1巻発売記念SS「嗚呼、憧れの青春の日々よ」
『魔神殺しの風騎委員 世界平和は業務に入りますか?
~勇者と魔王の魂を受け継いだ俺ですが、そこまで責任持てません~』
1巻発売中です。
エラ=冷泉=ダーナ。『冷血宰相』とも呼ばれるセルツの重鎮、冷泉宰相の孫娘である。
ジェイと婚約し、卒業生であるにも拘らず制服を着て学園に通う彼女。
「美人だけど変な人」「変な人だけど頼りになる人」と、白兎組の面々からはそれなりに慕われていた。
そんな彼女だが、こうして卒業後に婚約して学園に舞い戻ってきたという事は、逆に言えば在学中は縁談が成立しなかったという事だ。
セルツ華族としてはトップクラスの家柄。変な人だが、間違いなく美人の器量良し。それが何故?と思う者は少なくない。
「どうしてエラ姉さんは、結婚しなかったんですか?」
それをストレートに尋ねた者がいた。
「ちょっ、明日香ちゃん!?」
そう、明日香である。モニカは慌てて彼女の腕を引き、エラから離そうとする。
そしてキョロキョロと辺りを見回すが、ここは自宅の居間。近くにエラの侍女がいたが、彼女は他所を向いたまま。聞かなかった事にしてくれているようだ。
「でもモニカさん、気になりませんか? エラさんが結婚できなかったなんて、同級生は見る目が無いですよ!」
当然の疑問ではあるが、本人に面と向かって尋ねる話ではない。
モニカは、明日香の腕を抱き寄せたまま小声で話す。
「そりゃそうかもしんないけどさー。ほら、事情があったかも知れないじゃない……グレてたとか」
「……聞こえてるわよ、モニカちゃん」
「ぴぃっ!?」
「……グレていた、という事はありませんでしたよ」
そのタイミングで、エラの侍女が魔草茶を差し出しつつフォローを入れてきた。
皆でお茶を飲んで一服し、心を落ち着かせる。
「……でも、まぁ、疑問ではあるよね」
ポツリと呟くモニカ。
「ジェイも疑問には思ってると思う」
「……そうかしら?」
「こんな美人が、どうして……って感じで」
「そ、そう……」
話題としては少々アレだが、美人と言われてエラも満更ではない感じだ。
もう一口お茶を飲み、一拍置いて、エラが話し始めた。
「私も結婚願望が無かった訳じゃないのよ。でも……」
「でも?」
明日香が首を傾げた。対するエラは、小さくため息をついて話を続ける。
「冷泉家というハードルがちょっとね……」
その言葉に、いまいちピンと来なかった明日香。モニカの方を見ると、彼女は理解できたようで「ああ……」と納得した様子だ。
「私の家って二人姉妹でね。あの頃は私が婿取りしないと~って考えてたのよ」
婿入りできるという事は、本来ならば家を継げない立場の者達。その婿入り先が内都華族の大御所である冷泉家となると狙い目なんてものではないだろう。
そういう事情もあって、入学当初のエラは非常にモテた。下心、打算込みの話ではあったが。
そしてエラは、近付いてくる者達が「冷泉家の婿」に相応しいかどうかを見極められるだけの聡明さを持ち合わせていた。
「……そのハードルの高さを理解できる人ほど寄って来ないのよねぇ」
「あ~……」
それを理解できずに寄ってくる者達は皆、冷泉家の婿としては能力不足であった。
それでもエラは、家のために婿取りせねばならないと考えて努力していた。
だがめぼしい者は見つからず、進級する頃には縁談は祖父・冷泉宰相に任せてしまえばいいとなっていたそうだ。
「え、でも……冷泉宰相は縁談相手を探してくれなかったんですか?」
「探してはくれてたんじゃないかしら?」
問題は、彼の人を見る目は、エラよりもはるかに厳しかった事だ。
結果はご存知の通り、エラは在学中に縁談相手を見付ける事ができず、そのまま卒業する事になってしまった。
その頃にはエラも半分諦めの境地であり、家を継ぐのは妹に任せるしかあるまいと考えていた。
「そこに舞い込んできたのが、ジェイ君との縁談だったのよ」
「つまり、ジェイは冷泉宰相のお眼鏡に適ったって事ですねっ!」
「そういう事でしょうね」
明日香は、我が事のように嬉しそうだ。
エラは元々結婚願望があったが、それを諦めかけていた所に舞い込んできたこの話。
嬉しさのあまり、不毛に終わってしまった学生時代をやり直そうと考えたのも、無理の無い話だったのかも知れない。
そんな会話を黙って見守っていたエラの侍女。
彼女はひとつ、エラも知らない事実を知っていた。
冷泉宰相が高く評価していたのはジェイだけではない。エラもである。
今でこそ「変な人」で評価が割と一致している彼女。
しかし、上手くいかなかった縁談も、しっかり相手を見極めていたからこその結果であり、彼女自身のスペックは決して低くない。
冷泉宰相が縁談相手を見付けられなかったのも、エラに相応しい相手をと考えるあまりに、おのずとハードルが高くなり過ぎたという面も有った。
そんな宰相が縁談相手と認めたのがジェイ。だからこそエラにも、その力を遺憾なく発揮する事を期待されているが……。
「婚約者と過ごす学生生活ってのをやってみたかったよ~♪」
「ああ、それで聴講生に……」
「青春ですねっ!」
しかしエラは、そんな期待を理解しているのか、いないのか、そんな素振りを全く見せていない。
「お嬢様、おかわりはいかがですか?」
「ええ、いただくわ」
だが、それでいい。その方がお嬢様らしいと内心考えつつ、侍女は笑みを浮かべるのだった。
エラの秘密……みたいな話でした。
彼女は、学生時代に色々と伝説を残していそう。
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