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第126話 ○○しか見えない

 PEテレで激戦、あるいは暗闘が繰り広げられている頃、ジェイ達の代官業務は軌道に乗って、ようやくのんびりとした時間を過ごせるようになっていた。

 酒が過ぎて喧嘩に発展するような事件は起きたりしている。しかし、ジェイ達が慌てて動かなくても大丈夫な態勢ができていた。

 今はジェイがやらねばならないのは、神殿騎士のダニエル、町長のベネットと祭りに関する打ち合わせをするぐらいだ。

 と言っても祭り自体は町の人達に任せる方針なので、ジェイ達がするのは警備の打ち合わせぐらいである。それこそがジェイの一番気にしている事ではあるが。

 なお、小神殿側としては今年はジェイ達がいるという事で例年よりも厳しい警備をしたいと考えている。

 しかし町側としては、祭りの邪魔にはならないで欲しいとの事だ。武装した兵が目に付いては祭りを楽しめないというのは理解できる。

 自警団から動員されたら、その者達は祭りに参加できないというのもあるだろう。

 なおその件については、本神殿が援軍を出してくれる事になっている。アーロなら安全だろうと実習先に選ばれた経緯があるため、神殿側も面子が懸かっているのだ。

 この辺りは打ち合わせと言っても、基本的にジェイが意見を出す事はない。他所から来た代官、しかも代理と、現地人の二人なのだから下手に口出ししない方が良いのだ。

 出すとすれば、警備の戦力が十分かについてぐらいだ。こちらならばジェイの方が専門家である。


 という訳で、今日のジェイ達は割と暇であった。

 PEテレの取材班が来るまであと数日あるので、それまではこの状況が続くだろう。

「それじゃあ、遊びに行きましょうっ!」

 元気よく提案してきたのは明日香。

「いいわねぇ、デート」

 そこにエラも乗ってきた。

「というか、取材班が来る前に一通り見ておいた方がいいんじゃない?」

 最後にトドメと、モニカが実利的な面からフォローを入れる。この辺りの思考は商売人ならではだろうか。

 実際ダニエルにもベネットにも『愛の鐘』亭に来てもらうばかりで、ジェイ達から出向く事は少ない。

 エラとモニカにいたっては、港とそこから『愛の鐘』亭までの通り、そして骸骨の騒動の砂浜ぐらいしか行った事がなかった。

 ジェイと明日香は巡回で一通り町を回っているが、巡回中は手を抜かないため、観光客的な視点で町を見た事は無い。

 取材で紹介したい候補は、ベネットから既に聞いている。モニカの言う通り、今の内に見て回っておいた方が良いだろう。

「……よし、それじゃ今日は町を見て回るか」

 ジェイのその言葉に、三人は心の中でガッツポーズをした。

 元々彼女達、いやジェイも含めた四人は、この夏の長期実習の間に夫婦――まだ婚約者だが、その関係を進展させたいという思いがあった。

 なお、その思惑をいきなり吹っ飛ばしたのがエラの身内である事については、触れないでいてあげるのが親切というものだろう。

 とはいえ出鼻をくじかれたのは確かであり、ここ数日ジェイは代官業務を軌道に乗せるのに邁進していたのだ。おかげで忙しくてそれどころではなかった。

 しかし、それも終わった。そして、取材班が来ればまた忙しくなるだろう。

 ならばそれまでに当初の思惑を進めていきたい。そう三人は考えていた。


 まず一行が向かったのは港と『愛の鐘』亭を結ぶ通り。観光客が来れば、港の次に訪れる場所であろう。

 今までは通り過ぎるばかりでどんな店があるかを知らないため、それを把握しておこうと考えていた。

 時間は昼、皆が集まって祭りの準備をする夜と比べると静かだ。

 ここに人が集まるのは基本的に朝一を含めたご飯時、今は漁に出ている者も多いのだ。

「ここって町の人向けなんだろうね」

 モニカの評価が、そのものズバリであった。

 今まで観光客があまり訪れていないのだから当然かもしれないが、全体的に町の人向けの店が多い。

 『愛の鐘』亭と一緒に何軒か観光客向けの店も作られたが、土産物店などは閑古鳥が鳴いている。

 その一方で食事を提供する店は、町の人も利用するので比較的マシといったところか。

「ジェイ、ジェイ、これ美味しそうですよ!」

 明日香もお持ち帰りの店に興味を示した。

 「ペスカ揚げ」と呼ばれる新鮮な魚のフライ。この辺りの定番料理であり、店ごとにこだわりの味付けがあるそうだ。

 ちなみに「ペスカ」というのは、「魚」を意味するアーロの古い言葉を省略したものだ。

 彼女が興味を示した店は、練った魚を揚げている変わり種であった。

 食べ歩ける物なので、それを手に四人で通りを歩く。中身の食感は蒲鉾に近い。香辛料が効いており、なかなかに食べ応えがある。

 他の店も覗いてみると、見た目からしてまったく違うぺスカ揚げがあった。

 中にはさっぱりした味付けで食べやすい物もあり、エラがそれを気に入っていた。

「こんなのがあるなんて聞いてなかったわ」

「観光の目玉とは言わないけど、あるとうれしいよな。こういうの」

 しかしこれに関してはベネット達からは何も聞かされていない。

「身近過ぎるんじゃないかなぁ」

 モニカの言う通り、こういう物は当たり前過ぎて案外気付きにくいのかもしれない。


 それからも一行は、ベネットオススメの観光地を巡った。

 町を出て少し歩くと海を一望できる岬があったり、もう少し歩くと海を一望できる丘があったり、引き返して少し山を登ると海を一望できる展望台があったりする。

 最後の展望台に到着した時には夕方になっており、海の向こうに沈んでいく夕日を見る事ができた。

「海ばっかりじゃん!」

「山もあるわよ、モニカちゃん」

 仕方がないと言えば仕方がないが、いわゆる「絶景ポイント」が多い。

 ちなみに『愛の鐘』亭の露天風呂から見える海も、絶景ポイントのひとつである。位置の問題で男湯から見えないが。

 そうしている間に、夕日は沈み切ってしまった。

 それを見届けた明日香は、ジェイに向かって振り返る。

「ねえ、明日は海に遊びに行きませんか?」

「そういえば、今日は回る時間が無かったな」

 どうせなら海水浴を楽しみたいと後回しにした結果である。

 紹介されている最後の観光地、それが海水浴場だ。実は、骸骨騒動があったあの砂浜である。

「そうだな、明日行ってみるか」

 すると明日香は「やった!」と笑顔を見せ、二人の後ろでモニカとエラが手を合わせて喜んでいた。

 今回のタイトルの元ネタは曲のタイトル「あなたしか見えない」です。

 ○○に入るのは「山海」ですね。

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