No.006 見えないカベ
「なんで、こんなやつに。鬼灯、勝負なさい」
と、嘘をついたがために勝負を挑まれてしまった訳だが。
「うん、勝っちゃったね」
そりゃそうでしょ。
だって、第二始祖のスペックが凄いんだよ。
これは、修行とかすればもっと強くなれる気がするもん。
「なんで、なんでこんな第十始祖なんかに。私の方が、私の方が上なのにー」
「申し訳ありません。僕は――――」
「――――謝るな」
「だから――――」
「――――言い訳なんて聞きたくない」
あー、言うチャンスは来なさそうだな、これは。
「では、僕は先に行くので失礼します」
「ま、待ちなさいよ」
「なぜに待つ必要が?」
「ッ。そう。これは命令よ、命令。第五始祖 雨宮香鈴の名において、天に逆らいし鬼灯葛を従える力を我に。奴隷陰法 天命の足枷」
ほう、奴隷陰法か。
奴隷陰法は上位の吸血鬼にしか使えず、使った本人と近くにいる吸血鬼に対して発動する。
そして、もちろんこうなる。
「な、なんで私に足枷が。あなた、何をしたの‼」
「もちろん僕はなにもしてないよ。それじゃ、僕は先に行くから」
「待ちなさい。なにか、なにか私に命令を」
そう、これは体が傷つかない命令をしないと解放されない。
「あっ、ボス部屋の扉開けてくれてありがと。でもよく考えてみたら壊せたかもな。じゃあ、そういう訳で」
11階層に続く階段を進んでいく。
~~11階層~~
11階層から一転、スライムしか出ないが、魔石をドロップするようになった。
魔石とは、魔力を蓄えた物で、魔法を使う媒体として使える。
人間が魔法を使うための物で、いいものだと高値で売れる。
倒したスライムの魔石を魔法収納袋に入れていく。
そこから特に事件も事故も起こらずに……
~~最下層(20階層)~~
ボス部屋前で、今回は2人必要とかそういうのはない。
扉を押してボス部屋を開けて、ボスとの遭遇。
「うん、小さい。そしてすばしっこい」
僕の周りをグルグルと様子を見ている感じかな。
「よし。陽法 朱の太刀 乱舞」
刀は朱色に染まり一振りで全方位に刃が現れる、我ながら良くできた技だと思うよ。
もちろん、スライムは刃の餌食になり、今まででは1番大きな魔石を落としてくれた。
って言っても拳サイズの魔石だけど。
そのまま現れた魔法陣に乗り、地上まで帰る。
そういえば、1週間もかからなかったな。
「終わりました」
「あら、早いですね。魔石はどうしますか? 換金しますか? それとも持ち帰りですか?」
「あっ、換金でお願いします」
じゃらじゃらじゃらと魔法収納袋から魔石出していく。
「これは、あなたのですか?」
「はい、そうですが」
「な、なるほど。それでは換金いたします。全て合わせて1,500円になります」
うん、昼食代にはなったから十分だ。
「結果は後日手紙にてお送りいたしますので」
「ありがとうございました」
無事に抜き打ちテストを終えて大満足。
結果はどうあれ僕の中では100点満点だ。
「なんか忘れてるような……まぁまぁ大事だったような。うん、思い出せないから大事な事じゃないだろう」
※
あれから1週間、特に事件もなく、一応第二志望の高校を探している最中だ。
そして、郵便受けには『ダンジョン専門国立高等学校さま』から1つの封筒が届いた。
内容はもちろん合否についてで……
合格。
そう書かれていた。
そしてもう1枚、違う紙が入っていた。
そこには、
『雨宮香鈴に対して行った拘束魔法をただちに解いてください』
そう書かれていた。
うん、あの日帰るとき忘れてたのはこの事か。
でも、僕があれをやった訳じゃないしな。
あっ、電話番号載ってる。
――――プルプルプルプル
『こちら、ダンジョン専門国立高等学校の経営科です。ご用件はなんでょうか』
「あのー、鬼灯葛という1週間前に受験した者ですが、拘束魔法を解いてくれという旨の手紙が届きまして」
『あっ、鬼灯葛さんですね』
「その事なんですが、僕はやっていません。自白剤でも飲ませて確認してみてください。もし嘘なら費用は全てこちらが出すので」
『はぁ、えーっと。鬼灯さんは拘束魔法をしてないんですね?』
「はい。あの娘が自分で自分にしてました」
『わかりました。確認しだい、またこの電話に折り返させてもらいます』
「わかりました、失礼します」
――――ガチャ
うん、とんだとばっちりだ。
迷惑意外の何者でもない。
――――プルプルプルプル
『もしもし、こちら、ダンジョン専門国立高等学校の経営科ですが、鬼灯さん、失礼しました。自白剤を使ってみた結果、自分でやったが効かず、自分に返ってきた言っています』
「それはよかった。僕の無実が晴れたなら満足です」
『ですが、これは鬼灯さんにしか――――』
「――――すみません、用事を思い出したので失礼します」
――――ガチャ
強制逃げルート。
なぜ相手からやってきたやつを解く必要がある。
そんな事をしてやる義理もないしね。
プルプルプルプル 着信拒否。
プルプルプルプル 着信拒否。
10分後、
プルプルプルプル 着信拒否。
それから小刻みに電話がかかってきたので、スマホの電源を落とす。
てか、相手からやってきたんだから自業自得じゃん。
本当に巻き込まないでもらいたい。
――――ピーンポーン
と高らかな音をインターホンが鳴り響く。
そして出るのはもちろんお母さん。
「はいー」
「すみません、こちら鬼灯さんのお宅でしょうか。私たちダンジョン協会という所から参りました。鬼灯葛さんはいらっしゃいますでしょうか?」
「ちょっと待ってください。葛ー、なんかよくわからない所からよくわからない人たちが来たわよー」
「はぁーい。今行くー」
扉を開けると、黒服に身を包んだ男性が4人で、全員強そうだ。
「あなたが鬼灯葛さんですね」
「はい、そうですが」
自慢の満面の笑みで答える。
「なら今からついてきてください」
そう言われて、黒く大きな車に乗せられて、移動し始めた。
もちろん向かっているのはダンジョン専門国立高等学校だろう。
まぁ、交通費がかからないのなら全然いい。
そしてやって来た、2度目のダンジョン専門国立高等学校。
うん、略してダン高。
そして、僕の目の前に連れてこられた雨宮香鈴。
黒髪の綺麗な、和服が似合いそうな女の子。
「それで、僕は何をすればいいんですか?」
「お願いします。私が、私が悪かったです。なのでなんでも命令してください」
「なんで? 面倒くさい」
「お願いします。誰かこの人に命令させて、そうすれば私は解放されるの」
「解放されるのって言ってるけどそっちから仕掛けて来たんだよね? この奴隷い……魔法は相手の体を傷つけなければいい。ならスカイツリーからでも飛び降りてよ」
「どうか、どうかそれだけは」
「じゃあ、逝ってらっしゃい。とまぁおふざけはこのくらいにして、奴隷陰法 解放」
簡単に解除してあげる。
そもそも僕はそこまでの鬼ではないし、堕ちてもいない、吸血鬼だけど。
「なら、用無しなので家まで送ってください。特に準備もなくお金を持ってきてないので」
そこから、雨宮の顔は一切見ずに、家まで送ってもらった。