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第129話 (胸が)威風堂々

 昼も近くなり、明日香とジェイ達もパラソルの下に戻ってきた。それに気付いてポーラ達も水泳の練習を切り上げてくる。

「お昼はどうするの? お店無いよね」

 この海岸には、いわゆる「海の家」的な店は無い。基本的に地元の人しか来ないからだ。

 彼等は家からお弁当を持ってくるか、買いに行く。今日は子供達も買いに行く事になっていた。

 ジェイ達も大通りの方で買い物をするため、お昼は買いに行く事になっている。

「買いに行くの? どこに?」

「向こうの大通り」

 そう、大通りまでペスカ揚げなどを買いに行くのだ。水着姿で。

 モニカが気付いて、子供達と子守りの女性達を見る。

「ああ、そっか。ここじゃ、それが普通なんだね」

 セルツの方では大抵海の家などがあるため、こういう事はあまり無い。なので観光客を呼ぶ前に実際に体験してみようという考えである。

「……観光客が来るようになったら、どうなるんだろうな」

「……どうだろ?」

 モニカとしても海に来て水着姿を見られたくないとは言わないが、町を歩いて水着姿を見られるのは少し違う気がしている。

 という訳で一行は、丈が長めのパーカーを羽織って買い物に行く事にした。

 なお、ポーラは羽織らずにスリングショットの水着だけで町に行こうとしたので、エラが慌てて後ろからパーカーを羽織らせるのだった。



「これはこれで楽しいわねぇ……」

 串に刺したペスカ揚げを手にエラがつぶやく。

 軽く食べられる物をいくつも買って海岸に戻り、賑やかな昼食となっている。

「……でも、買い物に行く服装、もうちょっとなんとかしたいわねぇ」

「そーですか?」

 しかし水着の上にパーカーを羽織って町で買い物をするというのは少々抵抗があったようだ。

 もっとも、明日香の方はさほど気にしていないようなので、この辺りは個人差だろう。観光地としてやっていく事を考えれば、放置していい問題でもないが。

 とはいえこの件は、町長達とも話す必要があるだろう。『愛の鐘』亭に戻ってからである。


「う~ん、微妙に内容も変わってるなぁ」

 モニカは、レイラから『おばけの行進』を借りて見せてもらっている。

 レイラの方はと言うと、その隣にちょこんと座りつつも、森の方を気にしてそわそわしていた。

 それに気付いたジェイが影を使って森の方を探ってみるが、それらしい者はいない。

 ならば何が気になっているのか。気になったジェイは、レイラに声を掛けてみる。幼い頃にモニカに声を掛けていたように努めて優しく。

「どうかしたのかい?」

 するとレイラは勢いよく振り返ってジェイを見る。

 そのキラキラと輝いていそうな目を見て彼は思った。あ、これはモニカはモニカでも、おどおどしている時などではなく、好きな本とかを見つけた時のモニカだと。

 少女は森を指差しながら言う。

「ね……ねえ、ねえ……あそこに骸骨がいたんでしょ?」

「もう少し向こうかな」

 ビーチの奥の方を指差すと、レイラはふらふらとそちらに行こうとしたので、ジェイは慣れた様子で「もういないぞ」と止める。

 それでも見に行きたがっているレイラ、これは止まりそうにない。

 そこでジェイは、昼食後レイラを目撃された場所へと連れて行く。勝手にふらふらとどこかに行ってしまわないように手をつなぎながら。


「おぉ~……」

 件の場所を見せると、レイラは感嘆の声を上げた。そして案の定、ふらふらと森に近付いて行こうとする。

 ジェイもここは、止めずに手を離さぬようにして付いて行く。

 ビーチから見える場所なので森と言っても入ってすぐの場所なのだが、それでも水着でいるのは少々浮いているかもしれない。

「……ここにいたの? 骸骨……」

「そうらしいぞ」

 しゃがみ込んで骸骨が立っていたであろう草むらを見るレイラ。ジェイも手をつないだままそれに合わせてしゃがむ。

 正体が町の人の仮装であった事を知っているが、ジェイはあえてそれについては触れなかった。子供の夢を壊す事はない。

 ただ、再びこの場所に来てみて思う。

 目撃された骸骨達、隠れて仮装の準備をしていたと言ってが、はたしてそれは本当だったのだろうか。

 主婦や子供達が集まるビーチ。その近くの森に潜む覆面をした不審者。改めて並べてみると、何か別の罪状があるのではないかと考えてしまう。

「……いや、それは無いか」

 そしてすぐに、それは無いと考え直した。

 なにせこの町では、水着姿で町を歩くのが当たり前なのだ。わざわざ覆面被って隠れてビーチを覗いて、何を見ると言うのか。

 これが着替え用の建物近くに潜んでいたら話は別ではあるが。

「ねえ……ねえ……」

 レイラに手を引かれている事に気付いてそちらを見ると、嬉しそうな大きな目が上目遣いでジェイの顔を覗き込んでいた。

「知ってる? 骸骨ってね……ここ以外にも色んな所に出てるんだよ?」

 その瞬間ジェイはピクリと眉を動かしたが、それ以上は表情に出さないように努めつつ、身振り手振りも一生懸命なレイラの話を聞いてやるのだった。

 隠れて準備をしていたと言うが、目撃された骸骨は皆同じ人物なのか。同じ人物であれば何故場所を変える必要があったのかと考えながら。



 その後夕方まで遊んだ一行は帰路につく。

 子供達は水着のまま帰るので着替え用の建物の前で別れる事となる。レイラは名残り惜しそうにジェイとモニカの方を振り返りつつ帰って行った。

 着替えを終えたジェイ達は『愛の鐘』亭に戻るが、近くまで来たところで何やら言い争う声が聞こえてきた。

 真っ先に走り出したのは明日香。ジェイは即座に護衛の家臣達を残る者と付いて来させる者に分けて駆け出す。

「こらー! 何をやってるんですかーっ!!」

 明日香の声が聞こえ、ジェイは更にスピードを上げた。

 すると『愛の鐘』亭の入り口に数人の人影が見えた。

「あれは……!」

 そこの居たのはケイ。そして彼を取り囲む屈強な三人の男達であった。

 今回のタイトルの元ネタは、エルガー作曲の行進曲『威風堂々』です。

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― 新着の感想 ―
[一言] スリングショットの水着だけで町中を歩いたら恥女として捕まりそうですわww(ある意味威風堂々)
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