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第147話 仮面の下の、何かを拭え

 一方ジェイは、上陸した魔神を目指して山中を南下していた。

 木が倒壊する音が連続して聞こえてくる。方角を確認するため高い木に登ると、逃げ出す鳥などで、どこで木が倒れているかが分かった。

「派手にやってるな……!」

 相手側に隠す気が無いのだろう。魔神は目の前の木を薙ぎ倒しながら、文字通り「真っ直ぐ」北上しているようだ。

「だが、分かりやすい!」

 それ故に、どのルートを通るかが簡単に予測できる。ジェイは魔神目掛けて枝から枝へと飛び移りながら近付いていく。

「あれか!」

 魔神の姿を発見したジェイは、前に回り込もうとスピードを上げて並走する。

 横目にその姿を確認したジェイは、怪訝そうな表情を浮かべた。

 そこにいたのは巨大な顔、いや仮面だ。ジェイの背丈ほどありそうな銀色の仮面が光線を放って木を薙ぎ倒しながら空を飛んでいた。

「空飛べるなら、木の上通れよ!」

 思わずツッコみながら前に回り込んだ。

 魔神は光線を放ってくるが、ジェイは影の槍を盾にしてそれを防ぐ。

 直後動きを止める魔神。ジェイの背丈ほどありそうな仮面は地に落ちる事なく宙に浮いている。

 魔神は視界に入った羽虫を払うぐらいの気持ちで光線を放ったが、容易く防がれてしまい初めてジェイの存在を認識していた。

 全身を動かして向き直る。おかげでジェイは、その仮面の全貌を確認する事ができた。

 横から見ると銀色だったが、それは右半分だけ。左半分は黄金色で、左右で色の異なる金銀の仮面だ。

 左右で微妙に装飾が異なるアシンメトリーなデザイン。右側は鋭角的であり、左側は曲線が多い。

 共通しているのは両目が閉じられており、泣きぼくろらしき位置にサッカーボールほどの大きさの水晶が嵌め込まれている事ぐらいだ。

 口元も黄金色の方は厳めしいのに対し、銀色の方は柔和な笑みを浮かべている。そのため左右で表情が異なり、何を考えているか分からない奇妙となっていた。

 この世界における魔法は、魂と密接に関係している。魂の個性の発露と言っても過言ではない。勇者と魔王の魂を受け継ぐジェイが、二人に近い魔法を使えるのもそのためだ。

 そして魔神は魔法を極めた者。その魔法の力が肉体を変質させて魔神と化す。

 同じ魔神でもポーラとエルズ・デゥ、そして目の前の仮面が全く異なる姿をしているのは、使える魔法――すなわち魂の形に合わせて魔神の肉体を作っているからである。

 左右で色が異なる身体、それが意味する事はひとつだ。

 仮面が両目を閉じたまま、二つの水晶からそれぞれ光線を放った。

「……チッ!」

 ジェイはそれを影で防がず、枝から跳ぶ事でそれらを避ける。

 右の水晶から放たれた光線は、ジェイが立っていた枝に命中。するとその枝は、瞬く間に凍り付いて砕け散った。

 左の水晶から放たれた光線は、幹を軽々と撃ち貫く。その後は焼け焦げ、黒煙が燻っていた。炎、いや白熱の光線である。

「やっぱり二属性か……!」

 そう、この魔神は凍結と炎熱という相反する二属性の魔法を使う。

 それらの魔法を極め、魂の形を露わとしたのがこの二色の仮面の姿なのだ。

 仮面のデザインも、鋭角な右側は氷、曲線の多い左側は燃え盛る炎を表しているのだろう。


 光線を避けたジェイは、足を止める事なく周囲の木を蹴り、仮面の背後に回り込もうとする。

 二属性の魔法を使う魔神も厄介だが、それ以上に問題なのはこの場に魔神が仮面の一柱しかいない事だ。上陸した魔神は二柱である。

 この仮面のサイズなら、後ろに隠れられるかもしれない。それを確認しようと背後に回り込んだが、そこには誰もおらず仮面の裏側が見えるだけ。

 もしや派手に木を薙ぎ倒しながら進んできた仮面は囮で、もう一柱は静かに進むタイプだったのか。ジェイは考えを巡らすが、そんな時間は無い。

 仮面は勢いよく振り返り、再度光線を放つ。

 ジェイは咄嗟に影の矢を『射』ながら、身を翻した。

 凍結光線は影の矢で相殺できたが、炎熱光線は一方的に影の矢を掻き消し、幹に穴を開ける。影と強烈な光を放つ熱線、相性が悪過ぎるのだ。

 仮面の魔神も、一度光線を防がれた事でジェイの魔法の属性を見抜いたようだ。閉じたままの目でジェイを追い、右側の凍結は使わず、炎熱のみを使って攻撃を続ける。

 ジェイは伸ばした影を移動に使いそれを避け続けるが、仮面の魔神だけに集中できない。もう一柱の魔神がどこにいるか分からないからだ。

 静かに移動するタイプなのか。あるいはジェイの影世界のようにこの世界から消えるタイプなのか。

 今もどこかで隙を窺っているかもしれない。そう考えると、周囲にも気を配らざるを得なかった。

 とにかく足場が周囲の木しかない今の状況はまずい。かと言って地面に降りると、上から一方的に光線で攻撃される事になる。

 とはいえこうしている内にも炎熱光線は周囲の木を薙ぎ払って行き、少ない足場が更に少なくなっていく。

 このまま考えているだけではジリ貧だと、ジェイは一瞬足を止めて魔神の注意を引き付け、光線が放たれると同時に横ではなく縦の動きでそれを回避。

 魔神を地面に叩き落とすべく、頭上から仮面の裏側目掛けて攻撃を仕掛ける。

「なっ……!?」

 しかしその瞬間、仮面が真っ二つに割れてジェイの攻撃は空を切った。

 体勢を立て直しつつ振り返ると、黄金色の部分と銀色の部分で仮面が真っ二つに割れている。

 左右に分かれた顔が、唇の端を釣り上げてニィッと笑った。

 それを見た瞬間、悪寒を感じたジェイは影の刃で周囲の木を斬り刻む。

 一本の木は仮面の片割れ目掛けて倒れ、仮面が放った光線はまた別の木が盾となってジェイへの直撃を防ぐ。

 そのままジェイは無事に着地するが、直後自ら斬り刻んだ木が彼の頭上に降り注ぐのだった。

 今回のタイトルの元ネタは『宇宙の騎士テッカマンブレード』の次回予告のフレーズ「仮面の下の、涙を拭え」です。



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― 新着の感想 ―
[一言] 一人だけボルなんとかを叫べなかった 飛田さんだけは何かを拭って良い気もしますね。 主人公の序盤での見せ場だから仕方ないとはいえ、 スパロボ補正をもってしても使用自体ができない 弱小個体と認定…
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