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第148話 金と銀

 あけましておめでとうございます。

 今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 仮面の魔神は再び一つに戻り、倒木の山に近付く。


『……死んだか? いや、まさか魔法使いがこの程度で……』


 どこからともなく声が響く。仮面の口元は動いておらず、声も森の中で反響しておりどこから聞こえてくるかは分からない。

 なお、この程度と言うのは魔法国時代の魔法使いを基準にした話である。


『では念のために、トドメを刺そう』


 その言葉と同時に左右の水晶に光が宿る。

 その光が強まり、光線が放たれる――その直前に衝撃が走った。

 ジェイが背後から仮面の黄金側を蹴り飛ばした。倒木が降り注ぐ直前に影に『潜』り、仮面の近くの木陰から飛び出したのだ。

 今も左右でつながっていないのか、黄金側半分だけが外れて飛んで行く。そう、今にも光線を発射せんと狙いを付けていた倒木の山に向けて。

『ひゃぉぅ!?』

 銀側が放った凍結光線が、飛ばされた黄金側に命中。仮面の身体でも冷たさを感じるのか、甲高い声が響いた。

 だが、すぐに振り返る。さほど堪えてはいないようだ。

「それで倒せる程甘くはないか……!」

 ジェイはすぐさま木を盾にしながら駆け回り、影を囮にしつつ自身は再び『潜』る。

 黄金側の仮面は再び浮かび上がって炎熱光線で周囲を薙ぎ払う。木は抉り倒され、影は一瞬で掻き消された。

 しかし、仮面の魔神はジェイを仕留めていないと気付いているようで、再び左右が合わさってゆっくり回転しながら周囲を窺っている。


「なるほどな……」

 ジェイは、その様子を影世界から見ていた。

 一連の攻防で分かった事がいくつかある。

 まず不意打ちが効かない訳ではない。今も回っている事から考えても、前より後ろから攻撃した方が有効だろう。

 そして光線の威力は大きいが、もう片方に当てても大したダメージにはならない。回っているため背面も確認する事ができるが、ほとんど無傷だ。

 しかし……まったくのノーダメージという訳でもない。思わず声を出してしまう程度には。

「だが……黄金側だけだった気がするんだよな、アレ」

 撃たれた後の動きを見ていたところ、撃った銀側の方はほとんど無反応に見えた。

 分離しているから感覚がつながっていないのか、あるいは――

「実は、別々のヤツ……か?」

――二柱の魔神が一つの仮面に見せかけているか、だ。


 現状ジェイにとって最悪なのは、もう一柱は静かに町に向かっている事だ。

 次がもう一柱が近くに潜んで、こちらの様子を窺っている事だろう。不意打ちの難易度が大幅に跳ね上がる。

 そのため仮面が実は二柱の魔神が合わさったものというのは少々楽観的な予測と言える。だが、安易にその可能性を切り捨てる事もできない。

 何故なら魔神は、ジェイの影に対して圧倒的有利な炎熱光線の魔法も使えるのに、銀側の仮面は凍結光線を撃ち続けているからだ。

 つまり仮面の魔神は、左右の水晶から撃ち出す光線を切り替える事ができない。魔法使いとしては特化型のタイプと言える。

 魔法に合わせて、魔神の肉体は作られる。逆に言えば、魔神の姿を見れば使用する魔法を推測する事ができる。

 強く、汎用性の高い、すなわち「万能」に近い魔法を使う者ほど人に近い姿になると言われていた。『賢母院』ポーラが、その際たる例だ。

 その点仮面の魔神は、人の顔を模した仮面とはいえ人とは程遠い姿である。やはり特化型と考えるのが自然だろう。

 そう考えると「特化型タイプが、相反する二属性の魔法を使っている」事に違和感が生まれて来る。

 それなら「相反する属性の魔法を使う魔神二柱が、一つの仮面に見せかけている」方が余程納得がいくという事だ。


「となると……確認だな」

 ここまでは推論だ。まずはそれを確かめなければならない。それが二柱目の魔神の存在をハッキリさせる事にもつながるのだから。

 とはいえ、普通に問い掛けたところでまともな答えは返ってくるはずもない。

「『射』ァッ!!」

 そこでジェイは、影世界から無数の影の槍を撃ち出し、周囲の無事な木をまとめて斬り刻んだ。

 仮面の魔神目掛けて降り注ぐ木。魔法が放たれた時点で気付いていた魔神はそれを見上げて光線で撃ち落とそうとする。

『……これは!?』

 だがその瞬間、魔神自身の影から何本もの手が伸びた。空を見上げる形になっていた魔神は即座に反応できず、銀側を掴んで影の中に引きずり込む。

「うぉりゃッ!」

『ぐおッ!?』

 ジェイはそのままの勢いで仮面の片割れを振り回し、影世界の地面に叩きつけた。更にその上に、影の槍が降り注いで追撃を掛ける。

 仮面は表を下に向け、地面に押さえ込まれる形となった。

「上手く行ったようだな……」

『さ……先程の魔法使いか!?』

 魔神は声を上げるが、ジタバタとするだけ。水晶が地面の方を向いてるため反撃できないようだ。やはり特化型の魔法で、汎用性は低いのかもしれない。

 そのまま押さえつつ、ジェイは向こう側に残された黄金側の様子を窺った。

 降り注いできた木は全て薙ぎ払ったようで、今はキョロキョロと辺りを見回している。しかし周囲を気にするばかりで、地面には視線を向けない。

「……片割れがこちらに引きずり込まれた事を理解していないようだな」

 そう呟いた瞬間、銀側が抵抗を止めた。

 銀側はここが影世界だと理解しているかはともかく、地面に向けて引っ張られた事は理解しているだろう。

 それが黄金側には伝わっていない。これはすなわち両側で情報を共有できていない事を意味する。

 世界を隔てているためという可能性もあるが、それでも両方問題なく活動を続けているのだから、やはり両側がそれぞれ独立して動いていると見るべきだろう。

「やはり別々の魔神か……」

 二柱の魔神は両方ここにいる。そう判断したジェイはここで片方ずつ倒すと決める。

 だが影で押さえ付けている仮面の魔神もピクリと反応し、抵抗を強める。

『ククク……まさか、こんな形で見抜かれるとはな……』

 その言葉と同時に仮面の一部が変形し、それを支えとして影を押し退け、立ち上がった。

 そう、「立ち」上がったのだ。半分に分かれた銀の仮面は更に細分化し、それらがつながって歪な人型となっていた。

『余裕を見せすぎたようだな……ウム』

 その言葉と同時に閉じたままだった目が開く。

 人であれば瞳があるであろう場所には、目鼻口があった。目蓋の裏に隠されていたのは魔神の顔だったのだ。

『この時代の魔法使いよ……光栄に思うが良い。この氷のサルド・カルドが相手となってやろうではないか……』

 ジェイに向けて捻じれた両腕を広げて見せる魔神サルド・カルド。

 その姿を見て、ジェイの脳裏にはあの言葉が浮かんだ。魔神の肉体は「万能」に近い魔法を使う者ほど人に近い姿になると……。

 今回のタイトルの元ネタはマンガ『銀と金』です。



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[一言] 明けましておめでとうございます。 今年の更新も楽しみにしています。
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