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第133話 PSニュース編成会議

「こんなに立派な宿があるのに観光客を迎える準備がまだなのね~?」

「宿完成したところで力尽きたのかも?」

 宿だけ作ればいいと考えていた可能性もある。

「困りましたね~、ゴーシュの紹介も兼ねるつもりだったんですけど」

 ユーミア達の取材の目的は、言うまでもなくジェイの長期実習の取材だ。PSニュースの特集コーナーで、週一回放送する予定らしい。

 ただ、彼女達は長期実習が「トラブルが起きない限りは意外と地味」である事を知っていた。

 そこで、並行してゴーシュの観光案内もしようと考えていたようだが……。


 その辺りはジェイ側も予測できていたので、ひとつ手を打っていた。

「ふむ……それでナルンの料理を作らせているのか?」

 旅慣れているからか、近くのテーブルでくつろいでいたオードがそれに気付く。

「吾輩も、名物料理目当てに旅先を選ぶ事もあるな!」

「一番手っ取り早いというか、取材までに間に合いそうなのがそれぐらいだったんだ」

 実際ケイは、ナルンソースの料理を完成させている。

「確かに、グルメレポートは強いですね~」

 ユーミアも同意した。地方レポートでは割と鉄板であるらしい。

 ここに来る途中、ペスカ揚げを取り上げたのもその一環だそうだ。

「上手く行けば、地元の特産物が売れるからな」

 ちなみにジェイは、この件を故郷アーマガルトのアマイモケーキを参考に進めていた。

 あれはジェイの母・ハリエットが中心になって進めていた物だ。

 幕府軍との戦いの後、アーマガルトを訪れた取材班に売り込んでいる姿を見て、ジェイは「転んでもただでは起きないな」と思ったのを覚えている。

 それはともかく、地元の産物が売れるようになるのでグルメ方面で攻めようという領主は結構多い。

 その上で今回のように「テレビで宣伝してもらう」というのは、一気に知名度を上げるのに良い手なのだ。

「代官の功績って感じじゃないですね~」

「俺は領主の実習のつもりで来てますんで」

 代官でもそれぐらいの結果を出せば評価されるだろうが、そこまでやる人、やれる人はほとんどいないのが現実だった。


「初回は町の大通りの紹介と、普段のお仕事紹介と……ビーチがいいかしら?」

 ふと、そうつぶやくユーミア。初回の放送内容を考えている。

「ああ、ビーチは更衣室がまだ無いんですよ。この町の人達、家で着替えてビーチに行くみたいで」

「あらま~、水着で町を歩くんですか? 皆さんも?」

「流石に上着を羽織りましたよ」

 ゴーシュの人達も大人は大体羽織るそうだが、全員ではないらしい。

「『賢母院』様も?」

「羽織らせましたよ」

「さっき港で見たのは~……」

「今日も水泳教室をするとは思ってなかったので……」

 ハッキリ言ってしまえば、油断していた。

「ビーチに一番近い建物の中身を明日引越しして、そこを観光客用の更衣室にするって話が進んでるので……」

「あら~、あらあらあら~♪」

 するとユーミアは、顔をほころばせた。

「町おこしのためにがんばる人達~、いいわね~♪」

 良い取材対象を見つけた顔である。

「あなた達も行くのかしら~?」

「町の人達に任せるつもりでしたけど……行った方がいいですか?」

「ぜひ~♪」

「まぁ、そういう事なら」

 代官修行の一環として、町の人達を手伝うという絵が欲しいのだろう。

 領主としてもそういう事はしたりするので、ジェイは素直に話を受けた。

「町長さんにも話を通しておかないとね~♪」

 そう言ってユーミアは立ち上がろうとしたが、班長が慌ててそれを止めた。

「ユーミアちゃん、そういうのは俺がやるから!」

 そして、町長に話を通す役目を自ら買って出る。

 普段から彼女が取材班の中心になっているので、こういう事を率先して引き受けないと存在感を発揮できないのかもしれない。


 という訳で、班長は町長の下へと向かった。

 丁度そのタイミングで、買い物に行かせていた家臣が戻って来る。

「お嬢様、何冊かセルツでは見掛けない物がありました」

「ありがとっ!」

 モニカが本を買いに行かせていたのだ。家臣はもちろん、シルバーバーグ商会から派遣された一人である。以前からよくあった事なので、彼の方も手慣れていた。

「あら~、何を買ってきてもらったの~?」

「本ですよ。アーロにしかないの、何かないかな~って」

 モニカは昔から本好きで、エドが取引で地方に行った時などは、本をおみやげにもらうのを一番喜ぶタイプだった。

「ああ、そこでしか手に入らない物を買う。旅の醍醐味ね~」

 地方リポートを得意としているだけあって、ユーミアもその辺りの機微に理解があった。

「あら~? それは絵本?」

「えっ、あ、はい! 『百魔夜行』の絵本って知ってます? 『おばけの行進』って名前で私達が子供の頃にもあったやつ」

「ああ、それなら私も読んだ事あるかも。可愛い名前なのに怖かったわ~」

「そうそう、それです! あれってゴーシュが本場らしくて、今も新しいのが出てるらしいんですよね。だから、懐かしいな~って」

 モニカは割と人見知りをする方だが、本に関してならよく喋ったりする。

「今のやつ、ホントに名前通りに可愛くなってますよ」

「そうなの~? ちょっと、見せてもらってもいいかしら~?」

 ユーミアが興味を持ったので、モニカは早速買ってきたばかりの『おばけの行進』を貸す。レイラがビーチで読んでいた物と同じ絵本だ。

「あら~、今のってこんなに可愛いのね~♪」

「でしょ? お祭りで仮装行列するらしいけど、こんな可愛いのばっかりだといいな~」

「ああ、百夜祭があるのよね~」

「先輩、ご存知なんですか?」

「地方ロケに行く時は~、事前にその土地の事を調べるのよ~」

 今ではもう、習慣になっているそうだ。

「仮装の方の可愛さは期待できないんじゃないか?」

 ここでジェイが口を挟んだ。

「骸骨が目撃されたって聞いて駆け付けた事があるけど、結構不気味なヤツだったらしいぞ」

 例の骸骨の目撃情報などから考えるに、仮装の方は絵本のようにはいかないだろうと考えたのだ。

「あらま~、骸骨が目撃されるって本当だったのね」

「仮装の準備をしてたらしいですけどね」

 無駄足でしたよとぼやくジェイ。

 するとユーミアが、何故か神妙な面持ちになる。

「……やっぱり出るのね、骸骨」

「仮装ですよ?」

「そうとはかぎらないわよ~?」

 するとユーミアは前に出した両手をだらりと下げ、べっと舌を出す。


「ここってよく骸骨が目撃されてるらしいのよ~。百夜祭の時期に限らず、一年中。仮装行列の中に本物が紛れ込んでるなんて噂もあるんだから~♪」


 怪談話として怖がらせようとしているのだろう。そう言いつつも、彼女の表情は楽しそうだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] リアル造形の骸骨が魔神だとしても、話が通じて法を犯さないなら気付かないフリするのがお互いの為なのかも
[一言] まぁ、定期的に偵察しつつ祭りを楽しみたいのもいるだろうなぁ。 元人間だし。
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