して退室していく。

「愛染、母上との話は終わったのか?」

「ええ、終わりましたよ」

 愛染は先程の苦渋は一切見せず、優し気に微笑んだ。


 彼は、このあどけなさを残した小さな王の忠臣であった。

 だが、その心に抱いていたのは忠誠と言うよりも、ある種の愛。親の愛に近い。もちろん、彼が本当の父親という訳ではないが。

 アルフィルクの父親である先代王カメーロ。彼と愛染は華族学園で同級生であった。

 カメーロは、歯に衣着せずに言ってしまうと遊び人、放蕩者だった。入学した時点でバルラとの婚姻が決まっていたにもかかわらず、夜な夜な町に繰り出しては遊蕩を繰り返していたのだ。

 当時の愛染は風騎委員だった。王族であるカメーロに対しても遠慮は無く、彼を補導したのは一度や二度ではない。

 何故かそれがカメーロの琴線に触れたらしく、いつしか愛染は彼から相談を持ち掛けられるようになっていた。

 町で遊蕩を繰り返すカメーロは、町のトラブルにもよく遭遇していたのだ。

 いや、見逃さなかったと言うべきか。

 ハッキリと言ってしまうと、カメーロの王としての評価は低い。『愚王』と呼ぶ人もいる。

 実績を上げる間も無く、若くして亡くなってしまったから仕方がないという面も有るが、やはり学生時代の遊蕩が評価に影響しているのだろう。

 しかし、間近で彼を見てきた愛染に言わせると、彼は決して愚かではなかった。

 何故なら彼が持ち込んできたトラブルの中には、彼が愚かであれば見逃してしまうようなものも混じっていたのだから。

 そのためか、彼の周りにはいつも人が集まっていた。施政者としては、決して有能という訳ではなかった。しかし、ある種のカリスマ性が有った。

 人の痛みが分かる、優しい王。そうなってくれると信じられたからこそ、愛染もカメーロが即位する際に、春草騎士団長になって欲しいという要請を受けたのだ。

 極天の武者大路や、南天の狼谷。彼等と比べて非常に若い団長である愛染。

 誰よりも、何よりも、王の一番近くを守る春草騎士団。その団長は王の信頼が無ければ務まらないのである。

 

「愛染、どうしたのだ?」

 愛染はいつの間にか物思いに耽っていた。アルフィルクが心配そうにその顔を覗き込んでいる。

「……いえ、なんでもありませんよ」

 貴方の父親が起こした一番大きなトラブルを思い出しておりました……などとは言えない。


 それは二人が二年生の時。愛染はその時の事を今でも覚えている。いつもへらへらしている放蕩者が、珍しく深刻そうな顔をしていた。

「……子供ができた」

「あら、めでたい話じゃないですか」

 カメーロはジェイ達と同じように、入学した時点でバルラと婚約していた。

 そのため子供ができたというのも、王国の慶事として扱われるものなのだが……。

「祝いの品は、すぐには用意できませんよ?」

「いや、気が早い。それは生まれた後で……って、そうじゃない! その……なんだ。バルラじゃないんだよ、子供ができたの」

 なんとカメーロは、婚約者のバルラではなく他の学生を妊娠させてしまったのだ。

「…………はぁっ!?」

 愛染は、思わず大きな声を出してしまったのを覚えている。

 そして直後に放蕩者のカメーロは、生真面目なバルラを苦手としていた事を思い出して頭を抱える事になってしまった。

 この件は風騎委員の手に負える話ではなく、学園を飛び越えて王家も巻き込む大騒動となった。

 最終的には宮廷が動き、バルラが正妃、妊娠した女子は側妃にする事で決着。そして側妃が産んだ子というのがアルフィルクである。

 その後、バルラとの間に子供ができる前にカメーロは崩御。唯一の子である幼いアルフィルクが後を継いだ。

 カメーロの少し前に実母も亡くなっていたため、血のつながりの無いバルラが太后として彼を支える事となったのだ。

 この時に生まれたアルフィルクがいなければ、カメーロは後継者がいないまま崩御し、王国は後継者争いで混乱する事不可避だっただろう。

 そう考えると、関係者一同なんとも言い難くなってしまう一件であった。


「愛染? 愛染?」

「あ、ああ……大丈夫ですよ、陛下」

 かたや血のつながりの無い、厳しく怖い母、バルラ。

 かたや亡き父の親友であり、父亡き後ずっと側に寄り添ってくれていた親代わりの騎士、愛染。

 幼いアルフィルクが、どちらに懐くかは言うまでもない。

 愛染にとってもアルフィルクは親友の忘れ形見。バルラは血のつながりの無い後継者に対しては複雑な心境のようで、時折敵意すら見せている。

 自分が、親友に代わって守らねばならない。愛染はそんな使命感を抱いていた。

 そのためには、彼が治める王国も守るべく動かなければならない。

「陛下、実はですね……」

 愛染は決意を新たにし、今王都で何が起きているのかを説明し始めるのだった。

 今回のタイトルの元ネタは、かつて「Nice boat.」で一世を風靡した『School days』です。



 『魔神殺しの風騎委員 世界平和は業務に入りますか?

 ~勇者と魔王の魂を受け継いだ俺ですが、そこまで責任持てません~』


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 詳しくはこちらのツイートで。

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