No.122 裏切りにシュクフクを
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電気が消えてから、程なくして船も止まった。
『こちら4班。主電源、予備電源、予備の予備電源共にやられています』
『こちら1班。盗賊との接触までおよそ5分。全員、戦闘体制』
そんな慌ただしい声が無線から聞こえてくる。
「君はお母さんの所に行ってきな。ここは危ないから」
「……いえ、これでもダメですか?」
ダンジョンカードを見せる。
そこには所属している学校のクラスや、名前、年齢などが記載されている。
そしてわかってくれるだろうか?
「僕は石上ドーラと同じクラスの者です。だから手伝います」
「ど、ドーラちゃんのか? どれどれ」
それを言われてか、カードを注視する。
そして、
「こちら2班。ドーラちゃんと同じクラスの子が手伝ってくれるとの事。先に甲板で待機しています。お願いできるか? 危険だと思ったらすぐに逃げていいから」
「はい」
甲板に出ると海賊船は結構近づいていた。
そして、それを手引きしただろうお兄さん。
僕の事を殺すんじゃなく、船内に避難させた理由がわからない。
「マリク! なぜこんな事を」
「隊長、別にこんな事ってほどじゃないよ」
そう言ってお兄さんは、マリクは洋服の前を開けた。
そこにはベッタリと敷き詰められた爆弾がある。
無闇矢鱈と銃なんて撃とうものなら、たちまち爆発していただろう。
それに、頭は撃たれないように結界のような物が張ってある。
「君には危ないから船内に入ってなって言ったよ……な、なんで! 隊長、なんで生きてる!」
今ごろかよ。
余程に僕が出てきたのが以外だったのか、最初から僕を見てたもんな。
「そうか? 死んでたのか? この子が気絶してたから回復してくれたと言ったぞ」
「そ、そうか。運よく生きてたんだな」
納得はしてない顔だ。
けど、もうそんな事はどうでもいい。
「殺してもいいんですか?」
「あぁ、いいけど――――」
「――――被害は出さないように、でしょ?」
「お、おう」
小声で確認をとったがオーケーが出た。
さて、
「宝玉の力よ」
「お前、何をした! 動くな、無駄な抵抗はしてくれるなよ?」
無駄な抵抗をしないでほしいのはこっちだよ。
さて、海賊船は5つ。
裏切り者は目の前のマリクを合わせて5人。
調度いい。
「嫉妬に狂え」
空間を繋げて裏切り者をマリクの近くに落とす。
「な、ここは!」「あれ? なんで?」「ま、マリク、どういうことだ?」「甲板? トイレに行きたかったのに」
「何をした?」
マリクは冷静に僕に聞いてくる。
ここで爆発されるのが1番厄介だったけど、そうじゃないなら楽でいい。
「色欲に魅せられ」
裏切り者5人の重力を一瞬だけ無くすと空高くに打ち上げられる。
流石に巻き込めないのに自爆するつもりはないらしい。
「堕ちろ。名付けて“人間隕石”。うん、カッコ悪い」
裏切り者たちは1人1人違う海賊船へと引き付けられている。
もちろん、海賊船に乗ってる人からしたら敵の術だと思う訳で、
――――ババババババババババッ
銃が撃たれる。
けど、空中で爆発されたらここまでした意味が無くなる。
だから5人には結界を張ってあった。
外からの攻撃に強くて内側からの攻撃に弱い結界を10秒。
海賊船に当たる時には結界が解けて、
――――ドゴーーン ドゴーーン ドゴーーン
5つの海賊船全てが爆発した。
「大丈夫か」
「何があった!」
「敵は? 敵の船はどこに?」
船内から続々と乗組員たちがやって来た。
が、遅い、遅すぎる。
僕が全て片付けてしまったからな。
「隊長さん、手柄は入らないので隊長の手柄でお願いします」
隊長さん以外は僕の宝玉を見えないようにしていたので、証人は隊長さんだけ。
だけど、
「隊長さんかっこ良かったです!」
僕は大きな声でそう言う。
「な、何を」
「あんな事が出来るなんて!」
するとワラワラと隊長さんに人が集まっていく。
これで大丈夫だろう。
僕がやったと言っても、こんな子供の戯言なんて誰も信じないだろうな。
船内に入ってシャルたちと合流する。
「カズラ、どこに行ってたの?」
「ちょっと悪者退治にね」
「無事? 怪我はない? 本当に大丈夫?」
シャルは僕の体をペタペタと触って怪我がないかを確認している。
けどさ、僕って吸血鬼な訳じゃん?
だから怪我なんてすぐに治るんだわ。
しかもシャルも吸血鬼な訳で知らないはずないんだよ。
「ペタペタ触って満足?」
「ば、バレてたんだ」
シャルは満足したのか触るのをやめた。
「ただいまー、電源を修復中なので、出発には今しばらくかかります。お急ぎの方にはご迷惑をおかけ致しますが、今しばらくお待ちください」
そう、乗組員が大きな声で言っている。
ドワーフって短気なイメージがあったけど、誰1人として文句は言わないんだな。
まぁ、人族……人間や他種族も少しはいるけど。
※
電源の修理が終わったのか、1時間してから船が動き出した。
結局、砲台が撃たれるのを見れなかったな。
もしかして、10年前のだったからもう使えなくなってるとか?
だから、応援に駆けつけた人たちは武器を持ってたのかな?
そう考えると納得だ。
『まもなく、ガンマターチに到着します』
アナウンスが入る。
甲板に出てみると、それは見え始めた。
段々になった島で、煙が立ち上る工場と灰色に薄汚れた空気、海に垂れ流される汚水が目立つ。
汚い靄に囲まれた島。
そういう印象を与えてくる。
「カズラ、ソロソロ降りる準備を」
「うん」
シャルに言われて船内に入る。
出口近くには人が多く集まっていて、皆が皆、マスク等で顔を覆っていた。
「結界陰法 防具防塵」
顔を守るための結界を張っておく。
これでゴミが目に入ったり等の心配はしなくて済む。
後、臭いも。
出口の扉が開くと、満員電車の終点かと思ってしまうくらい人が流れ出ていく。
とりあえずはシャルとだけ離れないように行動する。
「カズラ、他の皆と別れちゃったけどどうする?」
「多分見つけてくれるでしょ」
シャルと港近くにある喫茶店に入る。
「いらっしゃいませー。2名さまですね」
席に案内されたが、喫茶店ではなかった。
超おしゃれな居酒屋だったのだ。
「ここで待ってればその内来るでしょ」
「そうだね」
それから2人でメニューを見るがどれもこれもお酒、お酒、お酒。
お酒しか無い。
それも度数が強いお酒しか。
「適当に頼むよ」
「う、うん」
「すみませーん、オススメを2つ」
「はーい」という元気な返事が聞こえて10秒。
「お待たせしましたー」
やって来たのは紫色の物。
僕もシャルも手をつけようとはしない。
シャルはわからないけど、僕としてはまだ法律がとか考えてしまう。
異世界だから関係ないけど。
「まぁ、後1ヶ月もすれば誕生日だからいっか」
そう、今の日本は成人は18歳から。
だから、飲んでも……これはブドウの炭酸ですね、はい。
「シャルのは?」
「うん」
シャルはそれを一口飲んで、
「カーズーラー」
うん。
はい。
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