第112話 彼女達が水着にきがえたら
シルバーバーグ商会の支店に出向いたところ、モニカの父・エドが対応してくれた。
ジェイ達は、そんなにしょっちゅう来ているのかと思ったが、そうではない。長期実習の話を聞き、何かと入用になるだろうと、こちらに顔を出していたようだ。
ジェイ達は、店ではなく奥の部屋で話をする。そこはお得意様用の応接室であり、商品を並べて見せる事もあるため広めの部屋だ。
今日は水着を買いに来た事は既に伝えており、水着がずらっと吊るされたハンガーラックが部屋に運び込まれてくる。
夏休みに合わせて、種類も多く取り揃えられているようだ。
明日香達の興味はそちらに向かっているようなので、話している間に見てもらっておく事にする。
「なるほど、アーロに行く事になりましたか……」
早速長期実習の行き先がアーロのゴーシュに決まった事を伝えたところ、エドはアーロは取引先のひとつである事を教えてくれた。
「ただ、西側に回った事はないので、地図は少しお待ちください」
といっても北東側の港を使っているようで、ゴーシュがある島の向こう側については詳しくないとの事だ。
夏休みまでに地図以外も色々と調べてくれるそうなので、ジェイはひとまずそこで話を切り上げる事にした。
ジェイが視線を向けると運び込みは終わったようで、婚約者達にポーラを加えた四人はそれぞれ水着を選んでいる真っ最中だった。楽しそうな様子で盛り上がっている。
ジェイはすぐに、そちらに近付いて行く。
「どうだ?」
「一応候補は絞ったわ」
そう言ってエラは、色もデザインも異なる二つの水着を持ってきた。
ハンガーに吊るされたそれを、身体の前に持ってきて見比べさせてみる。
「ねえ、どっちがいいと思う?」
「その二つなら右かな。ほら、エラは色白だから明る過ぎる色のは……」
「……確かにそうね。もうちょっと選んでみるわ」
そう言ってエラは、再び水着選びに戻って行った。候補を絞ったと言っても、最終候補という訳ではなかったようだ。
「ジェイー! 見てくださーい!」
しかし明日香はあっさり決めたようだ。
「いや~、王国って水着の種類も多いんですね! 目移りしちゃいましたよ!」
本人はこう言っているが、かなりの即決即断である。
デザインよりも動きやすさ優先なのか、手にした水着はシンプルな物だ。
「う~ん、明日香なら似合いそうだけど……こっちとかどうだ?」
決して悪くはない。しかし、先程エラが見せてきた候補と比べると飾り気が無さ過ぎる気もする。
そう感じたジェイは、近いデザインだがフリルなどワンポイント装飾が入った物をいくつか勧めてみた。
「ふむ、悪くないですね。ジェイの希望ですし」
デザインにこだわりは無い明日香は、ジェイが勧めてくれた事を優先したようだ。
「あ、サイズの方は大丈夫か?」
「おっと、確かめて来ます!」
言うやいなや、侍女と店員を連れて行く。
「ねえ、これとこれならどうかしら?」
そのタイミングで、エラが再び二つの水着を持って現れた。
ジェイが今度は左側を選ぶと、エラは自分でもじっくり見比べた後、もう少し選んでみるわとハンガーラックの所に戻って行った。
「なんで、お父さんがいるの……?」
そしてモニカはというと、まさか父がいるとは思っていなかったようで、水着選びは進んでいなかった。
父の目がある所でジェイに見せる、いや、ジェイを魅せるための水着を選ぶのは抵抗が大きかったようだ。
「長期実習の話を聞いたんだ。商機逃す人だと思うか?」
「それは分かるんだけど……っ!」
実際のところ地図を手に入れるのも、情報収集するのも、エドがいるかどうかで差が出てくるだろう。
来てくれて良かったというのは理解できるため、文句も言い難いモニカであった。
「まぁ、エドさんは向こうに行ったから」
地図などの件を手配するために部屋から出て行っていた。
「じゃあ、選ぼっか~」
これから選んで行くとの事なので、ジェイも付き合う事にする。
こんなのどうかな? こっちの方が良くないか? と仲睦まじく選ぶ二人。
そこにサイズの確認を終えて戻ってきた明日香も加わり、三人でモニカの水着を選ぶ事になる。
ちなみに先程の水着は、胸のサイズが合わなかったため夏休みまでに合うサイズを用意してもらう事になっていた。
「これなんてどうですか?」
「そういう華やかなのは、ボクには似合わないかな~」
「そんな事はないと思うけど」
わいわいと賑やかに選ぶ三人。モニカは性格的に地味な方、地味な方に向かって行き、ジェイはそんな彼女が嫌がるのは選びにくい。
そこにせっかくだから皆で可愛いのを選ぼうと張り切る明日香が加わる事で、良い塩梅のチョイスになっているようだ。
エラはというと、時折やって来ては二つの水着を見せてどちらが良いかと尋ねてくる。
そしてジェイが片方を選ぶと、また水着に選びに戻って行くのだ。
それが何度か続いたところで、ジェイは気付いた。彼女が持ってくる二つの水着が、段々「どちらも良い」と思える物になってきている事に。
「……まさか、俺の好みを調べられてる?」
ジェイがその事実に気付いた直後、エラはまた水着を持ってきた。今度は一つだけ。
「これなんてどうかしら?」
「バッチリです」
それはジェイが、心底エラに似合いそうだと思える逸品だった。
なお、店員を連れて黙々と水着を選んでいたポーラはというと……。
「ポーラママ~、決まりましたか~?」
「そうですね。これにしようかと」
明日香が近付き問い掛けると、ポーラは振り返ってひとつの水着を見せてきた。
「布面積狭過ぎぃ!?」
直後、ジェイが思わずツッコんだ。
結局皆で彼女の水着を選ぶ事になったが、明日香を超える規格外のスタイル。
合うサイズとなると特注するしかないという事で、こちらも夏休みまでに用意してもらう事になるのは言うまでもない事であった。
今回のタイトルの元ネタは、映画『彼女が水着にきがえたら』です。
水着の詳細については、海に到着してからのお楽しみという事で。