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第177話 簡単(じゃない)推理だよ、ロマティ君

「状況を整理してみよう」

 帰宅後、ジェイはそう切り出した。

 ジェイ、明日香、モニカ、エラ、そしてロマティの五人で居間のテーブルを囲んで座り、テーブルの上にはロマティが持ってきた資料が並べられている。

 ジェイ達に直接取材させてもらう代わりに、放送部で集めた情報を提供すると言う取引である。

「と言っても、まだ情報は少ないんですけどねー。学園の人じゃないから」

 それに二件の殺人事件の被害者、及びその周辺の関係者の資料だ。本人も言っている通り、まだ穴だらけとの事。

 『PS(ポーラスチューデント)ニュース』の製作に参加するなどしていても、あくまで放送部は学園の組織。外の情報、ましてやポーラ島とは海を隔てた内都の話となると、少々手間が掛かるのだ。

 ジェイは被害者二人の顔写真を並べ、オリヴァーの方を指でトントンと叩きながら話し始める。

「一人目の被害者は、金貸しのオリヴァー」

「ジェイ君との面識は?」

「あの時が初対面だな」

 続けて明日香が、眉我の写真を指差す。

「こっちは極天騎士の眉我、失礼な人でしたね!」

「ジェイ君との面識は?」

「そっちもあの時が初対面だな」

「でも、どっちもジェイに会った直後に殺されてるんだよね……」

「…………」

 モニカの呟きに、皆が思わず無言となる。

 そう、どちらも初対面であるが、どちらも会った直後に殺されている。

 ジェイから見れば偶然の出来事だが、状況的にはジェイを怪しんでくれと言わんばかりだ。

「殺害方法は?」

「刺殺だそうです」

 傷跡からそう判断されたが、凶器は見つかっていないとの事。

 華族であれば帯剣ぐらいしているものなので、ここから犯人をたどるのは難しいだろう。


「それでお聞きしたいんですけど、二人とトラブルとかは?」

「眉我はともかく、オリヴァーの方は……トラブル起こしたのはフライヤ先生の方なんだよなぁ」

「孤児院運営は大変ですもんねぇ……」

 しみじみと言うロマティ。彼女の家である新聞の発行を任されている百里家も、慈善事業の一環として孤児院への寄付も行っているらしい。

「ロマティちゃんも知ってるのね。フライヤ先生が、その……」

「はい、今回の件で……」

 エラの指摘に、しゅんとなるロマティ。

 フライヤは、借金の件を学園側には知られないようにしており、今回の事件を切っ掛けにそれを知った放送部の面々は、見てはいけないものを見てしまったかのような気持ちになったとか。

 二人の関係者の情報を一通り見てみた。当然と言えば当然だが、ジェイにつながる情報は見当たらなかった。

「やっぱり、動機が無いですよねー」

 天井を仰いで呟くロマティ。つながりが無いという事は、殺すまでに至るような動機も無いという事である。

 眉我の場合は向こうから動機を作ったようなものだが、あそこまでやれば堂々と決闘を挑むレベルの案件だ。

 ロマティは家業の関係上、似たようなケースで決闘騒ぎに発展した実例をいくつも知っていた。

 急に広まった噂に関しても、この家の前での騒動を知った者達に「あれだけやれば眉我が恨まれるのも仕方がない」と思われたのも一因だと思われる。

 極天騎士団は、騎士の眉我がジェイに対して無礼を働いたという事は会見を開いて公開、それがテレビのニュースでも流された。

 しかしこれもジェイの疑いを晴らすのではなく、恨まれるのも仕方がないと思わせる一助となってしまっているのが現状であった。

「動機は無いけど、状況的には怪しい……って事ね?」

 確かめるように言うエラに、ロマティはコクリと頷いた。


 ここで明日香が、ハッと何かを思い付いてソファから立ち上がる。

「そうだ! 実は二つの事件が無関係って事はないですか? 二人ともジェイと会った直後に殺されてるからジェイが疑われてるんですよね?」

 きょとんとした明日香の言葉に、エラはハッと気付く。

「タイミング的に同一の犯人――ジェイが浮上していたけど……」

「……連続殺人じゃないなら疑いは弱まりますねー」

 ジェイが疑われている理由の半分ほどは、二人が揃ってジェイと会った直後に殺されたタイミングの悪さだ。

 仮に二件が無関係の事件だとすると、ロマティの言う通りジェイを疑う理由は弱まるが……。

「いや~……これ連続殺人でしょ」

 モニカが呆れ気味に、盛り上がる者達に水を差した。

 明日香は呆気に取られたが、ロマティはすぐさまメモ帳を手にしてモニカに尋ねる。

「モニカさん、どうしてそう思うんですか?」

 対するモニカは、しどろもどろになりつつ、考えをまとめて少し答えていく。

「いや、だって……ねぇ? 明らかに共通点あるし~。ほら……ジェイに罪をなすり付けようとしてるとことか……だよね? ジェイ」

 そして最後に、助けを求めるようにジェイへと話を振った。考えを巡らす事はできても、それを人に整然と説明するのは苦手なのだ。

 対するジェイは、モニカの断片的な説明から理解しようと推理する。そしてひとつの考えにたどり着いた。

「そうだな……急に噂が広まったのが気になる」

「色部君の言ってたアレですか?」

 そう、現場にいた色部が、今日まで噂を知らなかった。それ故にジェイは、噂が自然に広まったものではなく誰かが意図的に広めたものと判断した。

「ああ、あの噂は俺に冤罪を被せようとして広められたんじゃないか?」

「それは、まぁ……そうでしょうね」

 エラは同意するが、ならば誰が……と不安気にしている。

「一連の事件の裏に同じ意図があるとすれば……偶然が偶然じゃなくなる」

「偶然って……あっ!」

 明日香が気付いて声を上げた。

 二人ともジェイと会った直後という殺害時間。ジェイは偶然だと考えていたが、モニカの言う通りに冤罪を被せる意図があったとすれば別のものが見えてくる。

「事件の発生時間ですねっ!!」

 そう、ジェイが疑われるよう仕向けるため、わざと彼と会った直後に事件を起こした。

 モニカはそう考えたからこそ、二つの事件は同一人物が起こした連続殺人であると考えたのだ。

「そうなるとひとつ分からなくなる事が有る」

「なんでしょう? 私が調べますよー!」

 テーブルに手を突き、ずずいっと身を乗り出してくるロマティ。火が付いたのは記者魂か、好奇心か。目を爛々とさせせている。

「二人を殺す事と、俺に冤罪を着せる事。どちらが目的かだ」

「前者だと、単に罪を着せるのに手頃なのがジェイ君だったって事ね」

 ジェイから見ればとばっちりもいいところである。

「……それ後者だと、ジェイに罪着せるために無関係の人殺した可能性も有るんじゃない?」

 こちらは被害者二人がとばっちりだ。

「まぁ、俺も含めた三人全員がターゲットだった可能性も有るが、このまま二人を殺す動機を探していても真相にたどり着けない可能性も考えられるぞ」

「なるほど、それはまずいですねっ!」

 即座に納得した様子の明日香。

「分かりました、部長に伝えておきますー」

 ロマティも有り得ると考え、すぐにでも放送部に伝えるべきと判断した。

「じゃあ、放送部でも情報集めてみますんでー! 皆さんも気を付けてくださいねー!」

 こうなればじっとしていられないとロマティは帰って行った。帰り道に部長の家に寄って、この情報を伝えてくれるとの事だ。

「気を付けてって……」

「俺達を陥れようとしているヤツがいるなら、まだ何か仕掛けてくるかも知れないからな」

 一方ジェイ達はロマティを見送りつつ、冤罪を被せる隙を見せないように気を付けなければいけないと心をひとつにするのだった。

 今回のタイトルの元ネタはシャーロック・ホームズのセリフ「簡単な推理だよ、ワトソン君」です。



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