1巻発売記念SS「異世界エロ本事情」
『魔神殺しの風騎委員 世界平和は業務に入りますか?
~勇者と魔王の魂を受け継いだ俺ですが、そこまで責任持てません~』
1巻は7月5日発売です。
ポーラ華族学園の生徒達が利用する商店街。その店は、脇道に入った先に有る小さな店だった。
傍目には、こじんまりとした本屋。しかしてその実態は……。
一人の小柄な少年が、店の前に立っていた。
帽子を目深に被っている。人目を気にしているのだろうが、その怪しさからここに来るまでかえって人目を集めていた。
だが、その事を指摘する者はいない。むしろ微笑ましく見守られていたのだが、その少年――色部は気付いていない。
「こ、ここが、先輩に聞いた…………エロ本屋っ!!」
そう、商店街の大通りから外れた片隅にある小さな本屋。そこは華族学園の一部の男子達が密かに通う「秘密の花園」。
こそこそとこの店がある脇道に入って行く男子生徒、それは商店街の者達にとって大体毎年見掛けるある種の風物詩であった。
ちなみに、この世界でももちろん未成年はその手の本を買えない。
しかし、そもそも華族学園は成人したと認められなければ入学できないので、入学している時点でその問題はクリアできる。
そして華族学園の生徒は、親元を離れて学生街の家で暮らす。そう、学園の寮ではあるが一国一城の主だ。自由なのだ。
成人して、自由。その自由をこういう方向で使う者が、毎年一定数いるのである。
色部はキョロキョロと辺りを見回し、他の人がいない事を確認してから店へと入った。
中には三人程の客の姿があった。彼等は色部を一瞥すると、すぐに視線を戻す。
店内は、入ってすぐの所は普通の本屋と変わらない。しかし、少し奥に進むとお目当ての本が並ぶ一角があった。
「うぉ……ッ!」
そこに並ぶ本を見て、思わず雄叫びを上げそうになる色部。しかし慌てて口を押さえる。周りの客達はジロリと色部を見る。
色部が口を押さえたままペコペコ頭を下げると、彼等はまたすぐに視線を戻した。
「あっぶね~……」
努めて声を抑えて呟いた色部は、鼻息荒く本棚に並ぶ商品を見ていく。
「『月刊色華』……! これが噂の……!」
まず手に取ったのは、一見お堅そうに見えるタイトルの雑誌だ。
表紙も落ち着いたものだが、実は長い歴史を持つエロ本界の老舗、エロ本の古豪だったりする。
内容もオーソドックスであり、同好の士の間では入門用にオススメの本とよく名が挙がるとか。
「よ、よし、これは確保だな……」
色部はそそくさと色華を脇に抱えて、他の本も物色する。
「こ、これは……『けもみみ探検隊』!?」
続けて手に取ったのは、水着姿の猫耳少女の写真が表紙の本。なお、実際に獣人のモデルを使っている訳ではなくコスプレである。
「獣人か……でも……」
かく言う色部は、特に獣人好きという訳ではない。
「こ、後学のために……!」
しかしコスプレしているモデルが好みだったため、これも買う事に。
その後色部がこのモデルにハマるのか、けもみみにハマるのかは神のみぞ知るである。
とりあえずこの二冊でいいかと、レジに向かおうとする色部。
その時、平積みされた一冊の本の表紙が彼の目に入った。
気の強そうな女性騎士が表紙なのだが、その鎧は半ば壊されており色々と露わになっている。
「月刊……『くっコロコミック』!?」
そう、それはお嬢様騎士敗北に特化した本。最近創刊されたばかりの雑誌だ。
「いやいや、これは流石に……」
そのまま通り過ぎようとした色部。しかし、数歩進んだところで足を止める。
色部の家は、華族としては末端の下っ端。婚活についてはまだ漠然としか考えていないが、良い家のお嬢さんを落とせたら良いかも~みたいな事は考えていた。
『くっコロコミック』、上位の存在を屈服させるというシチュエーション。ふと色部の脳裏にアリかも……という考えが頭を過った。
「…………ゴクリ」
数分後、三冊の本を買って店を出る色部の姿があった。
「お、思ってたより高かった……!」
財布へのダメージが大きいが、自由の第一歩としては悔い無し。周囲の目を気にしてはいるが、喜びを隠し切れず軽い足取りで帰路につくのだった。
なお、自室に適当に置いていたところ、侍女に見つかって机の上に並べられるのは三日後の話である。
「坊ちゃま、ああいう本を買うなとは申しませんが『くっコロ』はいかがなものかと……」
冷静に考えると『くっコロ』は、華族の人間が読むと考えると割と不敬な本であった。
Q.挿絵を描いてもらうにあたり、異世界エロ本のタイトルを考えなければならなくなった作者の気持ちを答えよ。
風騎委員の世界って武士の影響で日本語が使われているため、架空の異世界文字で誤魔化したりできなかったのです。
活動報告で、エラのキャラクターデザインラフを公開しました。
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