第171話 厄介な○人
「私は話を聞いてきます」
捕まえた学生達を連行し、南天騎士団本部に到着したジェイ達。フライヤは奥へと連れて行かれる彼等に付いて行き、ここで一旦別行動となった。取り調べに立ち会うそうだ。
ジェイは小熊と共に、今回の件について報告。
「ジェイ、来ましたよー♪」
少しすると明日香が獣車と共に到着したが、フライヤの方はまだ話が終わっていないようだ。
仕方なくしばらく待っていると、そこに細身の背が高い男が近付いてきた。
キツネ色の髪をしっかり整えた、襟足長めのオールバック。ツリ目で顔付きもまたキツネを彷彿とさせ、南天騎士団の制服の上にローブを羽織っている。小熊の直接の上司、狐崎隊長だ。
狐崎は、指揮棒ぐらいの長さの短杖を小熊に突き付けてきた。
「ちょっと小熊さん! なんであの女を連れて来たの!?」
ヒステリックに声を上げる。相変わらずのやや甲高い神経質な声だ。
「えっ、何かまずかったっスか?」
「まずいも何も……!」
彼の説明によると、フライヤは捕まった学生達の悩みを聞き、反省を促しているとの事だ。
それを聞いた明日香が首を傾げる。
「良い事では?」
「取り調べの最中じゃなければね!」
彼女は教師として問題を起こした学生を更生させようと必死なのだろうが、それが取り調べの邪魔になってしまっているらしい。
「あの女、今回が初めてじゃないんですよ! 生徒思いは結構だけど、騎士団の邪魔はしないで欲しいですね!」
忌々し気な狐崎。初めてじゃないだけに対処方法は分かっているようだ。
彼の愚痴を延々を聞かされていると、獣車に乗った学園長が本部を訪れた。彼は南天騎士に案内されて奥へと入っていく。
「ふぅ……これでようやく話が進むわ」
ここまでの愚痴は、学園長が到着するまでに時間潰しだったようだ。
上司である彼にフライヤを止めてもらうつもりのようで、狐崎は踵を返して彼の後を追う。
「……ああ、そうそう」
その途中で足を止め、ジェイ達の方へと振り返る。
「覚えておきなさい『アーマガルトの守護者』。あの女は善人かもしれないけど、厄介な善人ってのもいるって事を」
吐き捨てるようにそう言うと、狐崎はそのまま去っていった。
「なぁ~んスか、あの言い草!」
「そうですよ! フライヤ先生は、生徒を守ろうとしてるだけじゃないですか!」
狐崎の姿が見えなくなってから、小熊と明日香は憤りを見せた。
「とはいえ、南天の仕事を邪魔しちゃったのは事実みたいですし」
逆にフォローするのはジェイ。こちらは狐崎の言い分に一定の理解を示していた。
「実際どうなるんです? あの喧嘩してた人達」
「『補導』になると思うっス。その前に説教されるだろうけど」
騒ぎを起こしたとはいえ、逮捕される程にはならないという事だ。
商店街の人達を傷付けたりはしていれば、その程度では済まなかっただろうが。
そんな話をしていると、学園長とフライヤが戻ってきた。フライヤの方は学園長か狐崎辺りに何か言われたのかしゅんとしている。
「ああ、君達。獣車を用意しているのだろう? フライヤ先生を送っていってくれるかね? 私は狼谷団長と話がある」
「分かりました、学園長」
そして学園長はジェイ達に彼女を預けると、再び奥へと戻っていった。捕まった学生達の件については、彼が引き継いでくれるだろう。
ジェイ達は一礼してそれを見送り、フライヤを連れて南天騎士団本部を後にするのだった。
フライヤを送っていく獣車の中で、彼女はポツリポツリと生徒達を助けたかったと口にした。
「彼等は三年生でした……騎士団入りを目指しているそうですが、上手くいってなくて……」
喧嘩をしていた二人の内、片方は少し話が進んでいたらしい。その事を自慢していたのだが結局駄目になってしまい、自慢された側をそれをからかって……という流れで喧嘩になったとか。
話を聞いたジェイは内心自業自得ではと思ったが、口には出さなかった。隣の明日香が同情して涙ぐんでいたからだ。
「あの……昴君。貴方は騎士団にも顔が利くんですよね? 彼等を助けられませんか?」
「……騎士団に推薦しろという事ですか?」
「ええ、彼等は尚武会でも成績を残しています」
騎士団入りが決まれば荒れる事も無く、今回のような事件は起きなかった。フライヤはそう言いたいのだろう。
だがジェイは、彼女が騎士団に推薦する意味を、その重さを、理解していないと感じた。
戦いを生業としていない彼女には分からないのだろう。騎士団というのは命懸けの役割なのだ。
「……実力不足で騎士団入りするのは不幸にしかなりませんよ。自身も、周りも」
しかし、それでフライヤを責めても仕方がないと、ジェイはそれだけを答えるに留めた。
明日香もこれに関してはフォローできない。彼女もまた戦う者達を知る立場だからである。
フライヤもそれ以上は何も言わず、彼女の孤児院に到着するまで気まずい沈黙が獣車の中を支配するのだった。
今回のタイトルは「厄介な善人」です。