第111話 助っ人ダンス
「どうでしたか? どうでしたか?」
「お、落ち着いて、ちゃんと話すから……」
翌日、明日香は朝から大盛り上がりだった。
モニカの方は照れつつもしっかり答えている。昨夜聞いたジェイの考えは、しっかり共有しなければならないからだ。
「安全確保! 確かにそれは大事です!」
明日香は、ジェイの考えに賛同を示した。王国の人間より、幕府の隠密部隊の強さが分かっているというのもあるだろう。
「それだと、王国の対策次第になっちゃうわね……」
その一方で何か言いたげな顔をしているのはエラ。
こちらも安全確保が大事という事には異論は無いのだが、戦力増強が上手く行かなかった時はどうするのかと考えていた。
もし卒業するまで無理となったら……と考えてしまうのは、彼女が三人の中で唯一年上だからだろうか。
「忍軍を呼ぶ件は、私からお爺様に連絡しておくわ」
そんな彼女が、島の守りが当てにできないならアーマガルトから援軍を呼ぶという案に乗り気になっているのは、ある意味当然なのかもしれない。
「……大丈夫なんですか?」
なお、実際に呼んでしまうと南天騎士団との関係がこじれてしまうかもしれない。ジェイはその可能性を考えていたし、エラもその事は分かっている。
しかし彼女は、そこから更に一歩踏み込んでいた。
「だからお爺様に伝えるのよ、個人的にね」
「なるほど……」
そう、実際に呼ぶのではなく、当てにしてないぞと意思表示して危機感を抱かせる。
直接的に言うと問題になるので、匙加減も冷泉宰相に任せてしまおうというのだ。
「……大丈夫なんですか? 別の意味で」
「大丈夫よ~」
訝しげなジェイに対し、エラはあっけらかんと笑ってみせた。
島を守るのは南天騎士団だが、そう命じたのは王国。つまり最終責任者は王国という事になる。宰相も無関係ではないのだ。
「学園を卒業しなければ華族家は継がせないと言って、子女を集めているのです。にもかかわらず島を守れないというのは、あってはなりません」
ここで口を挟んでできたのはポーラ。その表情は険しい。
彼女は元々「無能な統治者」を生み出さないために学園を作った。それゆえに王国の責任は重いと考えている。
一学期の間に起きた事件の内、いくつかはジェイがいなければ危なかっただろう。ジェイ達がいなければ起きていなかったであろう事件もある事も否定できないが。
「まあ、ここはお手並みを拝見といきましょう」
とはいえ自身は、とうに引退した身。出張るつもりはないようだ。
「むしろ問題はあなたですよ、ジェイ」
しかし、こちらの件では口を出す。
「島の守りが当てにならぬと判断すれば、アーマガルト忍軍を呼ぶ……それがどういう意味か、分かっていますか?」
「南天騎士団や王国との関係……とかではないですよね?」
「もちろんです」
真っ直ぐにジェイを見据える。これは母から子への忠告である。
対するジェイも、彼女が言いたい事にはすぐに察しがついた。
「要するにアレですね。『デカい口叩くからには、失敗は許されない』」
「……そういう事です」
忍軍全てではないが、いくらかは連れて行く事になるだろう。そこでジェイが隠密部隊に出し抜かれてしまうような事になればどう見られてしまうか。
特に夏休みの長期実習中は注意だ。ジェイも注意しなければならないだろう。
場合によっては連れて行く人数を増やす必要があるかもしれない。そんな事を考えながら、ジェイは計画を練るのだった。
その長期実習の行き先が決まったのは、それから数日後の事だった。
「アーロのゴーシュ?」
アーロというのは、セルツ連合王国の構成する五つの国の内のひとつ。セルツの南方に浮かぶ島国だ。
「ああ、あそこならよく知ってます」
ポーラは元々この島が領地だったため、当時は付き合いがあったそうだ。
そう、アーロはセルツよりも長い歴史を持ち、武士が来る以前の文化を色濃く残す国でもある。
島国だけあって海軍が充実しており、海からの侵入を許さないという意味では今のポーラ島以上だと考えられる。王国も、そこは本気で選んだようだ。
そしてゴーシュはアーロ西方、つまり幕府とは反対側となる海岸沿いにある港町だ。
「海! 泳げるんですかっ!?」
「海水浴場もあるわね~」
「確か温泉もありましたよね、エラ姉さん」
早速盛り上がる婚約者三人。行き先が海のある所に決まったため、水着を用意しようとはしゃいでいる。
「そういえば、ポーラママは……」
「濡れても平気ですが」
「いや、そこはちゃんと水着着ましょうよ! あたしも買いに行きますから!」
出発までに、水着を買いに行く事になりそうだ。モニカとエラも新調しようかと相談している。
買うならば、シルバーバーグ商会の支店を頼る事になるだろう。
「それなら、すぐにでも行こうか」
「えっ、いいの?」
早速行こうと提案したのはジェイ。水着が気になるのは否定しないが、もちろんそれだけではない。
「ゴーシュの地図を手に入れておきたいんだ」
「あ、なるほど」
ゴーシュ入りに備えるためだ。場所が決まったのだから、いよいよ本格的に準備を進めて行く事になるだろう。
ジェイは家臣を呼び、四人を連れて商会の支店に向かうのだった。内心、彼女達の水着に心を弾ませながら。
今回のタイトルの元ネタは、マンガ『SKET DANCE』です。




