No.146 浮かばないハナシ
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外の景色。
それは、1面にして雪山となっている。
ここがまだ獣族の世界じゃないという可能性はあるけど……まぁ、何とかなるでしょ。
「ここ……は!」
「ドラコさんは知ってるんですか?」
「し、知ってるも何も俺の故郷だ。けど」
外の景色を見て唖然としてるところから、何かがおかしいんだな。
「同種の気配がしないんだ。それに、雪なんて降らない地域なのに」
「本当に知ってる場所? 獣族の世界なの?」
「あ、あぁ。間違いは無い……はずだ」
「手分けして探索しましょう」
とりあえずは2人1組で別れる。
スマホは色々と改造とかしたから、この獣族の世界でも使えるし、皆強いから大丈夫だろう。
「シャル、行こっか」
「うん」
もちのろんで、僕はシャルと一緒に探索する。
とは言っても地形がわからない。
適当に海を渡るか、空を優雅に飛ぶことしか出来ない。
僕とシャルは空の旅を選択した。
「カズラくん、何か――――」
「――――えっ!」
「ん? どうかしたの、カズラ」
「えっと……いや、何でもない」
何でもない訳ではないけど……いや、今はいいな。
「で、シャル?」
「うん。島が見えてきたよ。大きな」
「どこ?」
「あれ」
シャルが指をさした方向には、黒い大地に靄を纏った島があった。
それは、噂にしか聞いたことがない『ダルビス』の様だ。
いや、ダルビスよりも靄が薄いだろうから別物だろうか。
「行く……よね?」
「もちろん。あまり離れないでね?」
僕はシャルと一緒に黒い大地と靄のかかった島に降り立つ。
「人の気配が無いね」
「生き物の気配もだよ」
木を含め、植物の1つも生えていない。
「あれは生き物じゃないの?」
「んー、あれは世の言う“アンデット”ってやつでしょ」
ドラゴンの骨だけがカタカタと音をたてながらこちらに向かって来ている。
って言うか、骨だけの翼を羽ばたかせ空を飛ぼうとしている……飛べる気配は無いけど。
「えっと」
「うん。倒していいよ」
「わかった」
シャルは左の掌にある模様を強く押して大きな鎌を出現させる。
そして、切っ先を骨のドラゴンにチョンと当てると一瞬にして骨は腐り後には何も残らなかった。
「お疲れ」
「この武器が強すぎるよ。他に何かいい武器は無いの?」
「うーん、希望があれば変えるよ」
「じゃ、じゃあ……」
「?」
「やっぱりいいや」
「そっか」
何がしたかったんだろう?
いや、それよりも、だよね。
「カズラもやる?」
「もちろん……と言いたいけどこれってさ、獣人だよね?」
「えっ! い、言われてみれば」
骨の大群が、ドラゴンから始まり犬のようなのから猫のようなの、はたまたゴリラ……なのかな?
そんな様なのも、多種多様な骨のアンデットたちが迫って来ている。
「一刀の下に鎮めよう。黒鬼」
右掌を強く押して刀を、黒鬼を出す。
「陽法」
黒鬼と言葉に反応して、体の奥底から力が溢れだしてくる。
「新・紫の太刀」
黒く透き通る刀身が、綺麗な……綺麗な紫色に染まり、
「冥道」
空間に亀裂が入り、そこに勢いよくアンデットたちが吸い込まれていく。
冥界……あの世への道に繋がって、ちゃんと成仏してくれるといいな。
「さて、原因を突き止めないとね」
「でもどうやって? 島には本当に私たちしかいなくなっちゃったよ」
「他の皆も探しているから大丈――――」
――――ブォォォォォォォォオ
船の、汽笛を鳴らしたような音が響く。
そして、見えたのは大きな船。
「船、だよね?」
「船、だね」
その船は冗談かのように大きく、空を飛んでいる。
「何か落ちてくるよ」
「本当だね。結界陰法」
一応、シャルを守るために結界だけ張っておく。
ドゴンッと音をたてて落ちてきたのは、ゴミの様に纏められたアンデットたち。
「酷い」
「宝玉の力よ」
僕とシャルがソレを見つけたのはほぼ同時で、僕は助ける為に動いていた。
まず、世界樹でアンデットたちを払いのけ、錬金術で怪我やその他の汚れも含めて綺麗に治す。
「これで大丈夫だと思うけど」
「流石、カズラ! おーい、大丈夫?」
その子は猫の……虎の……いや、獅子の……と、とりあえず猫科の獣族だというのはわかる。
それ以外の情報はこの子が起きてからだな。
「炎よ」
僕の血で無理矢理、焚き火(木無し)を作り上げる。
いや、土を燃やしてるだけだけど。
1時間ほど経っただろうか。
助けた子供が目を覚ました。
「私、は?」
「大丈夫? 倒れてたから」
「ひやぁっ!」
とても凄い身体能力で距離をとった。
人間だったら対応出来ないけど、僕は吸血鬼だもんな。
「お話しない?」
「……」
僕の事を睨んだままその子はどうしようか考えている様子。
あっ、ちなみにシャルは家でご飯を作ってもらってる。
「始めまして。僕は吸血鬼第二始祖にして、“宝玉の吸血鬼”の鬼灯葛です。君は?」
「人間じゃないの?」
恐る恐る、そんな感じで僕の顔色を伺っている。
人間に怯えているのか。
「人間じゃないよ。例えば……」
僕は指を軽く切り、血を地面に1滴ほど垂らす。
それは炎へと姿を変えて天高く昇っていった。
「これでどうかな? 血を使って魔法みたいな事をしたんだ」
「す、凄い!」
目をキラキラと輝かせている。
「で、君の名前は?」
「わ、私はパル・ンラです」
服の端をチョコンと持ち上げて優雅にお辞儀をした。
ンラってこっちの世界だと苗字だよね?
って事は、ペトラと親族に当たるかもしれないんだ。
「ペトラ、って知ってる?」
「えっと、誰、ですか?」
「知らないならいいや。じゃあ、紫の太陽時代は?」
「それなら知ってます。確か、丁度1000年前の話ですよね?」
「そう、それ」
そっか、1000年前なのか。
「ちなみに、君たちの平均寿命って?」
「150年だと聞いています。あっ、私は9歳です」
「ん。ありがと」
150年なら、ペトラの家族は生きていない事になるな。
先に伝えた方がいいだろうか……。
「うーん、君の知識をいただくか」
パルの頭の中を覗かせてもらう。
獣族は魔法が苦手……だから、移民である少数の人族によって蹂躙、奴隷化される。
身体能力で秀でていても、魔法の前には歯が立たずに強制的に言うことを聞かされる。
これが、紫の太陽時代が終わってすぐの事。
それから500年後、神の使途が地上に降りてきたが、現状は変わらず獣族は虐げられるだけ。
そして、歯向かう種族から順々に殺していった、と。
「最初の被害者は?」
「確か、龍族と書いてあったと思います」
「……そっか。最後に、あの骨たちは?」
「……」
「無理には言わなくて――――」
「――――仲間、です。殺され、ても、死なせずに、あんな、姿に」
パルは泣きながらそう、教えてくれた。
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