No.060 心にきめたヒト
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「これで終わりだよ」
僕は2人を第三始祖へと眷属化させた。
これで正真正銘アーサーとメリダは吸血鬼となった。
「とりあえず2人はこれでも読んでな。これで魔法みたいなのが使えるようになるから」
「ありがとうございます」
メリダは元気よくお礼を言い僕から陰法の本をブン取る勢いでかっ拐った。
後は、そうだな。
これはあった方がいいよな。
「結界陰法 極炎牢・反転」
外からの襲撃に強いタイプの結界を2人に張っておく。
「これで後は自由だよ。それを覚えて逃げるもよし。僕を襲って身ぐるみを剥ぐでもよし。町にいるおかしくなった人たちを助けるもよし。僕は行くから」
それだけ言い残し町へと向かう。
さて、一応クラスメイトと和紗やセバスたちは大丈夫かな?
※
町は、ユリエーエは酷い有り様だった。
石畳が綺麗だった地面は土を均しただけとなり、町を歩く人たちは痩せこけていて活力がない。
それに比べ傭兵たちは元気に町を巡回中の者もいれば酒場で酔い潰れているのも目に入る。
少し進み広場に出るとそこには磔にされているドワーフたちがいる。
その前に紙があり、内容としてはドワーフ国、エクスターチ。
そのレベルSダンジョンがクリアされた事から一部の過激なドワーフたちが他国に侵略を始めたらしい。
と、言っても過激なドワーフたちが向かったのはここユリエーエと、まだクリア者がいない獣人たちの国、ギャンだけだということ。
それでここに磔にされてる人たちはユリエーエに攻めてきた人たちという事で見せしめだろう。
このドワーフたちは自殺が出来ないようにされていて、更にちゃんと食事が準備される。
死ぬことを許されない生地獄ってヤツだ。
「そ、そこの兄ちゃん。助けてくれ」
1人のドワーフの虚ろな瞳は僕を捕らえていた。
そんな助けてなんて言われてもね。
助けるわけない。
「いくら出せる?」
「えっ?」
「いくら出せる?」
「わ、わかんねぇ。でも助けてほしいんだ」
んー、あんまり得は無いよな。
でも巡り巡って僕の所に帰ってくる、って考え方は出来るな。
「ドーラちゃんと同じ服を着ている兄ちゃんにしか頼めねぇんだ」
「ドーラ、ドーラ、ドーラ。ドーラって石上ドーラか?」
「そうだ。昨日、ドーラちゃんは鬼灯葛って人を誘き寄せる為にと傭兵たちに連れていかれたんだ」
あっ、それってどう考えても僕のせいです。
「だから頼む」
「わかりました。お金の件もなしで。では」
僕は逃げるようにしてこの場を離れる。
さて、この服はよろしくない。
だから新しい服を先に作ってからだな。
僕はあの服屋へと向かう。
「いらっしゃいませー」
少し元気のない感じだな。
ここは貴族街だから平民より少しは楽な生活を送れているのか。
「素材を持ってきたので服をお願いしたいのですが」
「かしこまりました。お預かりします。少々お待ちください」
そう言われて待つ事1時間。
「完成しました。こちらでいかがですか?」
それは黒を貴重とした服で、所々にミスリルの線がレースの用な模様となってそれなりにお洒落なレザーコートっていうかマントっていうかになった。
中はシャツに下は黒のレザーパンツ。
伸縮性に優れていて、防御力もそれなりにありそう。
いや、あってくれないと困るんだけどね。
「ありがとうございます。いくらですか?」
「はい、そうしましたら、100,000,000円となります」
ぼったくりだ。
どう考えてもぼったくりだけど、あの豚男のせいで税金がおかしな事になってるからしょうがないのか。
それに払えない額じゃないしね。
僕はダンジョンカードで払ってから服を着替える。
同じ服が3枚、汚れても大丈夫だ。
「さて、一応のクラスメイトの奪還戦でも始めますか」
*
葛がユリエーエ城に来る1日前。
「ほぉ、ほぉ。やっと最後の1人を捕まえた。なのに、なのになぜ鬼灯は来ない。遅い遅すぎる。いや、だがいい。アイツがここに来たら先ずはとってもとっても残念な報告をしてやろう。ほぉ、ほぉ」
ゲスい笑みを浮かべてA組の生徒を並べている豚男改めトンラー・ユリエーエ。
このユリエーエ国第58代国王にして後に『独裁者』という異名が付く人物。
「さて、誰かを味見するか?」
男でも女でもお構い無し。
トンラーは両方目覚めてしまったのだから。
そんな時、
「トンラー国王陛下!」
「どうした?」
「逃げ回っていたシルバーウルフギルドのギルドマスターを捕まえました!」
「ほぉ、ほぉ、ほぉ、ほぉ。そうか、よくやった。今すぐここに連れてこい」
少しして、ロープでグルグル巻きにされたシルバーウルフギルドのギルドマスターであるバルト・グランロードが連れてこられた。
「離せッ。おい、トンラー。こんな事をして許されないぞ」
「ほぉ。なぜお前だけ洗脳出来ないのか凄い気になる所だけど今はいい。新しい、いい玩具を思い付いたからな」
「なにが言いたい?」
「なぁ、バルト。こうやって話すのは久しぶりだな。ほぉ、ほぉ」
「ケッ――――何が久しぶりだよ」
「人は誰かしら心に拠り所となる人がいるよな?」
「それはお前が人じゃない、って言い方に聞こえるぞ。そうか、お前は豚だったな」
バルトは時間稼ぎのつもりなのか煽るは煽る。
けれどもトンラーは気にも止めない、否、バルトを人として見ていないからだ。
これは一方的な会話であってバルトは道具にすぎない。
「その拠り所が人質に捕られたらどうなるだろうな? 宝玉の力よ」
トンラーの後ろを桜色の宝玉がフワフワと現れ力を示す。
主の命令に従いこの世の力以上の力を引き出して引き出して引き出して。
「おい、そこの。コレを磔にしろ」
トンラーはバルトを指さし近くにいた吸血鬼に指示を出して玉座に座る。
「何をしている。早く縛り上げろ!」
「と、トンラー国王陛下。こ、この方は死んだはずのお母さんです」
「何を訳のわからない事を言っている。ならソレを今から殺すか?」
「い、いえ。申し訳ありませんでした」
周りにはどう見えているのか?
それは、心に住み着く大事な人、心に決めた人、最愛の人、親愛なる人に見えてしまうように目が、気持ちが、心が変えられてしまった。
「なんで葛くんが捕まってるの!」
拘束を解いてない和紗はバルトが葛に見えてしまい戸惑う。
ここにいるA組の皆もそう。
親に見えたり、許嫁に見えたり、兄弟姉妹に見えたり、はたまた死んだはずの大事な大事な人に見えてしまったり、と。
「ほぉ、ほぉ、ほぉ。成功だな。これでコイツらはいい駒になった。流石は日本の戦闘に特化した学校の上位者たちだ。ほぉ、ほぉ」
周りの絶望しきった顔を眺めながらワインを片手に、それはそれは優雅に晩酌をしている。
その顔に一筋の涙が流れた事は周りはもちろんの事、本人も知らない事だ。
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