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第152話 魔神怒涛

 ジェイは影をフィルター代わりにして強烈な光から目を守る。

「これは、時間を掛けていられないな……」

 サルド・カルドの手足だけではワルム・カルドの熱を抑え切れないようだ。徐々に光が強くなってきている。何より相手も、時間を掛ける事など考えてなさそうだ。

 魔法の相性は最悪。だが、一瞬だけなら勝機は有る。

「と言うか、早く終わらせないと周囲の被害がデカ過ぎるッ!!」

 泣き黒子の水晶球、それに両手。ワルム・カルドは三つの熱線を数撃ちゃ当たると言わんばかりに周囲に乱射。

 ジェイは影を囮に避けようとしても、そもそもワルム・カルドは見てもいない。

 このままではせっかく消した山火事が再燃する。それもまたジェイが勝負を急ぐ大きな理由だった。

 だが、悪い事ばかりではない。魔神の放つ光は、あくまで熱の副産物。熱線を連射しているためか、常に強く光っている訳ではない。

 そこに活路が有る。ジェイは熱線の間隙を狙って無数の影の大蛇を放つ。

 ワルム・カルドは熱線の光でそれらを消し飛ばす。

『また回り込むか!?』

 直後、また側面や後方から攻撃される事を警戒し、身体を回転させてジェイの姿を探す。

 しかしジェイは裏をかき、熱線を撃たれた先程まで立っていた場所に再び現れた。撃たれた瞬間、影世界に『潜』ってやり過ごしたのだ。

 避けられたという思い込みから生まれる精神的な死角。それが一秒にも満たない接近のチャンスを生んだ。

 気付いたワルム・カルドは振り返ろうとするが、僅かに間に合わない。

『甘い! 甘いぞ、小僧ッ!!』

 だが、ワルム・カルドも負けてはいない。その場で黄金の両手を自ら切り離す。

 宙に浮いた両腕は関節でつながった人間の腕では不可能な動きで、身体が振り返るよりも早く熱線を放つ掌をジェイへと向けた。

 両手から放たれる熱線。ジェイは伸ばした影を盾にしてそれを防ぐ。

 無駄だ。そう確信したワルム・カルドは、次はどこから来るかと周囲の気配を探る。

 その予想通りに、熱線は一方的に影を掻き消し――そして、闇が熱線ごと魔神の黄金の身体を斬り裂いた。

 切断された上半身が、ぐらりと揺れて逆さまに落ちる。

『…………あっ?』

 呆気にとられた声。何が起きたのか理解できなかっただろう。

 だが事実ワルム・カルドの身体は上下に両断されており、その天地が逆さまになった視界には、真っ黒な炎を束ねたような『刀』を手にするジェイの姿が映っていた。

『な……ぜ……消え……』

「これは、『影』じゃないみたいでな……」

 『影刃八法』の中でただ一つ、『暴虐の魔王』から受け継いだ魔法である『刀』。

 影ではなく黒い炎であるその刀身は、熱線に掻き消される事無く、逆にその魔法を斬り裂いたのだ。

「分析が足りなかったな」

 一瞬の勝機に賭けて、『刀』を見せないように立ち回っていたのはジェイである。

「これで終わりだッ!!」

『ッ!?』

 手を緩めず振り下ろされる黒炎の刀。ワルム・カルドの身体は断末魔の声も残さず塵となり、そして煙のように消滅していった。


 後に残るのはサルド・カルドの両手足。こちらも片割れが滅んだ事で冷やす力が抑えられなくなっているようで、氷を纏い始めている。

「……丁度良いな、これ」

 ジェイはそれらを伸ばした影で縛り、周りの山火事を消すのに利用。そして火を全て消し止めると、黒炎で両手足を焼き尽くす。

「後は……お前だ」

 そして最後に影世界への門を開き、サルド・カルドの胴体が出てきたところに容赦なく黒炎の刀を突き立てた。

『こ、この魔法は……知って……いる……ぞ……』

 その言葉を最期に、サルド・カルドも塵となって滅びた。

 そう、滅びたのだ。魔王より受け継ぎし魔法、黒炎の『刀』で倒された魔神は、その魂が『魔神の壺』に戻って復活する事も許されない。

 サルド・カルドとワルム・カルド。二柱で一対の仮面の魔神は、今ここに完全に滅びたのである。

「疲れた……」

 魔神の消滅を確認したジェイは『刀』を消して仰向けに、大の字になって倒れ込む。

 影世界を維持したまま、二柱の魔神との連戦。しかも後半は一撃でも食らえば即死は免れない相手。肉体的にも精神的にも相当な負荷が掛かっていた。

 それ以外にもひとつ、大きな問題が有る。

 山火事を消し止めた事でくっきりと見える星空を見上げながら、ジェイはぽつりと呟く。

「……ゴーシュはどっちだ?」

 表の世界と影世界を行き来しながら、周りを気にする余裕も無い激戦。

 戦いを終えたジェイは、今自分がどこにいるのかが分からなくなっていた。



 一方ゴーシュの海では、ポーラと海中の魔神の戦いが繰り広げられてた。

 魔神は海水を盾にしながら、配下のモンスター達をけしかける。

 しかし、海中からの攻撃は深い蒼のドレスの袖に弾かれ、直接攻撃しようとしたモンスターは海上に出たところをドレスの裾が大きな刃のように変形して斬り裂かれていく。

『やはり強い……』

 海中の魔神は思わぬ強敵との遭遇に、どうするべきかと思考を巡らせていた。

 魔神はまず戦いを避けられないかと考えたが、無視して進むのは彼女が許さないだろう。

 『暴虐の魔王』の妹、ポーラ。兄と戦う事を避けていたため『セルツ建国物語』ではあまり目立たないが、当時を知る魔神ならば皆知っている。

 彼女こそが魔王に次ぐ実力者であると謳われていた事を。

 ポーラは今、海中に被害が広がる大規模な攻撃を避けている。甘い事をと魔神は思うが、それによって助かっているのも事実。

 もしここで逃がして上陸を許すぐらいならば、彼女は容赦ない、周囲にも被害を及ぼすような大規模な攻撃を魔神の背に叩き込むだろう。そうなれば確実に命は無い。

 ならば逃げるか? いや、それも魔神の誇りが許さない。

 何より海中の魔神にとって今の状況は、危機であると同時に好機でもあった。

 魔神の命令で、甲殻類のような表皮を持つ巨大なサメが、前後同時に襲い掛かる。

 ポーラはドレスの袖を刃に変えて迎え撃ち、前後同時に串刺し。そのまま袖を変形させて両方を内側から真っ二つにした。

「……おや」

 その時、ポーラは気付いた。一連の攻防の間に、真下から伸びた何かが彼女の右足に巻き付いていた事に。

 ドレスの裾ごと巻き込んでいるそれは、巨大なタコの足のようだった。海上に見える先端部分だけでも彼女の腕よりも太く、毒々しい紫のまだら模様が有る。

 すぐさま巻き込まれた裾を変形させてタコ足を斬り落とそうとするポーラ。

 しかしドレスは変形せず、逆に溶かされているかのようにじわじわと消えていく。

「なっ……!?」

 思わず驚きの声を漏らすポーラ。その隙を逃さず飛び出したタコの足がもう左足にも巻き付き、そのまま彼女を海中へと引きずり込んだ。


 魔神である彼女が窒息する事は無いが、動きは制限されるだろう。

 ポーラが視線を向けて確認すると、左足の方もドレスがじわじわと消え始めていた。

 しかもその効果は巻き付かれていない場所にも及ぶようで、右足の方は既に膝を越えてボロボロになっており、彼女の色白の太ももが露わになっている。

 それを見てポーラは気付いた。これは酸で溶かすような直接的な手段ではない。魔法によるものだと。

『気付いたようですなぁ……』

 その時、ポーラの脳裏に念話が届いた。どこから送られてきたを探ると、足を掴むタコ足の先、更に深い所にいる足の主からだと分かる。

『魔法の解呪、ですね……』

 自身も海中にいるため、ポーラもまた念話で返した。

『その通りぃ! 私はこの魔法を極めていましてねぇ!』

 その言葉と同時に更に二本のタコ足が伸びてきて、彼女の両手首に巻き付きた。そこからじわじわと蒼い袖も消えていく。

『無論、強力な魔法は抵抗力も高いですがねぇ……あなたでも直接捕まえてしまえばこの通り、ですよぉ』

 その言葉と同時に、足の主が浮上してくる。

 一言で言えば、毒々しい巨大タコ。大きな胴体が彼女の眼前に迫る。胴体だけでも彼女の身体よりも大きい。

 ポーラの顔の間近まで迫り、二つの目がギョロッギョロッとせわしなく動きながら彼女を見る。

『どうですぅ? 素晴らしいでしょうぅ?』

 対するポーラは答えない。

『どんな魔法も消してしまえば無力ぅ! つまり、この私こそがぁ! 魔王様に代わって魔神を統べるに相応しいぃ!! ……そうは思いませんかぁ?』

 念話であるにもかかわらず、粘着質な声と感じられる。ポーラは顔を背けこそしないものの、その顔には不快感が浮かんでいた。

 それに気付いた魔神は、彼女の手足に巻き付く足にギリッと力を込める。

『答えぬならばぁ……証明してみせましょう。ポーラ……魔王様に次ぐ力を持つという貴女に勝つ事でねぇ……』

 魔神の胴体は、ポーラの両手足を捕らえた足を限界まで伸ばして距離を取り、残りの四本の足を構える。

『このぉ! 魔神ポリュプス・ポルポがぁ! 新たな魔王に相応しい事ぉぉぉ!!』

 そして伸ばした足の反動も乗せて、猛スピードでポーラに襲い掛かった。

 サルド・カルド、ワルム・カルド、ポリュプス・ポルポ、そしてポーラで四柱の魔神が登場しています。

 もしもう一柱登場していたら、今回のタイトルは「魔神ゴー!」になっていたでしょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] >魔神ゴー! アニキ!
[一言] 魔神に英雄が居たらワタルって名前になるのか?(棒 魔神達が群雄割拠の戦国時代に突入してたら ゴーショーグンなんてのも生えかねない?(明後日の方を見ながら
[一言] ポーラは凄いかませ犬臭いのと戦ってるな。
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