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第140話 影の探偵になりたくて

「それにしても、イヴァンが魔王教団だったとは……」

 更に小神殿長に話を聞いてみたが、彼はケイの祖父が魔王教団である事も知らなかったそうだ。

「イヴァンは優れた神殿騎士でした。彼がセルツに残らなければ、私などが小神殿長になる事も無かったでしょう」

「……あまり熱心な信徒ではなかったのかもしれませんね、魔王教団としては」

 魔王教団が神殿に潜り込み、小神殿長の地位を狙う。ケイの祖父・イヴァンを小神殿長に据えるのが教団の計画だったとすれば、彼もそれを知っていた可能性がある。

 にもかかわらずセルツで婿入りし、アーロには帰らなかった。そこに教団の計画を潰えさせる意図があったと考えるのは、好意的解釈に過ぎるだろうか。

 彼の事を直接知らないジェイは、推察する事しかできない。

「……そうかも知れませんな」

 しかし共に華族学園で学んだという小神殿長は、そう言って懐かしそうに目を細めていた。



「結局のとこ、レイラちゃんは?」

「それについての情報は無しだ」

 その後も小神殿長から話を聞いてみたが、目新しい情報は無かった。

 無論レイラの事は、町の子供達の中でも特に変わり者だと知っていたが、魔王教団との関係については分からなかった。

 ただ、両親が魔王教団という事は無いのでは?との事だ。

 小神殿長は、班長達と話をしに行っており、部屋に残されたのはジェイ一家のみだ。

 ここまで得た情報から、次に打つ手を考えなければならない。

 しかし「ケイやレイラに何かしそうだから、魔王教団らしき人を状況証拠のみで逮捕」という訳にはいかない。魔王教団である事自体は罪ではないのだから尚更だ。

 それはそれとして、兵――アーマガルト忍軍に命じて監視はさせておくが。

 しかし、それだけではまだ足りない。

「モニカ、レイラをこっちに連れてきて保護できるか?」

「えっ? ボクが?」

「俺が行く方がまずいだろ」

 代官代理で来た男が、小さな少女を宿に連れ帰る。何か不名誉な疑惑がいくつか発生しそうである。

「でも、そこで任せるって事は、ジェイ別行動だよね? 大丈夫かなぁ」

 自分が戦力にならない事は、よく分かっているモニカである。

「そっちの従者は調査に使いたいから、俺の兵を連れて行ってくれ。人選は任せる」

「まぁ、護衛としてはそっちの方がいいか」

 モニカの従者は、シルバーバーグ商会からの派遣であり、戦闘よりも町の調査などの方が向いていた。

「それと明日香は侍女を連れて、モニカと一緒に」

「分かりました! お任せですっ!!」

 明日香は護衛対象であると同時に、生半可な護衛よりよっぽど強い。

 そんな彼女を任されるだけあって侍女の方も腕は確かであり、二人とも立派な戦力として考えられる。

「エラはここを頼む」

 『愛の鐘』亭、言うなれば本陣を任せる事となる。

 誰かが訪ねてくると応対する事になるので適材適所ではあるが、エラには気になる事があった。

「あの、それは構わないんだけど……メアリーとケイはどうするの?」

「メアリーなら……」

 ジェイの視線の先を、エラも追う。

「メアリーの事なら任せなさい」

 そこには鬼の女教師モードに入っているポーラの姿があった。教団どころか魔王本人にも対抗できそうな、これ以上ない守りであろう。

「それじゃ、ケイは?」

「ああ、そっちは……」

 続けられたジェイの言葉に、エラは驚きぽかんと大きく口を開くのだった。



「なるほど~、それでゴーシュ名物のナルンを使ったソースなんですね~」

「は、はい……ナルンの爽やかさが魚にも肉にも合い……」

 その日から、ケイは専属取材される事となった。新しい名物料理作成に挑戦する若き料理人のドキュメンタリーである。

 取材を受けるケイは不慣れな様子が見て取れるが、ユーミアは手慣れた様子でフォローしてくれている。

 それも嘘ではない。しかし、それだけではない。

 そう、取材班こそが彼の護衛だ。

 華族学園卒業生が多いPEテレスタッフの中でも、場合によっては危険もある地方ロケを任される意外と武闘派が揃ったチーム。

 酔った勢いで山の展望台まで駆け上がれる程度には鍛えられた面々である。

 ロマティも手伝いに入った事で、外側に目を向けるスタッフを増やしている。

 なお、魔王教団らしき者達が接触してきた場合、取材班の方で取材してもいいという話になっている。もちろん、得た情報はジェイ達にも伝える事が条件だが。

 おかげでスタッフ達はやる気満々であり、仕事モードのスイッチが入っていた。

 ちなみにオードだが、彼も一人でうろつかせていては危ないので、ここに加えてもらっている。護衛としても最低限の戦力にはなるだろう。

 今はスタッフ側で腕を組み、何やら大きな態度で撮影中のケイ達を見ていた。


 宿内での撮影なのでエラも見に来ており、取材スタッフが()()()逃がさない(取材する)と目を光らせる様子に、ほっと胸を撫で下ろしていた。

 その隣に立つのはジェイ、ユーミア達とケイの件で話をするためこちらに来ていた。

「こちらは大丈夫そうですね」

「それじゃ部屋に戻ろうか」

 そう言って二人は、その場を離れて部屋に戻る。

 自身には役割を割り振っていなかったジェイだが、もちろんここでエラに仕事を任せてのんびりする訳ではない。

「後は頼むぞ」

「はい、奥の部屋で調べ物をしているという事にしておきます」

 彼は彼で調査をするのだ。『愛の鐘』亭にいる事にしつつ、密かに影世界から。

「それじゃ行ってくる」

 そう言ってジェイは、自らの影に『潜』って行った。

 小さく手を振ってそれを見送ったエラは、ソファに深く腰を下ろして、大きなため息をつく。

「……ホント、お世話になってばかりね」

 そして天井を仰いでポツリと呟いた。



 一方ジェイは、モノクロの影世界を駆けていた。

 祭壇で聞いた彼等の話、その中でもジェイが特に気になっているのは百魔夜行――魔王軍の残党が帰ってくるという話だ。

 話の真偽も問題だが、そもそも彼等はそれをどこで知ったのだろうか?

 今ここにいるジェイが勇者と魔王の魂が混ざって転生した張本人なのだから、魔王が戻ってくるという事は有り得ない。ならば、残党を率いているのは一体誰なのか?

 何かしらの連絡を取る手段があるはずだ。それを調べねばならないと。ジェイはまず影を『添』えて追跡した魔王教団員の家へと向かうのだった。

 今回のタイトルの元ネタは、現在アニメ放送中の『影の実力者になりたくて』です。

 ジェイは実力者としてはあんまり隠れていませんが、捜査している所は影に隠れています。文字通り。


 ケイの祖父の名前がイヴァン(Ivan)なのは、「K」の二つ前だからです。

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― 新着の感想 ―
[一言] じゃあ父親の名前は……ジヴァン! 対バイオロン法!(中年読者)
[一言] 魔王への恐怖の信仰が集まれば 魔王化したりするんだろうか?ジェイ
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