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第178話 任命!騎士隊長

「よし、行くか明日香」

「は~い♪」

 隙を見せないと言っても、家に引きこもっている訳ではない。

 ジェイはロマティを見送った後、いつも通り風騎委員として巡回に行った。

 商店街でも噂は伝わっているようで、人目が集まってきているが遠巻きにされている。これには町の人達と仲良しの明日香もしょんぼりである。

 その一方でジェイはと言うとどこ吹く風、その平然とした様は図太さを感じさせる程だった。


 それから数日、放送部は今回の件を「犯人は別にいる」と報道しているが、それでジェイの噂が収まるどころか、状況は予想外の方向に転がり出していた。

「中央は、辺境の雄を陥れようとしているー!!」

「王家の横暴を許すなー!!」

 商店街の一角に在る広場。そこで大声を張り上げながら集会をしている一団を見つけたのは、校外実習の帰り道だった。

 そのため白兎組のクラスメイトも一緒にいるのだが、エイダなどは扇で口元を隠しつつ露骨に眉をしかめている。

 明日香は、ジェイの袖をつまんでくいっくいっと引く。

「ジェイ、ジェイ、あれ何ですか?」

「……なんだろうな」

「他人の振りをしていていいのかい? 辺境の雄」

 予想はついていたが、とぼけるジェイ。それに対しラフィアスがツッコミを入れた。

「地方華族同士、仲良く巻き込まれるか?」

「……それは勘弁して欲しいな」

 すかさず反撃すると、彼はすっと視線を逸らした。


 そんな二人のやり取りを見て、色部も首を傾げる。

「結局、どーいう事なんだよ?」

「今回昴君が疑われた件を、中央による地方への弾圧だとこじつけて騒いでいるんですわ!!」

 その疑問に答えたのはエイダ。閉じた扇を色部に突き付けて怒りも露わだ。

 対する色部は、その勢いに若干引きつつジェイへと話を振る。

「そーなの?」

「……あれが弾圧だってのは、俺も初耳だがな」

 なお当事者であるジェイの反応はこんなものだったり。あれはあくまで眉我の暴走であり、極天騎士団、ひいてはセルツ王家の総意ではないと考えていた。

 更に言えば、そこの広場で行われている集会についても初耳である。彼等は当事者そっちのけで騒いでいるのだ。

「要するに自分達の不満を、『辺境の雄』の看板を使って主張しているのさ」

 ラフィアスが鼻で笑いながら言う。

 ちなみに白兎組は内都華族と地方華族が大体六四と、内都華族の方がやや多い。

 ジェイ達と特に親しい面々だとエイダ、それにロマティ、ビアンカ、シャーロット、そして色部も内都華族だ。

 この割合は一定ではなく、クラス内の力関係にも関係する。有力者がいる方が多くなる傾向が有るなど学園側が調整したりもする。

 白兎組の場合は、ジェイがより多くの内都華族と友好関係を結べるようにという意図が有った。

 そのためクラスメイトは、エイダのように集会に対して眉をひそめている者が多い。確かに内都華族から見れば、彼等の主張は言いがかりも良いところだろう。


 眉我暴走の一件、ジェイの疑い自体はほぼ晴れている。しかし、妙な所に飛び火していた。

「ならば、あれは止めた方が良くないかね?」

 ジェイが面倒な事になったと考えていると、オードが尋ねてきた。

「そうですね、早速!」

「待て、明日香。柄から手を放せ」

 割と物騒な手段で止めようとする明日香を、ジェイはその肩を掴んで止める。

「そうだよ、放っときなって」

 その一方でジェイの背に隠れているモニカは、放置しておいた方が良い、いや、触れたくないと考えているようだ。

「まぁ、下手に触れない方が良いでしょうね」

 それに同意したのはエラ。

 モニカの方は怖い、関わりたくないという気持ちが強そうだが、エラの方は騒ぎが大事になった場合、下手に関係が有ると話がややこしくなるという考えがあった。

「名前を利用されてるんですよ!?」

「されてないぞ、微妙に」

「『アーマガルトの守護者』じゃなくて、『辺境の雄』って言ってるのがミソですねー」

 ロマティが補足した。誰を指しているか丸分かりだが、ジェイ個人を示す言葉は使っていないという事だ。

「……もしかして、これが狙いか?」

 当のジェイは、自分が疑われてからのここまでの流れに不自然さを感じて首を傾げていた。

 明日香もジェイが乗り気でない事を察したようで、それならばと矛を収めて一行はそのまま学園に戻るのだった。



 それから更に数日。

 集会に対してはすぐに極天騎士団と南天騎士団が動いたようだが、その場は解散しても場所を変えて行われ続けており、いたちごっこの様相を呈していた。

 結果としてオリヴァーと眉我の件は調査があまり進んでおらず、停滞してしまっている。

 地方華族出身の生徒の中には、集会の主張に同調する者がちらほらと現れ出しており、最近は学園内でも賛同者を増やそうと活動している。学園もこの件については対応に苦慮しているようだ。

 幸い白兎組は、今のところ同調者は出ていない。一番の当事者であるジェイが無反応なので、下手に口出しできないと言うのも有るだろう。

 この日の放課後、ジェイと明日香は風騎委員長の周防に呼び出された。

「……来たか」

 風騎委員室に入ると、周防委員長が机に肘を突いた両手で口元を隠して待ち構えていた。顔の下半分が見えないが、眉間に深い皺が刻まれており、深刻そうな面持ちになっている事が窺える。

「もしかして、集会の件ですか?」

 その雰囲気に引きつつも、明日香が尋ねる。

「ああ、各所で集会が行われているため南天も人手が足りていない状態らしくてな。このチャンスを逃す訳にはいかない」

 風騎委員としては実績を積むチャンスは逃せないという事だ。

「……俺としては、あまり関わりたくないんですが……」

 ジェイの立場的には、今後の近隣領主との付き合いを考えると肯定も否定もしにくいのだ。

「ああ、分かっている。そこは無理強いするつもりは無い。風騎委員としては通常業務を蔑ろにする訳にもいかないからな」

「それなら……」

「そこで! 君にひとつ仕事を任せたい!」

 ジェイの言葉を遮って、周防は勢いよく立ち上がった。

「それはズバリ! オリヴァーと眉我の件の調査だ!」

「その件は、極天が……」

「進んでおらん!!」

 大きく両腕を広げて、バッサリである。

「卿ならば何か感じ取っているのではないか? 二つの事件で不自然に疑われた事と、今回の集会の件……つながりが有ると!!」

「そうなんですか!?」

「……まぁ、可能性ぐらいは」

 素直に驚く明日香。対してジェイは、確かにその可能性は考えていた。

 そもそも自分に冤罪を被せてどうしたかったのか。それ自体が目的ではなく、今のような状況に持ち込むための準備だったと考えれば納得がいくのだ。

「そこで! 君を騎士隊長に任命する!!」

「…………はい?」

 ジェイは一瞬、周防が何を言っているのか理解できなかった。

「……はっ!ジェイ、ジェイ! 風騎委員って正式名称は『威風騎士団』ですよ!!」

「……そう言えば、そうだった」

 風騎委員は学生騎士団。委員長である周防は騎士団長であり、当然騎士隊長も存在する。

 風騎委員的に騎士隊長と言うのは、少人数の調査チームを作る際に任じられるものだった。

「おそらく集会の件を追っていても真相にはたどり着けん!!」

「だから、委員長達が南天の手伝いをしている間に、俺達で調べろと……」

「ウム!!」

 力強く頷く周防。

 この騎士隊長は基本的に二、三年がなるものであり、一年生がなるのは破格だ。

 ジェイの能力を信じての抜擢だろうが、場合によっては極天騎士団に対応する事も考えられるので、彼でなければどうしようもないというのも有った。

 対するジェイがどうしたものかと考え込んでいると、隣の明日香が顔を覗き込んで来た。

「どうします? あたしとしてはやりたいんですけど」

「そうだな……」

 ジェイとしては集会をしている者達には関わりたくない。別件の担当になれば、そちらに触れずに済むという思いがあった。

 それに、この件を放置しているのもまずいとも感じている。

「……分かりました。隊長の件、引き受けます」

「よくぞ決心してくれた、ジェイナス君!!」

 ジェイが手を差し出すと、周防は両手で力強く握り返した。

 こうしてジェイは、風騎委員の騎士隊長としてオリヴァーと眉我の事件、ひいては中央と地方の対立を煽る陰謀の調査に臨む事になったのである。

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