No.114 灯火をケシテ
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ブクマがまだの人は是非に!
学校が始まる月曜日。
「さぁ、皆来てるね」
ココナ先生が元気よく教室に入ってくる。
「さぁ、皆も知ってると思うけど、ダンジョン協会は悪事を働いていて、報復をくらった」
チラチラとこっちを見るなよ。
いや、皆わかってるけどさ。
「そこで、政府監修の下、新たに“聖ダンジョン教会”なる物が作られた。A組の皆にはこれを配るから」
「ココナちゃん先生、これは?」
「これは聖ダン会のバッジで、これがあれば悪人の受け渡しが速やかに出来るから無くさないように。後、カードを全員提出してね。一応カードにも記しておくから」
カードの方は一瞬で終わった。
「校長からお墨付きを貰ったから、今からパトロールに行っていいよ。まぁ、自由って事。お給料はもらえないけどね。じゃあ、解散」
そう言って教室から出ていった。
そして、皆も各自で教室を出ていく。
残ったのは僕とシャル、そして桜の3人。
チルはちゃっかり逃げ出した。
「葛くん」
「な、なに?」
怒られるだろうな。
「ごめん」
「えっ」
「シャルちゃんを選んだんだよね?」
「う、うん」
「そう、だよね」
桜は少しだけ残念そうな顔をしたが、すぐに納得の表情に変わる。
それを僕は見てられず、顔を背けてしまう。
「私ね、葛くんに言ってない事があるの。それはね、吸血鬼になった時に、和紗ちゃんの事を思い出したの」
「えっ!」
「本当だよ。それでね、シャルちゃんを見たとき思ったんだ。似てるなって。そりゃそうだよね。だって、同じ王女なんだもんね」
そうなんだ、桜も覚えているんだ。
「でも、それだけが理由じゃないんだよね? ユリエーエに行ってる時に仲良くなったんだもんね。葛くん、出来るかわからないけど、吸血鬼を止めて人間に戻して……これが最後のお願い」
「いいの?」
「うん、大丈夫」
てか、吸血鬼から人間にって出来るんだ。
「眷属陰法 血禁離」
桜の体から吸血鬼足り得る為の血が出ていく。
と、同時に、
「グゥゥゥ」
強烈な痛みを感じているようだ。
数分して、桜は気絶した。
残るのは、1滴、ほんの1滴の血だけ。
「戻れ」
血は僕の体の中に染み込んでいく。
「よかったのかな?」
「わからない。でも」
和紗を知っているのは僕だけで十分だ。
*
長い長い夢を見ていたような気がする。
とても幸せで、とても辛い夢を。
いや、もしかしたら現実なのかもしれない。
けど、それを聞く勇気がない。
「おはよう、よく眠れたかい?」
気がつくと、学校の保健室にいた。
目の前には月明かりに照らされた◯◯◯がいる。
「あなたは」
「一応、知ってるでしょ? まぁ、今はそんな事どうでもいいんたよ。ねぇ、宮野桜。君の望みはなんだい?」
私の望みは……時間を戻りたい。
もし、夢が現実なら次は上手く立ち回ってみせる。
そして、葛くんは私が手に入れたい。
八乙女和紗なんかには渡さない。
「君は強欲なんだね。それでいて、嫉妬深い。実にいい!」
そして、その人はボソッと何かを言ったが聞こえなかった。
そして私は睡魔に負けた。
*
桜の吸血鬼を解いてから1週間が過ぎたが、学校に姿を見せる事がない。
まぁ、学校は自由登校で、来る必要がないのだが。
あの後は、保健室に連れていくと保健の先生に、「帰っていい」と強く言われた為、そのままシャルと帰ってしまった。
のだが、やっぱり心配になって夜な夜な学校に行くと流石に帰ったのか、いなくなってた。
否、神隠しにあったかのように消えていた。
なぜならベッドはまだ温かく、今さっきまで人がいた感じだ。
そして、家にも帰ってない、との事。
またも忠さんは全国に捜索依頼を出したという。
「カズラ、桜ちゃんを探せませんか?」
「ごめん、吸血鬼だったらまだしも、人間となると難しい」
「そっか」
いや、探せない事はない。
理を使えばいいんだ……いや、使った。
その上で見つけられなかった。
「カズラ、あそこ」
「またか」
僕たちはまた、犯罪者を捕まえる為に動き出す。
※
所変わって日本のどこか。
「チルちゃん、待ってよ。1人じゃ危ないよ」
「なんでついて来るんですか!」
チルの後ろを歩くのは五帝神が1人、死の勇者ハーデス・バルス。
「それは何度も言ってるじゃん。一目惚れしたからって」
「なんで私なんですか!」
「可愛いから?」
「わ、私は」
なにかいい言い訳を思い付くでもなく、黙り込むチル。
それを見かねたハーデスは、
「まぁ、気にしないでください。危険が来たら守るだけですので」
「ありがとう、ございます」
消え入りそうな声でそう言った。
*
「ねぇ、カズラ」
「なに?」
1ヶ月が過ぎた頃には、桜の事を嘘のように気にしなくなった。
薄情だろう?
葛だろう?
でもそういう物だ。
自分に都合が悪い事はすぐに忘れる。
結局は形がなかった恋だったんだ。
考えても、そこまで思い出があるか?と聞かれたら無いと、答えるだろう。
だから、偽りの恋。
ニセモノだったんだ。
「そういえばカズラ、次の世界に行くための目星はついたの?」
「ううん、まだなんだよ。結構な数の魔石を集めたんだけど、作れなかったんだ」
後に聞いた話だが、ドリーさんがくれた魔石はグロンダントで取れた魔石だったらしい。
って事は、エクスターチで手に入れた魔石じゃないと作れない可能性が高いという事。
獣族の世界も同じだ。
「いや、1つだけ、確実な方法はあるんだ」
「なに?」
「これ」
僕は掌に黒鬼を出す。
これは、
「これは石上のお父さんに作ってもらったから、これならって思ったんだ」
「でも、愛着があるから嫌だって思ってるの?」
「そういう事」
「じゃあダメだね。他には無いの?」
「他には、ねぇ」
エクスターチで手に入れた物なんて無いに等しい。
または、宝玉を使えば確実だけど、宝玉は大事な大事な戦力だ。
宝玉が1つ有るのと無いのとでは大違い。
「ならさ、ドワーフ? を探してみたら。それで何かを貰えばいいじゃん」
「って言ってもさ、ドワーフなんて早々いない……いや、丁度いいという言い方は良くないけどいるな」
友達かと聞かれるとそうとは答えられない。
が、一応は知り合いであり、顔見知りである。
「よし、京都に行こう」
「どこか遠いの?」
「いやいや、日本の中だから近いよ。新幹線で1時間とかからないから」
けど、どうせ行くならついでに観光もしたい。
「よし、今から行こっか」
とりあえず、宿だけ適当に予約しておく。
「シャル」
「はい」
僕はシャルの手を引いて空の旅をする。
下を見なければ怖くないから。
いや、ね。
よくよく考えてみたら高い所から飛び降りたりもしてたんだよ、僕は。
でもあの時は流れに身を任せてたから出来た訳で、こう、意識しちゃうと怖いわけだよ。
「大丈夫?」
「えっ?」
「手が震えてるから。もしかして、カズラは高い所が苦手なの?」
「うん、そうみたい」
そんな、恐怖を押さえつけた無理矢理の笑顔を浮かべる。
酸漿....『偽り』
酸漿って見たこと無いんだよね。
花言葉ってなんかいいよね?
こういう時に使える(たまたまいい感じに意味が合った)