1巻発売記念SS「若奥様奮闘記」
『魔神殺しの風騎委員 世界平和は業務に入りますか?
~勇者と魔王の魂を受け継いだ俺ですが、そこまで責任持てません~』
1巻発売中です。
ここはアーマガルトの領主邸。
今は第五次サルタートの戦いの真っ最中であり、アーマガルト軍は出陣中だが、屋敷に残った者達も慌ただしく動き回っていた。
今回の戦い、ダイン軍は龍門将軍が自ら軍を率いている。親征だ。
対して迎え撃つアーマガルト軍は、総大将の前辺境伯・レイモンドが発作を起こして倒れてしまうというアクシデント。
現辺境伯・カーティスは戦ではまったく頼りにならないため、当年十三歳の嫡男が総大将として出陣する事になったという非常事態中の非常事態だ。
こういう時に頼りになるはずの辺境伯夫人・ハリエットは、父が昏睡状態に陥った事にショックを受けて憔悴状態だった。
そのためカーティスは領内と屋敷内、双方のまとめをやらなければならなくなるが、これは流石に負担が大きい。
そこでカーティスは、領内の方を優先。屋敷の諸々は後回しになっているのが現在の状況である。
この時、屋敷の使用人達の中心となった者がいた。
「大丈夫! 皆、落ち着いて! ジェイは負けないから!」
そう、モニカである。
「ジェイのあの魔法なら……大丈夫、ジェイは負けない……!」
誰よりもジェイの魔法を知っていた彼女は、不安がる使用人達を励まし、精神的な主柱となって支え続けたのだ。
使用人達もそれを当たり前のように受け入れているあたり、この屋敷における彼女の立ち位置がよく分かるというものである。
それはともかく、何故当時十三歳の彼女にそんな事ができたのか? これにはいくつかの理由が有った。
まず彼女は御用商人シルバーバーグ商会の娘であり、ジェイの幼馴染。使用人達とも顔なじみであった。
更にモニカはハリエットに可愛がられており、領主夫人がこういう時にやるべき事を知っていた。
「え~っと、こういう時は……」
「あの、旦那様がお食事もまだ……」
「えっ、あっ、忙しいんだと思う! 厨房に部屋まで持って行くように伝えて!」
「はいっ!」
「その前に人数確認! 多分、手伝ってる人いるから!」
かく言うモニカは、元々身内以外には人見知りするタイプだ。
しかし彼女にとって使用人達は、馴染みの有る人達であるため人見知りを発揮する事は無い。
昏睡状態だったレイモンドが目を覚ましたのは翌日。それまでモニカは使用人達の力も借り、ハリエットの代わりに屋敷を守り抜いたのだった。
アーマガルト軍が幕府軍を撃退して戻ってきたのは、それから数日後の事だ。
屋敷に戻ったジェイはレイモンド達に勝利を報告し、ボロボロになった防具を着替えるために部屋に戻る。
なお、モニカは当然のようにそれに付いて行き、一緒に部屋に入った。
そして彼女は慣れた手付きでジェイの防具を脱がせていく。
「……大丈夫?」
「なんとかな……そっちも大変だったみたいだな」
「まぁ……ね。でも、レイモンドお爺様が目を覚ましたらおばさまが復帰してくれたから、そっち程じゃないよ」
「でも、それまではモニカがやってくれてたんだろ? 助かったよ」
「助けてもらったのはこっちだって。ありがとね」
互いに労いながら、モニカはジェイを着替えさせていく。そして脱がせた防具は、使用人を呼んで手入れの手配まで済ませた。こういうところまで慣れたものである。
ジェイを着替えさせたモニカは、そのまま彼のベッドに登る。
そして腰を降ろすと、太ももをポンポンと叩いてジェイを呼ぶ。
「ん……じゃあ、遠慮無く」
近付いたジェイは、彼女の太ももを枕にしてベッドに横たわる。
目を閉じるジェイ。実のところ彼は、今までに無いぐらいに疲れていた。龍門将軍との戦いは、それだけ負担が大きかったのだ。
彼は、それを表に出そうとはしない。しかし、モニカはそれを見抜く事ができた。
長年付き合ってきた幼馴染だ。彼が周りに心配を掛けまいと部屋まで我慢していた事も含めて、まるっとお見通しである。
モニカは微笑むと、小さな声で語り掛ける。
「お疲れさま、ジェイ」
夜になれば戦勝の宴が始まるだろうが、それまではゆっくりと休ませてあげよう。そう思いつつ、モニカはジェイの黒髪をそっと撫でるのだった。
この時点ではまだ「若奥様(候補補佐代理心得)」ぐらいかも知れません。
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