No.150 場所とシキヨク
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ドラコさんは妹であるクーンと感動の……感動の? 再会を果たした。
「女神さまの言った通りだった。これも全て女神さまのおかげだ」
「それはどういう意味だ?」
「……黙れ! 女神さまを殺そうとするクソ野郎」
何だろう?
「クソ野郎」が想像以上にムカつく。
「クーン、どうしたんだ?」
「お兄ちゃん。コイツらは女神さまを殺そうとする悪いヤツなの。だから倒すのを手伝って」
「だから何を言ってるんだ? カズラたちは俺の仲間だぞ?」
「えっ? どういう、こと?」
ドラコさんが説明をしようとしてるけどちゃんと聞いてくれるよね?
「そもそもの話、その女神とか言う存在は悪だ。聞いた話によれば1つも良いことをしてないじゃないか」
「何言ってるの? 女神さまは私たちに住まう場所を与えてくれて更にはお兄ちゃんにも会わせてくれたんだよ?」
住まう場所ってこの「トラッシュ」の事を指してるのか?
いやいやいや、こんな環境の悪くて太陽の下じゃない場所だなんて吸血鬼と土竜しか喜ばないよ。
「いいか? カズラが俺をこの世界に連れてきてくれたんだ」
「嘘よ! 女神さまのおかげだって。ね? お兄ちゃん、目を覚まして。こんな女神さまを殺すとか言ってる人の仲間だなんて嘘だって言って!」
クーンは涙ながらに訴えかけている。
いやー、2人の世界に入ってて僕とシャルは蚊帳の外。
流石にドラコさんの妹だから殺すわけにいかない。
「カズラくん、どう思う?」
「うーん、わからないな。シャルはわかる?」
「……わかんない」
そうだよな。
せめて女神の力がわかればいいんだけど……「強欲の宝玉」は女神の情報をくれないし。
「女神さまに仕えてたらお兄ちゃんに会えるって、会わせてあげるって言われて頑張ってたんだよ? それで本当にお兄ちゃんに会えたのに、これを女神さまの力って言わないで何て言うの?」
「だから、その女神は同族を殺して、獣族をこんな場所に追いやり、挙げ句の果てには奴隷落ちだぞ? 本当にわかってるのか?」
「本当に何を言ってるの? そんなの当たり前じゃん。女神さまの言うことは絶対で、獣族は醜い生き物だから奴隷やここに住まわせてもらってるだけでも感謝しないといけないんだよ?」
狂気だ。
目は濁っていて……どこかで見たことのある目だ。
シャルはシャルでクーンの狂気っぷりが怖いのか少し震えてるし。
「お兄ちゃん、お願い。目を覚まして。女神さまは悪じゃないの。お兄ちゃんに会えたのだって絶対ソイツのおかげじゃないよ? 女神さまが願って叶えてくれたんだって。ね? だからもう仲間なんて言わないで縁を切ろ? そしてお兄ちゃんに会えたお礼を、女神さまを守ってあげないとだよ」
どこか必死さが伝わってくる。
懇願するような、それでいて惑わして暗示をかけてくるような。
ドラコさんは時折こっちをチラッ、チラッと見ては揺れている様子だ。
「シャル。ドラコさんを引き止めた方がいいよね?」
「……」
「シャル?」
「えっ! あっ、ごめん。ボーッとしてたみたい。もう大丈夫だよ、カズラくん」
「そっ、か」
こんな時にボーッとするなんてどうしちゃったんだろう?
疲れが溜まってたのかな?
「で、何か私に言おうとしてたけど?」
「あぁ、うん。ドラコさんを引き止めた方がいいかなって」
「うーん、引き止めない、っていう選択肢もあるんだね」
「うん。あえて敵にして仮死状態にして、全てが終わってから甦らせるっていう」
「宝玉があってこそだね」
「まぁね」
こうしてシャルと話している間にドラコさんとクーンの話は進んでいる。
「お願いだよ、お兄ちゃん」
「で、でもな――――」
「――――お兄ちゃん。私に力を貸して。何がいけないの? 家族を助けるだけだよ」
天秤は8割方あっちに傾いているだろうか。
後は一押しの何かがあればいい、はず。
「あっ、皆から逃がし終わったって」
「は? アイツら、女神護衛親衛隊とか名乗っておきながら殺られたんだ。よくもやってくれたね? 女神さまの大事な物なんだよ? それを盗んどいてただで済むと思わないでね」
もう限界なのか、クーンはまたも殴ってきた。
兄に会えた感動で“星砕き”とかいう神の力が無くなってるの忘れたのかな?
「グラビティプラス」
僕の拳とクーンの拳がぶつかる。
ドラコさんは……
「危ない危ない」
神話に出てきそうな龍の姿になってブレスを吐いてきた。
ブレスは嫌な思い出しかないから、反射的に避けてしまった。
いや、始めてドラコさんと本気で戦ったからブレスが僕には致命傷になる可能性があるから避けて正解だけども。
「お兄ちゃん!」
「ごめん、カズラ。クーンの為に死んでくれ」
謝罪をされてもなーって所はある。
まぁ、裏切りは罪だから、裏切り者にはそれ相応の罰が必要だよね。
「世界樹」
世界樹がドラコさんを捕らえんと天に伸びていくが、上手に避けたりブレスで阻止したりと結構耐え忍んでいる。
「暴食に喰らえ。理を書き換える!」
書き換えるのは世界樹だ。
世界樹を熱く燃やして、全ての力を吸収し、神をも殺す地獄樹に。
「地獄樹」
赤い根や枝が一瞬にしてドラコさんを捕らえて、ジューーッと音をたてながら拘束し続けている。
ドラコさんの体には毒によって赤黒い斑点が出来始めている。
「眠れ、裏切り者」
「お兄ちゃーーーん!」
家族の愛の言葉は虚しくドラコさんは子猫のようにバスケボールくらいになり丸まった。
子竜だな、これは。
「さて」
殺気と言霊の2段構えで話しかける。
「君にある選択肢は2つある。1つ、尻尾を巻いて逃げるが、
僕に捕まり眠らされる。2つ、無抵抗に今、眠らされる。どっちがいい?」
「……」
今の僕は地獄樹の影響もあって怖く写っているのだろう。
震えて声が出せないみたいだ。
――――キーーーンッ
違った。
「金城要塞」
金色に輝く結界でクーンを囲って周りへの被害を無くす。
クーンの今の姿は富士山ダンジョンの時の黒龍に似ているな。
「女神さまに楯突く存在は誰であろうと容赦はしない」
「こっちも本気で来てくれた方が気兼ねなく本気を出せるよ」
まずは空を飛ぶのが厄介だから、
「色欲に魅せられ」
「なんの、これしぃぃぃぃ」
重力によってクーンは地面に叩き落とされる。
普通に降参してくれれば楽できたのに、残念だ。
「さて、これで同じ目線……目線になったね」
「何を言う」
クーンの顔は地面についているので本当に同じ目線……僕は背が低いから少し、ほんの少しだけ下だけど同じ目線になった。
「そんな状態で戦える?」
「卑怯だぞ、人間!」
「はぁ。あのさ、僕は人間じゃないんだけど? 吸血鬼って言う種族なんだよ」
「人間と何が違う。女神さまの前に種族なんて関係ないんだ。だからさっさとこの拘束を解け!」
どこで繋がったかわからないけど拘束を解くわけないじゃん。
さて、こっから第2ラウンドだ。
回収しきれてない伏せんってあるかな?