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第138話 過去は石の下から這い出して

「とりあえず、話を聞いてみよう」

 そうしなければ始まらない。ジェイは、ケイに会いに行くべくソファから立ち上がった。

「あ、今厨房に行ってもメアリーや宿の人達が……」

 エラが気付いて声をあげた。試食などで協力してもらっているらしい。

 向こうに出向けば、彼等にも話を聞かれてしまうだろう。どこまで魔王教団が入り込んでいるか分からない今、それは避けたい。

 そういう事ならばと、新作料理の件で話があるとケイを呼び出す事にした。

 しばらくすると、ケイが訪ねてきた。試作品だという小さな包みをいくつも乗せたトレイを持って。

 部屋に入るとオードとユーミアもいる事に気付いて驚いたが、包みの数を確認して多めに持ってきて良かったと胸を撫で下ろす。

 ジェイとしてはそちらも気になるが、それは後回しにしてまずは話を聞く。

「ええ、酔って夜の山を登ろうとした話なら……幽霊船? この辺りにそういうのが出るって話は聞いた事がないんですが……」

 何かを隠そうとしているような様子は無い。本当に心当たりがないようだ。

 レイラについても聞いてみたが、仕事上子供と会う事はあまりないので知らないとの事。また同じ名前の人も思い当たらないらしい。

「あの……言えた立場でない事は重々承知ですが、エラ様を始めとして三人も婚約者がいらっしゃるのに、更に増やそうとするのはどうかと……」

「違うから」

 本当に、雇い主の娘と駆け落ちした男が言えた義理ではない。


 しかし、本当にケイは何も知らないようだ。

 ならばとジェイは、展望台の対岸に洞窟があり、その中に魔王教団の祭壇があった事。そこに来た骸骨の覆面達がケイとレイラの名前を出した事を伝える。

 するとケイは「魔王教団」の名を出した辺りから顔を青ざめさせ、全て伝え終える頃にはカタカタと肩を震わせ、目を泳がせていた。

「も、申し訳ありません!!」

 そして勢いよくジャンピング土下座を披露する。

 突然の事に皆驚き戸惑うが、ジェイだけは動じずに近付いていく。

「顔を上げろ。何に対して謝ってるか分からん、ハッキリしろ」

「は、はい……」

 そして、改めて彼を座らせた。

「卿は動じんな……」

「ああされたら、懐で何してるか分からんからな」

 幕府の隠密騎士達と戦ってきた経験である。先程は自害を警戒しての行動だった。

 それはともかく、説明するよう促すとケイはぽつりぽつりと話し始める。

「実は俺……知ってました……あの骸骨の覆面が魔王教団だって事……」

「町で目撃されてた覆面達もそうなのか?」

「は、はい……」

 ケイはコクリと頷いた。

「吾輩が目撃したのもそうだったのか……あんな場所で何をしていたのだ?」

「それは……オード君がセルツの隠密騎士だと疑ってたみたいです」

「…………はいぃ!?」

 驚きの声をもらすオード。疑われていた本人が一番驚いている。

「その……急に観光客が来たのが信じられなかったみたいで……」

「じ、自虐だな……」

 つまりセルツが、長期実習生の俺達に危険が無いよう探りを入れてきたのではと考えたのだろう。タイミングとしては有り得ない話ではない。

 オードが隠密騎士のように見えるのかという疑問もあるが、傍目に隠密騎士に見える者は、そもそも向いていないのである。


「……話を戻そう。ケイはどこであの覆面達が魔王教団だと知ったんだ? 祖父がここの出身だそうだが、その人から聞いていたのか?」

「いえ、祖父からは何も……本人達から、誘われていたのです。戻って来るようにと……」

「本人達?」

 明日香が首を傾げて尋ねる。

「……もしかして、この前宿の前で絡んでた連中か?」

 更にジェイに指摘されると、ケイは一瞬躊躇したが頷き肯定した。

「それなら『戻って』というのは何の事だ? 既にゴーシュに戻ってる訳だが」

 そう問われると、ケイは苦渋の表情を浮かべた。それでも隠してはならぬと、言葉を絞り出す。

「それは……魔王教団に……」

「ケイ、あなた魔王教団だったの!?」

「ち、違います! 祖父です、魔王教団だったのは!! いや、私も彼等から聞いただけなのですが……」

「それって、セルツで婿入りしてアーロに戻らなかったっていう?」

 モニカの問い掛けに、ケイは乱れた呼吸を整えながらコクリと頷いた。

 聞き捨てならない話だ。それに気付いたのはジェイ、エラ、ユーミア。エラとユーミアは驚き、目を丸くして顔を見合わせる。

「……ちょっと待て、その人は神殿騎士だろう?」

 ジェイの言う通り、ケイの祖父は神殿騎士だ。ゴーシュの小神殿に仕えていたという。

 セルツに留学していたという事は、その中でも選りすぐりのエリートであり、後の小神殿長候補の一人であったはず。

 その中に魔王教団が混じっていたというのだ、ケイは。

「もしかして、今の小神殿長も?」

「……いえ、多分違います。その、本当なら祖父が小神殿長になっていたんだと愚痴のように言われたので、おそらくですが……」

 今の小神殿長も魔王教団ならば、そんな風には言われていないだろうという事だ。

「魔王教団の人間を小神殿長にする計画があったのか……」

 ケイの聞いた話に間違いがなければ、彼の祖父をゴーシュの小神殿長にしようとしていたのだろう。

「もしかして、ケイのお爺様って魔王教団の野望を挫いたの?」

「結果的には、そうなるな」

 魔王教団にとって痛手であった事は確かだろう。

 ただ五年前に病気で亡くなっているらしく、それが意図的であったかどうかは確かめる術が無かった。


「あのー、結局のところ魔王教団に戻って何するんですか?」

「えっ?」

 小さく手を上げて明日香が尋ねた。確かにそれは気になるところだと、ジェイ達の視線もケイに集まる。

「具体的に何かしろという話は……ただ、焦っているようでした」

「焦ってる?」

「はい、それが……私もにわかには信じがたいのですが……」

 ケイは言って良いものかと躊躇している様子だったが、ジェイ達を一通り見回してゴクリと息をのみ、そして口を開く。


「『死の島』から魔王が帰って来る。だから、その前に魔王教団もかつての勢力を取り戻さなければならない。彼等は、そう言っていました」


 明日香がハッと気付いてジェイを見る。その視線に気付いた彼も、彼女を見てコクリと頷いた。

 「死の島から」「帰って」、洞窟の祭壇で彼等が言っていた言葉である。

 今回のタイトルの元ネタは『ジョジョの奇妙な冒険』のセリフ「過去は……バラバラにしてやっても石の下から……ミミズのようにはい出てくる……」です。

 ケイから見れば、この「石」は「祖父の墓石」でしょうね。

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