第106話 学生に反省を促すテスト
実技試験の翌日、期末試験の成績が発表された。
学園の講堂に大きく貼り出される順位表。学科試験と実技試験の点数、その合計点の順位で名前が並んでいる。
試験の成績は今後の婚活にも関わってくるため皆真剣だ。講堂内メモを手にしている者も少なくない。
順位表でまず目に付くのは、1位に燦然と輝くラフィアスの名。
学科試験が返ってきた時は何も言わなかったため誰も気付かなかったが、なにげに満点を取っていたようだ。実技も満点で文句無しの1位である。
一方ジェイは筆記試験の方でいくつかミスが有り、4位となっていた。
「ジェイの実技の点数、ちょっと低くないですか? あの完封勝利、百五十点くらいあると思います!」
「百点以上にはならないから、明日香」
学校では評価されない、いや、評価できない領域の話である。
ジェイから見ればラフィアスは明らかに手を抜いていたが、求められる必要最低限な事は完璧にこなしていたとも言えるだろう。
他に白兎組で上位に入っていたのはエイダの他数人。大半は中位から下位にいる。明日香は中位の上、モニカとロマティは中位の中、ビアンカ、シャーロットは中位の下だ。
「ま、こんなものですわね」
上位のエイダは、どちらも平均以上の優等生だ。
「う~ん、まだまだ修行が足りませんね!」
明日香は実技はトップクラスだが、学科の方が歴史以外振るわなかったらしい。
「……良かった、そこそこだ」
丁度真ん中あたりの順位のモニカは、目立たずに済んだと胸を撫で下ろしている。
実技では判断の速さを見せていたが、やはり基礎修練が足りなかったのか点数はそこそこ止まり。その分を学科の方で補い、この順位となったようだ。
順位的に近いロマティだが、こちらは実技の点数で学科を補っているので、好対照といえるかもしれない。
「試験を終えての一喜一憂、良い絵ですねー」
当の彼女は成績よりもそれを見る生徒達の方が気になるようで、他の学年の順位表も見てメモを走らせ、写真を撮っていた。
「あ、見て! 私とシャーロット並んでるよ!」
中位の下の二人は、順位も一番違いで並んでいた。ビアンカに手を引かれるシャーロットは、無言ながらもどこか嬉しそうだ。
そんな仲良しの二人であるが、成績の方はビアンカは実技、シャーロットは学科で点数を稼いでおり、こちらも好対照である。
そして下位に名を連ねるのはオードと色部。
「せーっふ!」
学科は赤点だった色部だが、実技の方は赤点を免れていた。
「ふっ、しょぉーりっ!」
オードは髪をかき上げて勝ち誇っているが、こちらも辛うじて赤点を免れただけだ。
追試を受けずに済むという意味では、勝利といって良いかもしれないが。
「フフフ、夏休みは見聞を広げる予定なのだよ」
要するにどこかに遊びに行く予定という事である。
「補習! 補習はダメだ! なんとか逃れねえと!」
対する色部は、まず追試をクリアしなければならない。そちらも赤点ならば、補習漬けの夏休みを送る事になるだろう。
「夏休みは稼ぎ時なんだー!」
こちらは補習を免れれば、学生ギルドを利用してバイト三昧の予定だそうだ。
なお、結論から言ってしまうと、その予定は補習で潰れる事となる。
「皆は夏休みどうするんですか? あたし達は実習ですけど」
二人を見ていた明日香が、普通はどんな風に夏休みを過ごすものなのかが気になって皆に問い掛ける。
「家の手伝いですねー」
最初に答えたのはロマティ。騎士団入りを目指す兄ジムにとって、三年最後の夏休みは勝負時。その分ロマティが家を手伝う事になっているそうだ。
百里家は新聞の発行を任されている家なので、もちろん手伝うのは記者の仕事である。
「帰省しますわ。といっても内都ですけど」
エイダは家に戻り、内都で行われるパーティー等に出席する予定があるとの事。
内都華族の若者達が集まるパーティーらしい。要するに婚活の一環だ。
「私も、帰る……」
シャーロットも帰省する。こちらは婚活の前に花嫁修業に打ち込むとあまり表情を変えず、しかし握りこぶしを作って張り切っていた。
彼女は料理趣味だったのだが、親元を離れて暮らし始めた事で趣味の範疇でしかなかったと感じたそうだ。
「私はバイトだね~」
そしてビアンカは帰省せず、バイトに励むとの事。
二学期以降の実習授業のため、装備の更新を目指しているらしい。
他のクラスメイト達は、半分以上が帰省しないとの事だ 逆に帰るのは、距離的に近い内都出身の者がほとんどである。
帰省せずに、婚約者の家に顔を出すという者も数人だがいる。
ただ入学前から婚約者がいた者達ばかりで、入学後に見つけた者はいなかった。
「一年の夏はそんなものよ。焦る事はないわ」
エラはそう言って笑う。本当に焦る事なく、婚約者がいないまま卒業した人の言葉なので、微妙に説得力が無かった。
そのまま夏休みの話で盛り上がる面々。それを見ていたジェイは、我関せずと一人でいるラフィアスに声を掛ける。
「そっちは、どうするんだ?」
「ん? もちろん帰省するさ。こっちは婚約者を故郷に残している身だからな」
「ああ、そりゃ会いに行かないとな」
「面倒だが仕方がない」
「面倒言うな」
『純血派』は魔法使い同士で結婚して、魔法使いの血と力を保ってきた。
しかし近年は魔法使いの数が減ってきているため、それも難しくなってきている。
ラフィアスはジェイと同じく三人の婚約者がいるのもそのため。彼女達が学園に同行していないのも、同年代の婚約者が見付からなかったためなのだ。
虎臥家は『純血派』の中でも重鎮であり、相手にも相応の家格を求めていたというのもあるだろうが……。
「三人中、二人が結構年上だからな。早く子供をと言われている」
「お、おう……」
その二人は、エラより年上らしい。ため息まじりにぼやくラフィアス。面倒と言いつつも、真面目に考えてはいるようだ。
その時、ふと背中に視線を感じハッと振り返るジェイ。するとそこには、期待の眼差しを向ける婚約者達の姿があった。
三人の視線を一身に受ける姿は、まるで蛇に睨まれたカエル。そう、今にも食べられそうな獲物のようであった。
今回のタイトルの元ネタは、アニメ流行語大賞2021で銅賞に輝いた「○○に反省を促すダンス」です。