第104話 炸裂!姫さま剣法
実技試験は、クラスをいくつかのグループに分けて行われる。
試験官はグループごとに異なり、当然その強さも異なる。そう聞くと腕の立つ試験官に当たったら不利だと思われるかもしれないが……実は逆だったりする。
というのもこの試験、戦いの中で試験官が出す課題にどう対処するかによって点数が決まるのだ。単純な勝ち負けを競うものではないので、武器も木製の武器を使う。
もちろん倒してしまえばそれだけでも合格だが、試験官に選ばれるだけあってそう簡単に倒せる相手ではない。ジェイのような生徒は例外なのだ。
その分、倒さなくても課題の加点次第で合格できるようになっているのが、この実技試験のシステムである。
そして身も蓋も無い話であるが、腕が立つ方が加減が上手いのだ。そういう試験官は手強いが、同時に点数を稼ぎやすい面もあった。
グループは、尚武会の結果も踏まえて分けられている。明言されている訳ではないが、尚武会の勝利数という分かりやすい目安もあって、大体察する事ができた。
当然上位グループほど、腕が立つ試験官と戦う事になる。
「ジェイ、一緒にがんばりましょう!」
「よろしくねー♪」
「ハッハッハッ! 当然であるな!」
ジェイと同じグループになったのは、尚武会で全勝した明日香とビアンカ、それに二勝一敗のオードだ。
「えっ? ラフィアスじゃなくてオード?」
「ヒドいな君ィッ!!」
「まぁ、二敗したからな」
しれっと答えるラフィアス。今回は魔法抜きの武芸の試験。彼にしてみれば、適当にこなせば良い程度のものなのだろう。
それでも彼のグループには、尚武会でも優秀な成績を残した者が揃っている。間違いなく彼等も上位グループのひとつであろう。
「シャーロット、ボク達はゆる~くやろう」
「う、うん……」
モニカとシャーロットは下位グループ。
「貴女達、せめてやる気くらい見せなさいな」
「エイダは真面目ですねー」
そしてエイダとロマティは中位グループだ。
この辺りになると尚武会に参加していない者も多い。
そもそも騎士を目指したりしていない面々なので、意気込みもそれなりだ。
「な~んで俺っちが下位にいるのぉ!?」
そして色部も下位グループだった。ロマティと共に尚武会では一勝二敗だったが、試合内容や普段の授業での態度等も考慮した結果であろう。
そして実技試験が始まった。試験は白線で描かれた試合場の中で行われる。大きさは尚武会のステージと同程度だ。
今回の試験は危険が少ないという事もあり、あまり緊迫した雰囲気にはなっていない。
ただ、試験官が加減しながら課題を出していくため、一人一人の試験が長引きそうだ。
そのため待機している生徒達には、他グループを気に掛ける余裕があった。
「ラフィアスくぅ~ん、がんばってぇ~♪」
婚活狙いで、お目当ての相手の試合に黄色い声援を送る者。
なお、ラフィアスの方はガン無視である。
他にも自分の番が来る前に、上位グループの試合を見て参考にしようとする者もいる。
ちなみに、試験を受ける順番はくじ引きで決められる。ジェイ達のグループは明日香が一番に試験を受ける事になった。
「さぁ、まずは打ち込んで来い!」
「はいっ!!」
その瞬間、彼女の「眼」が変わった。その眼光は幕府の姫でなく、武士のそれだ。
歴戦の騎士でもある試験官は、その変化を敏感に感じ取り即座に臨戦態勢を取る。
おかげで間に合った。その時既に、明日香は試験官に向かって飛び掛かっていたのだ。
自らの体重も掛けた渾身の一撃。横薙ぎで繰り出されるそれを、試験官は手にした木剣でそれを受けようとする。
しかし、防ぎ切れず大きな破砕音と共に圧し折れてしまった。
木剣といえども打ち合う事を想定した頑丈な物。試験官は唖然としている。見ていた面々も同じような反応だ。
確かに彼女は決して怪力ではない。しかし、技で威力を補う術を修めているのだ。
これはレベルが高過ぎて、参考にしろというのは酷な話である。
「えっと、武器を交換するなら待ちますよ?」
「……いや、武器を壊された時点で決着だ」
一瞬で終わってしまったが、ひとまずは明日香の勝利である。
「あ~……試験はこれで合格だが、課題をやってないからな。もう一回行くぞ」
とはいえ、これで試験が終わった訳ではない。新しい木剣に持ち替えた試験官は、頭をかきながら仕切り直そうとする。
課題の途中で生徒が負けるとそこで試験終了となるが、逆の場合は続行となるようだ。
「あ、はい! では、もう一度!!」
「防御! 防御主体で! そっちから攻撃しなくていいから!!」
それから試験官は様々な攻撃を繰り出したが、明日香はその全てに完璧に対応。力だけでなく技術もある事をまざまざと見せつけた。
こちらは見ている者達にとっても参考になっただろう。
「ジェイ、やりましたっ!」
「がんばったな。文句の付けようのない戦いぶりだったぞ」
試験が終わると飛び跳ねるような勢いでジェイに飛びつく明日香。受け止めたジェイが頭を撫でると、嬉しそうに頬をすり寄せている。
ここでジェイが、撫でていた手を止める。
「でも、生け捕りする感じでって言ったよな? なんだ、あの一撃は」
試験官の腕次第では、木剣でも大怪我を負いかねない一撃だった。
「はい! 相手を無力化するなら、武器破壊は基本ですっ!!」
「そっかー、武器破壊かー……」
「それに、防げる腕は有ると見てましたし!」
彼女なりに、相手の腕を見た上での判断だったようだ。
チラリと試験官を見るジェイ。実は彼も、あの試験官ならば止められるだろうと判断して止めなかったので、その件については触れないようにする。
しかし、それはそれとして注意しておかねばならない点があった。
「それ、実戦ではあまり使わない方が良いぞ」
「そうなんですか?」
「戦場だとな……『家に代々伝わる名剣』とか使ってる事もあるから」
練習用の武器程度なら何の問題も無いのだが、そういう家宝クラスの物は下手に壊すとかえって逆上させてしまうだろう。そうなったらもう生け捕りどころではない。
「なるほど! 戦場で無力化を狙うなら、腕とか脚を狙った方が良いんですねっ!」
「……うん、まぁ、そんな感じ」
そんな物騒な二人に、試験官は何か言いたげな顔をしていたが……どちらの言葉も一理あると判断して何も言わなかった。彼もまた、実戦経験豊富な歴戦の騎士なのである。