第132話 女子アナ、襲来
エラの悩みに関しては、モニカがこっそりジェイにも伝えたようで、それ以降彼も触れないようにしていた。エラが答えを出すのを待つ事にしたようだ。
ただ、そうやって気を遣われている事に彼女も気付いたらしく、ジェイとエラの二人はどこかぎくしゃくしている。
そして翌朝、『PSニュース』の取材班が到着するというのでジェイ、エラ、明日香、モニカは港まで迎えに行く事になった。
取材班の中にはクラスメイトのロマティもいるという事で、オードも一緒に来ている。
港に到着すると、既に近付いてきている船の姿が見えていた。町の人達も、テレビで見る有名人を一目見ようと集まってきている。港は野次馬で一杯だ。
船側もそれに気付いたらしく、ファンサービスなのか今回のレポーターである少女が先頭に立って港に降りた。
肩まで伸ばした桃色の髪。そのふわふわした髪を左右のリボンで飾っている。
「みなさ~ん、はじめまして~」
ひらひらと手を振るその姿は、ゆるふわな雰囲気を醸し出している。
ジェイの顔は知っていたようで、彼の姿に気付くと軽やかな足取りで駆け寄り、両手でその手を取って握手をする。
「放送部二年生の~、ユーミア・瓜生・グレースで~す。よろしくお願いしますね~♪」
そしてキラキラと輝かんばかりの大きな瞳で真っ直ぐに見つめて挨拶をした。
二年生だが「可愛い」という表現が似合いそうな愛嬌のある顔。
背丈はジェイより少し低いぐらいで、均整の取れた身体つき。ゆるふわな雰囲気だが、意外と押しが強そうでぐいぐいと距離を詰めている。
ジェイはそこまで反応していないが、町の人達の心は鷲掴みにしているようだ。
取材班の責任者である班長が来て、これから通りの商店を取材しながら『愛の鐘』亭に向かう事がジェイ達に伝えられた。
連合王国内とはいえ別の国。流石に学生だけに任せる訳にはいかなかったのだろう。班長はPEテレ社員だ。
しかし準備をしている取材班を見ていると、その中心になっているのはユーミアであるように見えた。班長も、ユーミアに相談しながら仕事を進めているようだ。
「みんなぁ~!」
取材班の方を見ていると、最後に船を降りてきたロマティが声を掛けてきた。ポニーテールを元気よく揺らしながら駆け寄ってくる。
取材班とは別に動いているように見えるため、オードが首を傾げる。
「向こうは手伝わなくていいのかな?」
「私の仕事はこちらなんで!」
そう言ってロマティはカメラを構えて見せた。
今回のロマティの仕事は、新聞に掲載する記事を書くための取材。それに取材班とジェイ達を仲介する事であった。
「ジェイ、私は今日も水泳教室をしますので」
その時、子供達を引き連れたポーラが通りかかった。
昨日と違うが、露出度は互角の水着。パーカーを羽織っているが前は開いており、圧倒的質量の双峰を堂々と揺らしながらの行進である。
引き連れる子供の人数に、そんなに泳げない子がいるのかという疑問が浮かぶが、それについては触れてあげないのが武士、いや騎士の情けである。
その強烈な存在感に、取材班も思わず手を止めてその姿を見送った。頭が真っ白になっていたのかもしれない。
「ロマティ、シャッターチャンスだぞ」
「恐れ多いですよ!?」
ロマティは、思わず悲鳴のような声を上げた。
『賢母院』ポーラ、華族学園の大講堂にお堅い出で立ちの肖像画が飾られている、セルツの教育史に名を遺す偉人である。
「ところで、どうしてオード君もここに?」
「今まで行った事がない所に行ってみようと思ってね!」
そして観光地としては無名なゴーシュに来た結果、メアリーの駆け落ちを知って失恋したのだから、なかなかに不運である。
「ところでロマティ、あの人はどういう人だ? 班長より上に見えるんだが」
「えっ? ああ、ユーミア先輩ですか。すごい人ですよー。いつも班をまとめて取材を進めててー」
「上手くやってるんだな。頭も回るのか」
「はい、ぐりんぐりんと!」
テレビではそういう素振りを一切見せないようだが、ただのゆるふわではないようだ。
放送部内で行われた争奪戦の勝者というのは伊達ではないという事であろう。
その後一行は大通りの店をいくつか取材しながら『愛の鐘』亭へ向かった。
「へ~、同じペスカ揚げでも店ごとに結構違うんですね~」
「あちらの店は、特に変わり種ですよ!」
「それは楽しみですね~、行ってみましょうか~」
取材されながら案内するのは町長ベネット。遠目でも分かるぐらいにデレデレである。
そして「自然豊かですね~」とかレポートしながらら山道を進み、『愛の鐘』亭に到着。
「結構体力あるな、あの人」
「ああ見えて、地方ロケが得意らしいですよー」
ベネットの体力に合わせているのか、話をしながらゆったりとしたペースで進み、『愛の鐘』亭に到着。
ユーミアはここまで喋り通しだったが、息も切らせていなかった。
まずジェイが門衛として配置していた家臣を脇にどけ、それから収録を再開して『愛の鐘』亭の主人が合流する。
「それじゃあ次は~、宿の中を案内してもらいま~す♪」
片手を上げ、明るい声で宣言するユーミア。そしてそのポーズのまま動きを止める。
「はい、オッケーでーす」
そうスタッフが声を掛けると、そこでようやく彼女は手を下ろした。
そして大きく息を吐く。平然としているように見えるが、実は疲れを見せないようにしているだけかもしれない。
そんな彼女は、ジェイに向かって大きく手を振る。
「昴さ~ん、中の取材の前に、打ち合わせお願いしま~す」
「俺達とも、ですか?」
「そちらの警備兵は映さない方がいいですし~」
「ああ、なるほど……」
ゴーシュの警備兵ならば映っても問題無いが、ジェイが連れてきた兵が映るのは避けたいとの事だ。
ジェイの方からも、メアリーとケイの件をある程度説明しておかねばならないだろう。エラに視線を向けると、彼女はコクリと頷いた。
主人に案内され、打ち合わせは中に入ってすぐのロビーで行われる。
「実は、こっちでちょっと問題が起きて……」
「はい?」
「その、駆け落ちしていた妹が、ここで見付かったんです」
「あらま~……」
目を丸くして驚くユーミア。
「その二人は映さないように~という事ですね~」
「いや、駆け落ち相手の方が今、ゴーシュの特産品であるナルンを使ったメニューを開発しているんだ」
ここでジェイが補足する。
「あら~、それなら話を聞く事もあるかも知れませんね~。分かりました~。その時も駆け落ちの件には触れないでおきますね~」
「よろしくお願いします……」
ユーミアの方もすぐに察してくれたようで、この件についてはすぐに話が付いた。
それから更に、ジェイ達の方からゴーシュに分かっている事を伝える。
「……え~? 観光客を迎える準備、まだできてないんですか~?」
すると、流石に予想外だったのか、ユーミアはゆるふわながらも頬をひきつらせた。特に海水浴場であるビーチの準備不足は予想外だったらしい。
これには取材の予定を大幅に変更する必要があるようで、ユーミアと班長はその場で予定表を手に小声で相談し始めるのだった。
今回のタイトルの元ネタは、『新世紀エヴァンゲリオン』のサブタイトル「使徒、襲来」です。




