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第175話 騎士団員殺し

「た、大変だ! 眉我が殺された!!」


 その瞬間、周囲の騎士達がざわめき出した。

 眉我がジェイの家に行った事を知っているのか、何人かはチラチラとジェイ達の方を見ており、彼等もまた微妙な空気の変化を感じていた。

「落ち着け! 事件か? 事故か?」

 同じくそれに気付いた年配騎士は、慌てて報告を続けるよう促す。

「えっ……あっ、じ、事件です!」

「どこだ!?」

「大通りの……!」

 年配騎士にどやされて焦りを見せる若い騎士。彼の報告によると、内都の入り口から王城へと延びる大通り、そこから脇道に逸れた所で眉我が殺害されていたそうだ。

 チームで巡回中だった彼は、現場は仲間に任せて報告に戻ってきたらしい。

「こっちに戻ってきてなかったんですね……」

 ポツリと呟いたのは明日香。そう考えると、ここまでの極天騎士団の態度も納得である。彼等は学生街での眉我の言動を知らなかったのだ。

 そして、状況としては最悪に近い。昴家に対して無礼を働いた騎士が、その帰り道に殺された。

 この状況は、ジェイにとって良いとは言い難い。極天騎士団が昨夜のオリヴァーの件でジェイを疑っているなら尚更だ。

「どうした?」

 極天騎士団長である武者大路が姿を現したのは、丁度このタイミングであった。


「なるほど、眉我が……」

 報告を受けた武者大路は、何か言いたげな視線をジェイに向けた。やはり状況的にはジェイが怪しく見えるのだろう。

 それを察したジェイは、武者大路よりも先に口を開く。

「こういう状況であるが、確認しておきたい。あの男の態度は、極天騎士団の総意か?」

「馬鹿を申すな。事情聴取の段階でそんな態度を取るか」

 極天騎士団は華族の不正に対処するのも役目であるため、相応に強い権限を持っている。

 しかし、その強さ故に権限を使える場面は限られている。そして今回の眉我の行動は、明らかにその範囲を逸脱していた。

「眉我の言動については申し訳無い……が、ワシは職務上問わねばならん……卿が斬ったのか?」

 その言葉を口にした瞬間、周囲がざわめいた。

 そんなストレートに尋ねて、ジェイを怒らせはしないかと考えたのだろう。

 明日香は平然としているが、エラはもう少し尋ね方があるのではと眉をひそめている。

 当のジェイはと言うと、怒るどころか呆れたような表情だ。

「斬るなら、堂々と決闘を申し込んでますよ」

「……まぁ、そうだわな。闇討ちした所で名誉は挽回できん」

 そしてため息をつきつつバッサリ。武者大路も予想通りの回答だったようで、太い腕を組んでうんうんと頷いている。

 この辺りは華族でなければ分かりにくい話なので説明しておこう。

 今朝の眉我の、証拠も無いのに犯人扱いしているような強硬な態度。侮辱は侮辱なのだが、華族的には「濡れ衣を着せられて昴家の名誉を汚された」という事になる。

 そのため眉我を討つにしても、それは昴家の名誉挽回もセットでなければならないのだ。

 そのためジェイ――昴家としては、ただ単に眉我を斬ればスルリと全て解決という事にはならないのである。

 もっとも華族と言えど人間。怒り狂えば冷静な判断ができないという事は有り得るだろう。

「…………」

 武者大路は、じっとジェイの目を見る。この年不相応の落ち着きを持った少年は、そんなヘマをするだろうか。

 とてもではないが、そうは見えない。そんな生易しい相手ではない。

 本人の言う通り、やるなら決闘を申し込んでただろう。

 その点から武者大路は、彼がやったのではないと判断していた。

 しかし、周りの極天騎士達は、ジェイをまだ疑っているかは半々と言ったところのようだ。露骨にジェイの背を睨み付けている者も何人かいる。

 周りを一瞥した武者大路はそれを察し、ジェイ達を自分の執務室へと通す事にした。


 ジェイ達が通されたのは、南天騎士団本部の狼谷団長の部屋と似たような造りの部屋だった。

 ただ調度品は部屋の主の趣味嗜好が出るらしく、こちらは全体的に無骨な印象を受ける。

 武者大路は奥にある机の椅子に座り、ジェイ達は部屋中央のテーブルを囲むソファに腰掛ける。

「スマンな。少々冷静さを失っている者がおるようだ」

「少々で良かったですよ」

「……だろうな」

 ジェイの裏の意図を察し、武者大路は大きなため息をついた。

 もし少々で済まずに攻撃を仕掛けるなどの行動に出ていた場合、ジェイは迷う事無く反撃に出ていただろう。同行者であるエラを守るために。

 なお明日香は、喜び勇んで共に戦うだろう。守る対象として扱えば残念がる事必至である。

「……私、来ない方が良かったかしら?」

「いや、お主がいるから抑えが効いているとも言えるぞ」

 なんとなく察したエラが不安そうな顔になるが、それにフォローを入れたのは武者大路だった。

 この二人、武者大路と冷泉宰相が同僚であるため、元々面識が有ったりする。

「まぁ、せっかくだし話を聞かせてくれ。昨夜のオリヴァーの件だが、会ったのは確かなのか?」

「ええ、『神愛の家』の前で……本当に疑われてるんですか?」

「状況的に容疑者の一人であったが……疑いは薄れたな」

「それは……何故?」

 意図が読めないエラは、不安気に尋ねた。

 対する武者大路は、苦笑しつつ答える。

「そこでどんなやり取りをしたかについては調べたが……あの程度で怒るほど、君の婚約者は生易しくはあるまい?」

「えぇ……」

 誤魔化す事無く、ハッキリと。

 オリヴァーはフライヤに対する態度は問題が有ったが、ジェイに対してはそうでもなかった。あくまで最低限の体裁だったかも知れないが。

 実際ジェイとしても、オリヴァーに無礼を働かれたとは考えていなかった。好感を持てるかどうかはともかくとして。

「でも騎士団の人達の中には、ジェイを疑ってる人もいますよね?」

 小首を傾げて、そう尋ねたのは明日香。

 彼女も周りの騎士の一部から睨まれている事には気付いていた。しかし、殺気を放つまではいってなかったので放置していたのだ。

「オリヴァーに関しては、今のところ他の容疑者が見つかっとらんのだ」

「眉我は?」

「状況的には怪しいが……動機がなぁ」

 実際ここで話してみた武者大路は、ジェイならば殺るにしてもしっかり状況を整えてから殺ると考えていた。


 そんな話をしていると、現場に残って調査を続けていた騎士の報告が届いた。

 それによると眉我は死亡してから少し時間が経過していたようで、殺されたのは午前中ではないかとの事だった。

「卿ら、午前中は何をしていた?」

「眉我の件で、そちらから詫びの使者が来るかもと待ってましたよ」

「…………そうか」

 眉我が無事に本部に戻って、武者大路が事の次第を知っていたら、大慌てで使者を送っていただろう。それだけに何も言えない。

 ひとつハッキリしているのは、彼の中では既にジェイは限りなくシロであるという事であった。

 今回のタイトルの元ネタは、小説『騎士団長殺し』です。


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