No.134 捨てられないシャシン
本日3話目の更新!
ホテルの食事はバイキング方式だった。
「おー、葛。遅かったな」
「おい、ニマニマしてるが別に僕は疚しいことなんてしてないからな!」
「そうか? そうだな。火薬と血の匂いだしな」
「義宗もわかるんだ。部屋は大丈夫だった? まだ残党はいるっぽいから」
「それを始末してたのね」
始末というより、トラウマを植え付けた感じかな?
いや、大事な者を壊したんだ。
「皆、後で集合してくださいね」
ココナ先生がたんまりと盛り付けたお皿を持ってきながらそう言った。
また何かあるのか。
「ココナちゃん先生、そんなに食べれるの?」
「大丈夫です! こんな形でも食べないとなんです」
ココナ先生や魔法学校の先生方は全員ある程度の力は持っている。
だから、無駄に過保護にしなくてもいいのか。
ムウを護衛につけたりとか。
「葛くん、今失礼な事を考えてませんでしたか?」
「そんな事はないですよ」
つい目を逸らしながら答えてしまったのが不味かった。
「先生の目を見て言いなさい? 本当に失礼な事は考えてませんでしたか?」
「ごめんなさい。見た目が見た目だからついムウを護衛につけてました」
「何でですか?」
「いや、弱いって思い込んでいたので」
「ムウくんは大丈夫なのに?」
ムウの方がココナ先生より小さい。
それが許せなかったのか、食べるペースが少しだけ早くなった気がした。
食事を終えて、南条も含めてA組が集合した。
「では、紹介します。アメリカの魔法学校にあたる生徒たちが見学という事で一緒に行動してもらいます」
1人ずつ自己紹介を始めた。
「サリエル・ジョンソンです。よろしくお願いします」
髪は色が抜けたのか白く、肌も気持ち悪いくらい白い。
天神族ではなく、普通に人間だろう。
確実に吸血鬼ではない。
「ソウです。姓はないけどよろしくお願いします」
これまた人間だろう。
けど、なんか普通と違う感じがするからユリエーエとかの世界の住人かもしれないな。
「ターニャです。あっ、天神族ってやつだからね」
そう言った瞬間、A組皆の顔が引きつる。
1番に警戒を示したのは僕だろうけど。
「待って、他の天神族に何をされたか知らないけど、私は無害だから。ね? だから殺気を抑えて」
無意識に殺気を出していたから抑えるが、僕の殺気を浴びてピンピンしている。
ある程度力を持ってるっぽいから警戒しとかないとだな。
その後も自己紹介をしていったが、他は人間だった。
エルフやドワーフ、獣族は一切いなく、エリーやドーラ、ペトラに対して当たりが強い印象だ。
考えてみれば、アメリカに来てから人間以外を見ていない気がする。
「自己紹介は済んだかね?」
そう声をかけてきたのは、白髪が目立つおじさん。
シルクハットに杖という、なんかイラっとくる人だな。
小さな声で言ったが、こっちには筒抜けなんだよな。
汚れた血ってどういう意味だ?
流れで考えるとエルフやドワーフ、獣族の事を指すよな。
でも毛嫌いする理由ってなんだろう?
なにか紫の太陽時代にあったのかな?
「そうだ。歓迎として誰か相手をしてあげなさい。手厚く歓迎してあげるんだよ」
「それは内の生徒と模擬戦、という事ですか? エレメー教授」
「そうだが、何か問題でもあるのかな、ココナ嬢よ」
「いえ。なら、葛くん」
ココナ先生は僕をご指名らしい。
相手は……最後に自己紹介をした子で名前はなんだっけ?
まぁ、いい。
「鬼灯葛です。よろしくお願いします」
「ザグーです。場所を変えようか」
そして、近くにある広い公園へと移動する。
ある程度広いから大きな立ち回りも出来るな。
「えっと、エレメー教授?」
「どうしたんだ?」
「ルールはどうしますか? ザグーを地に伏せさせればいいですか? 戦闘不能にすればいいですか?」
「自信があるようだけど、それは命取りにならないといいね。そうだな、我々教師陣に降参の権利を与えて、様子を見ながら、なんてのでいかがかな?」
「わかりました」
なるほど。
僕が危なくなったらココナ先生が降参と言えば終了。
逆に降参と言わなければ続けて、
「命の保証はしないからな」
「わかりました」
そういう事らしい。
不慮の事故が起きてしまうかもしれない、と。
「お互いにいい?」
「待って」
審判をするシャルに待ったをかける。
「ターニャ。何者だ?」
「それって天神族として、っていう質問だよね?」
「うん、そう。一応ね」
「なるほど。私は“傍観者”だから安心して」
安心して、と言われても安心出来ないんだよな。
断罪者とか言って意味のわからない罪を押し付けて裁く人もいるんだから。
「ごめん、始めていいよ」
「わかった。鬼灯葛対ザグーの試合を始める。始め!」
開始早々、ザグーは煙幕を張り視界を目を使えなくさせる。
「黒鬼」
いつでもいいように構えるが、来る気配がない。
「強化陰法 翡翠眼」
煙を関係なしに見えるようになる。
翡翠自体が濁っているから、その光の屈折を合わせて見えるようにしてるんだと思う。
「よし」
その声が聞こえて、ザグーはA組の皆に銃口を向けてトリガーを引く。
「結界陰法 簡易」
簡単な結界で守っておく。
「ズルい手を使うんだね」
「な、なにがだ?」
「混沌陰法 霧晴らし」
一瞬にして辺りを包んでいた煙は嘘のように消えて無くなる。
そして、A組を見たザグーは、
「なんで?」
「何がなんでなのかわからないんだけど」
「まぁ、いい。死ねぇ」
一瞬だけココナ先生を見たけどなんでだろう?
「葛く――――」
「――――黙れ」
エレメーはココナ先生の口を押さえて喋れなくした。
そうか、それが狙いだったんだ。
ならこっちも同じ事をしよう。
まぁ、先ずは、
「陽法 朱の太刀 乱舞」
いくつもの銃弾を全て斬り落としていく。
が、ここまで力の差を見せつけてるのに降参はしないのか?
いや、まだ足りないんだな。
「動くな」
殺気と言霊の2段構えでザグーを脅すと面白いくらいに動かなくなった。
「避けろよ? 陽法 紺の太刀 戯れ」
無数の斬撃をザグーにギリギリ当たらないように放つ。
もちろん狙うのは、ザグーの後ろに位置しているアメリカの子たちで、
「グガァァァ」
「なんでなんでなんでなんで」
「痛いよぉ、痛いよぉ」
全員とまではいかなかったが、最後の方に自己紹介をした面々は軽い傷を負った。
「そ、そこまでだ。降さ――――」
「――――バキュン」
ザグーの後ろにエレメー教授が来るように動いてから、膝の空間を撃ち抜くと綺麗に崩れ落ちた。
「おっかしいなー。狙いが定まんないやー。ズルをしようとしたのはそっちだからね」
「や、止め」
殺気を放ち首に刀を運ぶとザグーは気絶してしまった為、殺すのを止める。
「回復陰法」
エレメーを回復させてから、
「ごめんなさい、狙いが定まんなくて」
A組の面々は笑いを堪えているが、肩が上下してしまっている。
「どうぞ、さっき言おうとしていた事を続けてください」
「黙れ!」
杖は仕込みとなっていたようで、それを僕に突き刺そうとした。
が、仕込みは脆く服に阻まれ折れてしまった。
「なっ」
「エレメー教授! 流石にそれは良くないです!」
僕がエレメーを問い詰めるより先にサリエルが注意に入った。
これで3月の毎日更新は終わり、さんがつ。
多分土曜日の定期更新になる……
後はブクマが増えればその都度更新すると思うので是非(ストックに余裕があれば)。
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