No.147 話のケツマツ
本日2話目の更新!
パルは泣き疲れたのか、眠ってしまった。
「カズラ」
「シャル。出来た?」
「うん、出来たよ。その子は?」
「パル・ンラで、多分……ペトラの親族だと思う」
「ペトラちゃんの……」
シャルは作った料理を持ちながら、パルを見て考え込んでいる。
「言うべき、だよね?」
「うん。私もそう思うよ」
「じゃあシャルはこの子にご飯を食べさせてあげて。僕はその内にペトラに伝えておくから」
「わかった」
僕はすぐにペトラに連絡をいれる。
『どうしたの?』
「先に伝えておく。ペトラの家族はもういない」
『……』
「紫の太陽時代から1000年が経ってたらしい」
『……』
ペトラからの返事は聞こえない。
「シャル、ちょっと行ってくる」
「うん。気をつけて」
宝玉を呼び出して、ペトラの気配を探る。
すぐに見つかりはしたものの、ペトラの反応は水の中に……更に言えば深く深くに沈んでいっている。
ペトラの心を写しているみたいに、深くフカクふかく沈んでいく。
助けた所でかけてあげる言葉は見つからない。
かけてあげれる言葉なんて僕は持っていない。
けど、
「……ペトラ」
『助けない』という選択肢は無かった。
「あれ? 私は……」
「……大丈夫?」
「うん、助けてくれてありがと」
「えっ?」
いや、助けてくれてって?
「なんで驚いてるの? 葛からの電話で家族が死んでるって言われて驚いたけど覚悟はしてたから。けど、けど流石に驚きすぎちゃって、受け止められなくって波に攫われちゃって」
最後の方は恥ずかしかったのか声が小さくなっていた。
いやいやいや、えっ?
思い詰めてたとかそういうのじゃ無かった、と。
良かった……のか?
「ん? って事はヤードは?」
ペトラは2人1組でヤードと組んでいた。
そのヤードがいない、となるとヤードも海に落ちて沈んでいるという事になる。
「宝玉の力よ」
ヤードの気配を探ると案の定と言うべきか、海の深くに反応がある。
「ペトラは……泳げない?」
「は、恥ずかしながら」
今の状態は僕が海に吸血鬼の力で浮かんでいて、それにペトラが抱きついている。
「そんなに大きな波だったんだよね?」
船はそんなに柔じゃないと思うけど。
または何か人為的な物か。
まぁ今は船の方が大事だな。
「傲慢な世界に」
錬金術で船を作り上げる。
「ここで待っててね」
「ありがとう」
「お風呂もあるから」
「い、至れり尽くせり……」
そりゃ、濡れたままじゃ色々と大変だし、風邪とかひきかねない。
いや、風邪くらい治せばいいんだけどひかないに越したことはない。
「じゃ、行ってくる」
ボチャンという音をたてて僕は海に潜る。
やっとの事でヤードに追い付いた。
てか、鎧のせいで物凄い関節部分が固く動かなくなってる……これで溺れたのか。
それにしても真っ暗でよく見えない。
ん?
灯りが点いた?
というより、灯りが近づいてくる……うん、魔物だ。
しかも、とても不気味な。
「びっどびぶぶび」
空間を切り取って近づけないように
――――バリンッ
はぁ?
マジか……よ。
「ぶぼぼび。ぼぶぼぶ びぼばび びっべん」
1つの灯りに黄色く光輝く線が貫き海を気持ち悪い色に染め上げた。
そのまま海上に上がってから、
「お疲れ」
「おう、ありがと」
ペトラからタオルを貰って体を軽く拭く。
後は陰法で一瞬にして乾かす……タオルの意味は?
「回復陰法 圧迫」
ヤードの体の中に入った海水を無理矢理出させる。
次に、
「回復陰法 完治」
「ん? 私は」
良かった。
一瞬で治って目が覚めてくれたみたいだ。
「その鎧止めたら?」
「カ、カズラがなぜここに?」
「ペトラが溺れてたから助けに。そしたらヤードも溺れてたんだもん」
「わ、私は溺れてた訳では。ちゃ、ちゃんと私は泳げるんだぞ?」
「だから、その鎧を止めたらって言ったの」
「な、なるほど。けどこの鎧には幾度も命を助けてもらったからな」
いや、今は命を取られそうになってたんだよ?
その事をわかってらっしゃるのかな?
「そうだ」
あっ、嫌な予感がする。
「カズ――――」
「――――ペトラとヤードはこのまま引き続き探してね。僕はシャルの所に戻るから」
捲し立てるように言ってからシャルの所に転移する。
※
戻ると、またというか、どこから沸いてきたのか沢山のアンデットがいた。
「黒鬼」
「カズラ! お帰り」
「ただいま。陽法 新・紫の太刀 冥道」
また空間に亀裂を作って、アンデットはそこに勢いよく吸い込まれていく。
「パルは?」
「起きたからご飯を食べさせて安全のため家に隔離してある」
「隔離は可哀想な気がするけどしょうがないな」
空中に鍵を指して回すと扉が開く。
「隔離したんだよね?」
「うん、そのはず。外から鍵をかけて出られないと思ったけど」
パルは行儀よく……行儀よくリビングのソファに座ってテレビを見ていた。
「あっ、お帰りなさいませ」
パルはペコッと音が鳴りそうなお辞儀をしてきた。
いや、なぜ人の家で勝手に寛いでるの?
普通に考えておかしくないか?
「すみません、つい面白そうな物がいっぱいあったので」
「勝手に触るのは良くないよね?」
「ごめんなさい。でも――――」
「――――でもじゃない」
「だって――――」
「――――だってでもない」
「うぅぅぅう」
「唸ってもどうにもならないから」
さて、色々と情報が足りないから、誰かしら獣族がいる島を見つけてくれるといいんだけどなぁ。
そんな御都合主義みたいな事は起きるはずもなく、見つけたのは人によって奴隷とされてる獣族がいる島だけ……という事。
「獣族はそんなに残っていない、のか」
「いえ、そういう訳じゃないです」
「そうなの? 皆の情報だと奴隷しか獣族はいないって」
「……地下に、地下に収容所があって、そこにいます。“トラッシュ”と呼ばれている場所です」
「トラッシュ……ゴミとは酷いな」
これも神の使途を名乗る者の仕業なのだろうな。
「あの、私の仲間を助けてください!」
「僕が神の使途の仲間だとは考えないの?」
「そ、それなら私を助けたりしないと思って……」
「わかんないよ? 気まぐれかもしれないじゃん」
と、あまり意地悪は良くないな。
「冗談。いいよ。やってあげるよ」
「ほ、本当ですか!」
「うん。そうだ、信用出来ないなら、契約陰法」
契約内容はもちろん僕がパルの仲間、獣族を、いい獣族を助けるという物。
いい獣族というのは、もしかしたら悪い獣族が黒幕の可能性があるからだ。
そう、予防線という事だ。
「パル、そのトラッシュがある都市の名前は?」
「はい。ギャンという名前の大陸にあるプルトという都市です」
「ギャン、ね。わかった」
僕は皆に連絡をする。
ギャンのプルトという都市に集まるように。
「で、パルもギャンにいたんだよね?」
「はい」
なら、船の来た方向にギャンがあるだろうから、行くか。
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