No.091 魅せられたオヒメサマ
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チェリーは笑みを崩しかけたまま、1歩、また1歩と足を後ろに下げていく。
そのまま、親衛隊の1人に当たると、
「うぉぉぉぉぉ、チェリーちゃーーーん!」
魅了が解けた。
触れただけで魅了が解けるって、ファンだからって事かな?
「こ、これは」
嬉しそうに口角が上がる。
こんな祭りのど真ん中で、屋台が周りに沢山あるのに騒ぎを起こすつもりか?
すると、チェリーは次々に親衛隊に触れていき、
「うほぉぉお、チェリー殿」
「チェリーさまーーーー」
「あーー、チェリーちゃんに触れた。一生洗わない」
次々に親衛隊の魅了が解かれていく。
1人2人怪しい言葉を言ってたけど大丈夫なんだよね?
「さぁ、チェリー親衛隊。あのホーズキカズラを捕らえろ!」
「「「アイアイサー! チェリーさま!」」」
親衛隊はジリジリと距離をつめてくる。
なんか、この人たちを攻撃するのは抵抗あるんだよなー。
チェリーなら問題ないけど。
「トランプの兵隊さん」
それを見かねたのか、ムウがトランプを僕の周りにばら蒔き「トランプの兵隊」が盾になってくれる。
やっぱりメルヘンチックで可愛い攻撃だよな。
見た目がマジシャンじゃなければ本当に完璧なのに。
「ムウ、ありがとう。アデュー」
それだけ言い残し、暴食の力で影に沈んで逃げる。
逃げる、と言ってもシャルの近くに出るだけだけど。
「お帰りなさい、カズラ」
「うん。さて、とりあえず宿に帰ろう。そしてアイリスの今後の方針を考えないと」
そのまま僕とシャルとチルとアイリスの4人で宿に向かう。
その後ろから2人の男女がついてきているのを気づいていて。
※
宿についてからすること。
それは、
「2人とも、外で耳を澄ましてないで入ってきたら?」
「誰かいるんですか?」
「うん。2人とも強いよ」
そう言うと、鍵が開いている宿の扉が開いて、ムウとヤードが入ってくる。
「いやー、バレてたなんて。ね、ヤード」
「そうね。まぁ私に2度も勝ったんだからそのくらいじゃないと」
白を貴重としたマジシャンと、全身ミスリル鎧の騎士。
組合せとしては「おかしい」としか言えない。
「で、そちらが希望の神子さまですね」
「へぇ、アイリスって有名なんだ」
ヤードがアイリスに挨拶をする。
敵じゃないんだよね?
「カズラ、アイリスは希望の神子として世界中で知られているんだよ。それが軍に追われている事が不思議なくらい」
「そうなんだ」
やっぱり聞かないとだよな。
なんで軍に追われているのかをちゃんと。
「アイリス。よければ聞かせてくれない? なぜ軍に追われているのかを」
「軍に追われているのは言った。破滅の神子だから」
「今は?」
「変わったけど、変わってない」
「?」
「破滅するし、しないとも言えるから」
なんとも難しいな。
破滅するけどしないという矛盾。
破滅する未来と、破滅しない未来とで定まってないって事かな?
「全部お前のせい! お前が近くに来てから未来は不安定」
「えっ、僕?」
いや、心当たりしかないから何とも言えない。
なら、僕が破滅しない未来を選べばいいんだよね?
いいよ、やってやろうじゃないか。
未来でも何でもねじ曲げて楽しんでやろうじゃないか、この吸血鬼人生を――――
「――――違う。お前!」
その指は僕より少しだけズレていた。
そこは何もない空間。
何もないはずの空間なのに歪みソレは姿を現した。
「虚ろナル者」
僕の口からボソッと漏れる。
姿形が定まらない異形の化物。
「混沌陰法 碧炎」
碧色の炎が虚ろナル者を捕らえ燃やそうとするが、効かない。
「聖水」
ヤードはどこから出したのか聖水をかけるが全然変わらない。
まるで、攻撃が効かない事を嘲笑うかのように、動かずに一瞬で殺せるんだぞと蔑むように。
「宝玉の力よ」
そう呟くと急に慌てだし攻撃を仕掛けてくるがもう襲い。
てか、意味が理解できるのか。
「世界樹」
神聖な世界樹によって倒された。
が、皆一様に浮かない顔をしている。
否、心ここに在らずって感じだ。
それが意味するのは、
「精神だけ連れてかれた?」
あの時は、神隠しのようにみんなバラバラになり悪夢を見せられてたらしい。
僕は暗闇に放り込まれただけだけど。
「あれ? カズラ……終わったんだ」
「ムウが1番か」
最初に戻って来たのはムウだった。
次にヤード、次にチル。
「まだか」
宝玉でも精神に干渉できる物が無くは無いけど使いたくないから自力で戻ってきてほしい。
なんで使いたくないかって?
そりゃ、魅了しちゃうからだよ。
1時間が経ったが、一向に戻ってくる気配はない。
先に3人に話を聞こう。
「3人はさっきの知ってる?」
「知りません」
「知らない」
「……知ってる」
チル、ムウは知らないようだけど、ヤードは知っているらしい。
「僕の知識と照らし合わせたいから教えて」
「はい。あれは、怪異と呼ばれる物で、この世の物じゃない存在でどこかに連れてってしまう」
「そうなんだ」
うん、基本的には合っているけど、テラが言うには無害だったよな。
けど、今回は倒してもみんなが元には戻らないから有害と思うべき。
なら「虚ろナル者」じゃない可能性がある。
「カズラ殿の力でシャルさまを助けられないんですか?」
「うーん、出来ない事は無いだろうけど、後遺症が残るから」
「そ、そこをなんとか」
でも、後遺症が厄介なんだよな。
けれど助けたい、という気持ちもある。
「わかった。やるだけやるよ」
「本当!」
チルは嬉しそうに涙を流す。
従者としてではなく親友として助けたいんだろう。
「色欲の力よ。魅了」
シャルの頭に触れて魅了をかけ――――
「――――あれ? えっ、カズラ!」
ギリギリ間に合った。
魅了をかけずに済んだけどこれはどうするか。
とりあえず、頭に手を乗せたまま撫でておく。
サラサラな髪を手ですくと、少し照れてように頬を赤らめて俯く。
「シャル、大丈夫?」
「う、うん」
魅了をかけてないけど魅せられてしまったようだ。
「これは何とも、タラシの才能があるな」
「ヤード、煩いよ」
誰がタラシだよ……いや、ね。
言われてみれば心当たりしかないんだよなー。
いや、自分で言うのもなんだけど、心当たりって言うか、目移りが激しいと言った方が正しいか。
「後はアイリスだけか」
みんなの視線がアイリスに向く。
その場に立ち尽くし、目は虚ろで焦点が合わさっていない。
逆に死んでいる、と言われた方が納得出来るくらいに静かだ。
アイリスに魅了をかけるため、頭に触れると物凄い量の情報が頭の中に流れ込んでくる。
それは、アイリスの過去から始まり、今、未来へと続く。
それは今まで見てきただろう可能性の未来が止めどなく流れ込んでくる。
「ッ、はぁ」
あまりの情報量に耐えられなくなり、手を離してしまう。
「カズラ、大丈夫?」
シャルがハンカチで汗を拭いてくれる。
気がつくと、僕の服は汗で軽く湿っていた。
服を着替えてから、今起きた事をみんなに説明する。
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