1巻発売記念SS「明日香の日課」
『魔神殺しの風騎委員 世界平和は業務に入りますか?
~勇者と魔王の魂を受け継いだ俺ですが、そこまで責任持てません~』
1巻発売中です。
龍門伊織明日香の朝は早い。
寝覚めが良い彼女は、目を覚ました彼女は、まず昨夜一緒に寝たジェイの存在を確かめる。抱き着き全身で彼を感じるという方法で。
「ジェイ~、あ~さで~すよ~」
抱き着いたまま、耳元でささやく。
あまり大きな声は出さない。ジェイが起きてしまうと、この時間が終わってしまうからだ。
ジェイはまだ起きないのを確認すると、明日香は仔猫が甘えるかのように身体をすり寄せた。それはもう嬉しそうに。
三人の婚約者の中でも随一の大きさを誇るたわわな果実。それを押し付けられては、ジェイの方も目を覚ます。
しかし、しばらくは寝たふりをしてされるがままになっているのがいつもの流れである。
しばしお互いに堪能し合ってから起きる二人。
身嗜みを整え、動きやすい格好に着替えると一緒に庭に出た。朝の日課である武芸の鍛錬を行うためだ。
朝の学生街、通りは清々しい朝の光に包まれている。耳を澄ませると、木剣を打ち合う乾いた音が聞こえて来た。
武芸の鍛錬は、ジェイ達だけに限らず将来武芸の腕が必要となる者、武芸で身を立てようと考えている者は皆やっている事なのだ。
ちなみにジェイと明日香が手にしているのは、木剣と言うより木刀に近い。
明日香はもちろんの事、ジェイも愛用の武器の刀身は刀に近いためだ。アーマガルトはセルツとダイン双方の影響を受けているためである。
準備体操を終えた後、庭で木刀を構えて対峙する二人。いつもの平静さを崩していないジェイに対し、明日香は普段の能天気さとは打って変わって真剣な面持ちだ。
婚約者であるジェイと共に腕を競い合い、そして高め合う。
明日香はこの時間が大好きだった。大好きだからこそ真剣だった。
「行きますよっ!」
その掛け声と共に飛び掛かる明日香。
振りかぶった木刀から繰り出される一撃。ジェイも木刀を構えて真正面から受け止める。
「相変わらず……強い!」
一瞬ジェイの顔に焦りの顔が浮かぶ。
幕府の姫でありながら、幼い頃から鍛えられてきたという明日香。父親が龍門将軍と考えると、当然の事かも知れないが。
単純に武芸の腕を比べるならば、ジェイと明日香の武芸の腕はほぼ互角。
速さはほぼ同等、技ではジェイが、力では明日香が少し上回っていると言ったところか。
一進一退の攻防、木刀を打ち合う音は速く、リズミカルにも聞こえてくる。
「二人とも~、そろそろ朝ご飯ができるわよ~」
「ごはんっ!?」
「ぅぉっと!」
エラが呼びに来ると、明日香は急に方向転換。自分からも攻撃を仕掛けて迎撃しようとしてたジェイは勢い余ってよろめくが、何とか堪えた。
互角に打ち合って決着が付かず、エラかモニカが呼びに来たら強制終了となる。
最後だけ見るとじゃれ合っているようにも見えるが、二人は真剣そのもの。彼等の模擬戦は、大体毎朝こんな感じで終わっていた。
ちなみにエラやモニカが呼びに来るのは、朝食が完成する少し前。
模擬戦とは言え真剣にやれば汗をかくので、朝食前に汗を流させるためだ。
「ジェイ、ジェイ! 早く行きましょう!」
「はいはい、慌ててコケるなよ」
軽くシャワーで汗を流すだけだが、エラ達を待たせている事もあって二人一緒に浴びるのも日課となっている。
鍛錬が終われば、いつもの明るく元気な明日香に戻り、シャワーの最中も甘えまくってくる。
ジェイはその猛威に耐えるしかなく、これはこれで別の鍛錬となっていた。主に精神方面の。
そんな二人を見送るエラ。明日香に手を引かれて行くジェイの後ろ姿を見て、エラはポツリと呟く。
「ジェイ君、一緒にお風呂に入るの平気になってきたわね……良い傾向だわ♪」
なお、エラがこの日課を止めずに見守っているのは、いざ自分達の番が来た時にジェイの心理的ハードルを下げるためだったりする。
しかし、それは彼女だけの秘密であった。
という訳で今週は、1巻発売記念SSウィークでした。
明日からは本編の更新に戻ります。
活動報告でキャラクターデザインラフを公開中です。
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