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第149話 白銀を招くよ

 この魔神、ただの特化型ではない。

 そう感じたジェイは、即座に表の黄金側の様子を確認した。あちらも同タイプの可能性があるからだ。

 するとゆっくり回転している魔神の姿が見えた。引きずり込まれたサルド・カルドを探しているようだ。

「あっちも人型になってるって事は無かったか……」

 更に言えば、一柱だけで町に向かったりもしていない。こちらについてはジェイの予想通りだった。

 と言うのも仮面の魔神が、二柱の魔神だと判明した事で分かった事がある。

 それは別々の魔神であるにもかかわらず、合わせて一つの仮面になるような「つながり」が二柱の間には存在するという事だ。

 魂の個性の発露である魔法、それに合わせて作られる魔神の肉体。もしかしたら二柱は兄弟か何かなのかもしれない。

 それ故に見捨てて行く事は無いとジェイは判断したのだが、案の定であった。


『フム……』

 一方サルド・カルドは、両腕を広げたままゆっくりと身体ごと回って辺りを見回す。大きな仮面の姿を考えるに、普段から「顔だけ振り返る」という事をしないのだろう。

『なるほど、なるほど……』

 光が無いのに暗くなく、そして色も無いモノクロの世界。

 木々など周囲の景色が再現されている。影世界を作った瞬間の再現なので倒木の位置などが少々異なるがほぼ同じだ。

 また、倒木の焼け焦げた跡から煙は出ていない。火は再現されていないからだ。

『フ……フフ……フハハハハ!』

 こちらに背を向けたまま身体を揺らして笑い出した。

 その動きに合わせて身体を形作る仮面の欠片が揺れ、隙間ができたり閉じたりしている。欠片同士が物理的につながっている訳ではなさそうだ。

 サルド・カルドはぐるんっと勢いよくジェイの方を向き、ガチャガチャと音を立てながら近付いてくる。

 ジェイがそれを黙って見ているはずもなく、サッと軽く片手を上げると同時に五つの影の大蛇が鎌首をもたげる。

 するとサルド・カルドは瞳の顔でにんまりと笑みを浮かべた。

『その影の大蛇……それも見覚えがあるぞ!』

 その言葉と同時に魔神の周囲が冷気を帯び始めた。鋭利な氷柱が生えて身体中を覆って行く。近付く事すら許さぬ氷の鎧だ。

 暑くも寒くもないはずの影世界なのに、肌寒く感じる。彼の魔法で作った影世界が、サルド・カルドの魔法の影響を受けているのだ。

 ジェイは思わず肩を震わせた。おそらくそれは、寒さだけが理由ではないだろう。


 しばし考え込んでいたサルド・カルドが目を見開き、大口を開けて笑顔を作る。

『そうだ! 勇者の魔法だ! 血を遺しておったか!!』

「……そうか、会った事があるのか勇者に」

 血云々の発言で一瞬理解が遅れたが、すぐにサルド・カルドが魔法国時代に勇者と出会っていた可能性に行きついた。実際のところ、ジェイと勇者に血縁関係は無い訳だが。

『懐かしい気配を感じていたが……あれはポーラか? そうかそうか、ポーラが血をつないだか!』

 サルド・カルドは納得したのか、顔パーツを上下にカクカクと動かしている。ジェイの事を、ポーラの庇護下にある彼女の末裔と判断したようだ。

 勇者の兄がポーラの夫であり、彼女の子は勇者と同じ家系の血筋という事になる。しかし彼女の子は全員魔王との戦いで戦死しており、その血脈は今に遺っていない。

 そのため完全な勘違いではあるが、流石に勇者と魔王の魂が合わさり、二度転生してこの世界に戻ってきたとは想像もできないだろう。

 ましてや、それがポーラと出会って、血縁関係も無いのに息子扱いされているなど分かるはずもない。


 しかし、ジェイはその勘違いを訂正しようとはしない。これから倒す相手に、わざわざ教えてやる義理も無いからだ。

 だが「倒す相手」と考えているのはサルド・カルド側も同じだ。

『そうか、影の魔法か! こんな方法で逃げ隠れしていたのだな!』

 かつて勇者が『暴虐の魔王』を倒すために城に潜入した時の話だろうか。

 親戚のおじさんのような馴れ馴れしさで話し掛けてきているが、そうしている間にも氷の鎧の中から放たれる殺気が大きくなってきている。

『我等を分断したつもりだろうが……甘い、甘いぞ! 勇者の末裔! 貴様は、自らの逃げ場所を私に晒したのだ!』

 天を仰いで、声を張り上げるサルド・カルド。

 その隙だらけの姿にジェイは影を放つ。大蛇は刺々しい氷の鎧を砕くが、すぐに氷柱が伸びて元の姿に戻った。

『やる気だな、勇者の末裔。だが……それでいい』

 そう言いつつ、サルド・カルドの身体を覆う氷はどんどん大きくなっていく。

 捻じれた両腕から伸びた氷が影世界の地面を突き、そのまま魔神の身体を持ち上げる。

 氷の鎧はそのまま更に巨大化し、やがてゴリラのようにナックル・ウォークする体勢の氷の巨人となった。

『興味深いぞ。貴様を殺した時、私はこの世界から脱出できるのかな? う~む、未知の魔法とは実に興味深い!』

 その言葉と同時に、周囲の気温が急激に下がる。

 それを肌で感じ取った瞬間、ジェイは動いた。今度は十を超える影の大蛇を放ち、巨人に襲い掛かる。

 サルド・カルドは両腕でガードするが、大蛇はその腕に食らいついた。氷の鎧を砕きつつ、巻き付いて両腕を押さえ付ける。

 同時にジェイは、巨人の頭上へと飛び、そこから無数の影の矢を『射』って降り注がせる。

 その攻撃に砕けて行く鎧。中の魔神本体までは届いていないが、剥がれた氷は水を通り越して霧のように消え、気温も上がっていく。

 だが、一旦攻撃の手を緩めるとみるみる内に鎧は修復され、それに合わせて気温も下がっていく。体内魔素の量が桁違いだ、ジェイはそう感じた。


『フフフ……ひとつ教えてやろう。私の魔法についてだ……』

「何……?」

 ジェイは怪訝そうな顔をした。

 戦っている最中に……余裕の現れだと言うのか。

 そんな疑問はお構い無しでサルド・カルドは話を続ける。

『お前も想像はついているだろうが……私の魔法は冷やし、凍らせる』

 そう説明している間も氷の鎧は大きくなり、気温は下がっていく。

 ジェイは影の槍を連発して鎧を削っていくが、サルド・カルドはそんな事お構いなしで説明を続ける。

『ただな……強過ぎるのだよ、私の魔法は。際限無く冷えるのだ……抑えが無ければ、な』

「……ッ! まさか!?」

 ジェイは慌てて表の世界を確認しようとするが、その時に気付いた。向こうを覗き見るための影が小さくなっている事に。

 そこから見えたのは、サルド・カルドと同じように歪な人型となった黄金側の魔神。

 こちらが際限無く冷えるならば、あちらは際限無く熱くなるようだ。全身が白熱し、赤光を放っている。

 魔神が放つ光と、その熱によって燃え上がる木々。それらが影を消していき、残った影も小さくしていっているのだ。

「そういう事か!」

『気付いたようだな……もっとも、気付いたところでどうしようもない訳だが』

 各個撃破するため、片方を影世界に引きずり込んだ。しかも相性が悪くない凍結光線を使う側をだ。

 しかし、それが間違っていた。急いで二柱を合流させなければならないと考えたが、同時にそれが難しい事にも気付いてしまう。

『フフフ……どうしたのかね?』

 サルド・カルドが自らの魔法について説明したのは、余裕からなどではない。絶望的事実を、ジェイに教えるためだ。


「この巨体を……出せる影が無い!!」


 そう、黄金の魔神によって影が消されていき、サルド・カルドの大きな氷の鎧を通せるだけの影が無くなっているのである。

 今回のタイトルの元ネタは、1959年の西ドイツの映画『白銀は招くよ!』です。



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