No.123 祝福のサイガイ
ブクマ増えてたので更新
シャルは酔っ払ったのか僕に垂れかかってきた。
それ自体は悪い気はしない。
けど、なんで僕は炭酸でシャルはお酒なの?
「ん? 兄ちゃん初めてだね、このお店」
「わかりますか?」
「あぁ、わかるとも。驚いた顔を見ればな」
「あはは」
そんなに顔に出ていたか。
いや、でも正直驚いているよ、マジで。
「ここはお酒を飲んだことのある人にしかお酒を出さないお店だ。まぁ、ブドウサイダーも上手いんだがな」
そうなのか。
僕はお酒をもちろん飲んだことはない。
でも、シャルは違うのだろう。
「カズラー、いっぱいにふえてふーー」
「酔っぱらってるな、完全に」
でも良かったな。
僕も、もしかしたら泣き上戸とか面倒な酔い方をするかもしれない。
こんど、ちゃんと成人してから飲もう、うん。
お酒は成人、絶対。
とりあえず、ここで待つのはアレだから外に出る。
「カズラー、カズラー、カズラー」
「どうしたの、シャル」
「呼んだだけー。んフフ」
シャルは嬉しそうにニコニコしている。
ドワーフのお酒は相当強いんだな。
に、しても空気が汚い。
化学的な臭いと、よくない物が混ざった最悪という言葉が似合う臭い。
「カプリッ」
「えっ、ちょっ、あっッッッッッッ」
僕の首にシャルの歯が刺さり、そこから血がチュウチュウと吸われていく。
それに従い僕は動けなくなる。
身体中を快楽が駆け巡り、抵抗しようにも電気が走っているかのように体は動こうとしない。
「ぷはぁーー」
10秒も経っていなかっただろう。
けど僕は立っている事が出来ずにその場に経たり込む。
もちろん垂れかかってきているシャルも一緒にだ。
「葛? な、ナニやってるの」
「ペトラちゃん、こういう時は、そっと何も言わないであげるんだよ」
やって来たペトラとドラコは何を勘違いしているのだろうか。
否、僕は地面に経たり込む惚けた顔でシャルも満足気な顔。
それで勘違いされるのも仕方ないと言えよう。
「けど、違うかや」
「それでよく言えるね。ろ、呂律が回ってないよ」
ありゃ、ダメだこりゃ。
言い逃れが出来ない方向に進みつつある。
「あいうえお。か――――」
「――――カプリッ」
「あっッッッ」
声にも音にもならない僕の悲鳴が上がる。
そのまま5秒くらいだろうか。
シャルは眠って僕は失神。
※
「おはよー、カズラ」
「ん? ムウ? 僕は何をしてたんだっけ?」
「ナニの間違えじゃない?」
む、ムウまでそんな事を言うとは。
いや、段々と意識が冴えるに従って思い出してきた。
シャルは……もう起きていたのか、枕に顔を埋めてペトラに言葉攻めを受けている。
主にシャルが酔っていた時にとった行動とか、僕が失神した後の話とか。
「ご迷惑をおかけしました」
特に、心夜先輩には重点的に謝っておく。
その後、ペトラがシャルへの言葉攻めを終えて満足してないのか、
「葛の顔も最高だった。もう、シャルちゃんにヤられて惚けた顔は皆にも見せてあげたい」
「ッッッッッッ」
僕は顔を枕に埋める。
ペトラはそんな性格じゃなかった。
もっと弱い感じで猫耳がピクピクしてて可愛かったはずだ。
僕がいない間のエルフの大陸、グロンダントで何があったと言うんだ!
なんとかペトラの言葉攻めが終わった。
満足したのかホクホク顔になって猫耳をピクピクさせていたのは色々な意味で忘れられないだろう。
「で、どうするんだい?」
「とりあえずは情報集めです」
心夜先輩の質問に答える。
「強欲の宝玉」は、いらない情報しか寄越してこない。
いや、そもそも情報が無い可能性もあるが、調べてみる価値はあると考える。
「とりあえずは2人1組の方がいいので、僕と心夜先輩。シャルとペトラ。ムウとドラコさんでお願いします。危なければ仲間を置いて逃げていいから命あってこそだからね」
薄情だと思うが、命が無いと意味がない。
というのは冗談で、僕の事を呼びに来てくれれば早い段階で蘇生させることが出来るからだ。
「それじゃあ、今の時間が夜の10時だから、明日の昼に集合ね」
「りょうかーい」
代表してなのか、ムウが答えてくれた。
それから宿を出て、
「どこに行くの?」
「心夜先輩が決めてどうぞ」
「そう言われてもな、海外自体初めてだから」
いや、心夜先輩、ここは一応異世界です。
大事な事だからもう1度、一応異世界です。
「ならあそこ?」
「ですよね」
心夜先輩が指さしたのは段々となった天辺、1番上だ。
そこには高く聳え立つ時計台があり、怪しさは抜群だと言える。
「眷属陰法 蝙蝠傘」
「式神 午」
僕は空を飛べる傘を、心夜先輩は前にも呼び出した「午」を。
てか、その馬って空を飛べるんだ。
「葛くんのソレは優雅だね。服にあってるよ」
「心夜先輩の馬も凄いですね。余裕で空を走ってるし」
「はは、レベルSダンジョンクリアした人に誉めてもらえるなんて光栄だね」
「僕なんてそんな。吸血鬼の力あってこそですよ」
そうだ。
どれもこれも、僕がドリーさんに殺されかけなければ良かっただけ。
僕は、僕は好きなアイドルのライブに行ってただけなのに。
――――ジーーーガチッ ジーーーガチッ
時計台に近づくにつれて、歯車が回る音が聞こえ出す。
近づけば近づくほど音は大きくなり、
――――ボーーン ボーーン
22回ほど、鐘の音がなった。
すると、それを聞いた人たちは一目散に走りだし家々へと帰っていく。
「これは」
「嫌な感じだね」
心夜先輩が言った通り、嫌な感じが、雰囲気がする。
辺りは汚れたら靄に遮られ月の光も届かぬくらい真っ暗に。
それと同時に禍々しい何かが近づいてくる音がする。
いや、音ともとれない音。
聞こえもしないが気配は感じて音が聞こえているように錯覚してしまうほど禍々しい何か。
「ぐぁ、がぁぁ」
「心夜先輩!」
心夜先輩の体はジュクジュクと音をたてて黒っぽく変色している。
「結界陰法 神聖なる砦」
金色に輝く結界を張り、靄が入ってこないようにする。
次に、
「回復陰法 世界樹の雫」
それを1滴垂らせば、たちまち心夜先輩の体は元に戻っていく。
「大丈夫そうですか?」
「あ、あぁ。なんとかね。葛くんは効果がないみたいだね」
「はい。吸血鬼だから、かもしれません」
理由はどうあれ、効かないに越したことはない。
さて、シャルは大丈夫だとして、ペトラとドラコさんが心配だ。
何となくだけど、ムウは大丈夫な気がする。
「心夜先輩、動けそうですか?」
「あぁ、大丈夫だ。皆を探すんだろ?」
「はい。シャルの位置はわかるのでムウとドラコさんの場所をですが」
「わかった。式神 子」
ただの紙にしか見えない紙から、次から次へと鼠が出てくる。
その鼠たちは結界から出ると、
――――シューーーッ
音をたててはいるものの、消えずに行ってしまった。
「これで場所はわかるから」
「ありがとうございます」
ここは素直にお礼を言っておく。
僕も出来るなんて口が裂けても言えないな。
ブクマは増えれど、感想、ptは増えてくれない……
是非に