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第109話 幼馴染と過ごす夜

 その日の晩、ジェイの部屋には彼以外にもう一人の姿があった。モニカだ。

 子供を作るまではいかずとも仲を深めようという事で、最近は婚約者三人が順番で部屋を訪れるようになっていた。

「あれ? 今日は……」

「エラ姉さんに代わってもらっちゃった」

 少々子供っぽいパジャマ姿のモニカが近付いてきて、ジェイの隣に腰を下ろした。ベッドの縁に並んで座る形だ。

「色々言われちゃったんでしょ? 今夜は顔合わせにくいんじゃないかな~って」

「お見通しか……」

 素直に図星だと認めた。

「……中で話した内容を知ってるのか?」

「そりゃね。明日香もエラ姉さんも気にしてたよ。嫌われてるんじゃないかって」

「それは無いんだが……」

 子供の件で意見が食い違っているのは事実なためか、反論に勢いが無い。

「実際、興味無い訳じゃないんでしょ?」

 モニカは自分の胸を両手で持ち上げてゆさゆささせながら言った。

 ジェイはぐぬっとうめいて答えなかったが、その視線は実に雄弁だった。

「まぁ、言われるままにってのが面白くないのも分かるけどね」

 その辺りもお見通しである。

「これから勉強やろうかな~ってタイミングで、勉強しなさいって言われる感じ?」

「それは合ってるような、合ってないような……」

 出鼻をくじかれるという意味では、そう遠くはないのかもしれない。


「……モニカはどうなんだ?」

「ど、どうって……」

 不意の問い掛けに、モニカは頬を染めてもじもじとし始める。

「まだ正式に結婚してないのに、子供作れって言われるの」

「…………ああ、そっち」

 そして、ちょっとがっくりして肩を落とした。

 同時に、相変わらず生真面目だな~とも感じていたが。

「なんていうか……ジェイ達華族はさ、成人したら華族学園に三年通って、卒業したら結婚っていうのが正式なルートなんでしょ?」

「そうだな、卒業しないと跡取りにはなれないし」

「でも、僕達にはそんな学園が無いから、成人したらすぐに結婚できるんだよ?」

 モニカにしてみれば、華族であるジェイの婚約者になった事で結婚が三年遅くなったとも言えるという事だ。

「パン屋のマリー、覚えてる? あの子、妊娠したらしいよ」

「えっ、マジで?」

 マリーは地元にあるパン屋の看板娘で、モニカと同い年の友人だ。そのためジェイとも面識があり、ジェイ達が入学のために旅立った際に見送りにも来ていた一人だ。

「というか、結婚してたのか……言ってくれれば、お祝い出したのに」

「ああ、結婚したのは僕達が入学してからだよ。お祝いは、ハリエットおばさんから贈ったんだって」

 結婚式に参加まではしないが、お祝いを送るというのは領主領民の関係としては、割とよくある話である。

 式の後は結婚を祝うパーティーになるので、樽で酒を送る事が多い。

 ちなみにモニカは、最近島の支店に届いた手紙で知ったそうだ。

「という訳で僕達的には、華族の方が遅いって感じ?」

「そ、そうか……」

「あ、急かす訳じゃないよ? こういうのって、そのっ……夫婦で決めるものだし! でも、僕はいつでもOKだからねっ!」

 まくし立てたモニカは、顔を両手で隠してそっぽを向いてしまった。自分で言って照れている。耳まで真っ赤だ。

 そんな健気な姿に、ジェイは――

「モニカが最初に子供ができたら……王国と幕府がどんな反応をするか……」

――頭を抱えた。先が見え過ぎるというのも、問題なのかもしれない。


 次はモニカが、その姿を見てくすっと笑う。

「ジェイ、大人になったよね~」

「……どこが?」

 彼自身は、前世も含めて成長してないのではと考えていた。

「だって昔のジェイだったら、周りの事なんか気にしてなかったでしょ?」

「そ、そんな事は……」

 無い、と言い返したかったが、そこで言葉を詰まらせてしまう。

「小さい頃は、何回怒られても魔法の練習だ~って森に行ってたじゃない」

「ぐっ……」

 そう、昔のジェイは今よりも自由に突っ走っていたのだ。

 ずっとそれに付き合ってきたモニカにしてみれば、最近の彼はお行儀良くなったなと思うのも無理のない話であった。

 というのもその頃のジェイは、異世界転生して魔法が使えるようになったと大喜びで、それしか見えていなかったのだ。

 ジェイはモニカを連れて町を出て、近くの森で魔法の練習に励むようになった。

 子供と言っても中身は転生者。しかも使えるようになった魔法は、隠れるにはもってこいの『影刃八法』。しばらくは町を出ている事すらバレていなかった。

 それが知られると、お目付け役も兼ねて護衛を付けられるようになったが、それでもジェイは止まらなかった。

 付いて来れないようなら護衛にもならないと彼等を振り回し、その後も森に行っての魔法の練習は続けたのだ。

 なお、それに耐え切った護衛達が、今のアーマガルト忍軍の中核だったりする。

「当時は大人に負けないジェイが、すっごく格好良く見えたんだよねぇ」

「そう言ってもらえるのは、うれしいけどな……」

「うん、分かってる。大人になったよね」

 ジェイも成長して、華族社会の事が分かるようになってくると、そういう行動は鳴りを潜めるようになっていった。

 魔法を使えるようになった興奮が落ち着いてきたというのもあるが、幕府との国境であるアーマガルトが、決して安全ではない事に気付いたのだ。

 そして周りにも気を使うようになり、優等生として振る舞うようになって、今のジェイとなった。

 一方モニカも、そんな彼に付いて行くべく領主夫人の仕事を学ぶようになったので、彼女もまた大人になったと言えるかもしれない。

 そして今や身体も大人相応に成長したモニカ。彼女は隣のジェイに身を寄せて、じっと彼の顔を見つめていた。

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