No.113 聖火のトモシビ
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ダンジョン協会を砂に変えた次の日。
僕はドリーさんに割り当てられた部屋で棺桶を作って睡眠をとっている訳だが、
「暑い。てか、なんで入ってるの?」
「かくれんぼしてた」
「そっか。ならいいよ」
気がつくと入り込んでいたアイリスの事を暑くは感じる物の、鬱陶しくは感じなかった。
僕はアイリスを抱き枕にする。
背的には丁度いい。
てか、僕の作った棺桶が大人用だから、背丈が中2な僕には結構広い。
そのおかげでアイリスが入れるんだ。
えっ、昨日買ったチンアナゴの抱き枕はどうしたかって?
アイリスがこの棺桶から追い出したみたいだよ。
ここにはいないから。
「アイリス、誰とかくれんぼしてるの?」
「シーー」
どうやら気がついたらしい。
「アイリスー、どこですかー。私の負けですからー」
シャルの声が聞こえるから、シャルとかくれんぼをしていたのか。
もしかしたらチルも一緒にかな?
「アイリス、シャルが負けたって」
「……眠い、です」
「まぁいっか」
昨日は寝不足なのか、お眠らしい。
まぁ、抱き枕が無くなってアイリスで丁度いいから構わないけど。
「カズラ……棺? カズラ、失礼します」
「なに?」
どうやらシャルが部屋に入って来たようなので、棺桶を開けてシャルに姿を見せる。
「アイリス、そんな所に隠れてたの」
「アイリスは寝てるよ」「zzz」
アイリスは僕の腕の中で寝てしまっている。
時間は……あっ、12:00を回ってるよ。
僕は、アイリスをお姫様抱っこで持ち上げて部屋に運んであげる。
「ふぅ」
「カズラ」
「なに?」
シャルは神妙な顔つきで僕の手を引く。
そして、シャルに連れられて僕の部屋にやって来た。
なんで僕の部屋なんだろう?
「私と桜ちゃんのどっちかを選んで、って言ったらどっちを選ぶ?」
「どうもしない。どっちも選ぶ……と思う」
自信はない。
それに、絶対もない。
「なら、私だけを見てって言ったら?」
「それは……」
シャルは正直可愛いと思うし、恋愛感情も抱いている。
けどそれは、和紗の面影があるのが1割を占めているからだと思う。
いや、最近は1割しか占めてないと言うべきか。
だから、それでもいいと思ってしまう。
「私だけを見て、というのはダメですか? そう思っちゃいけませんか? 我が儘ですか?」
「ダメか、ダメじゃないかと聞かれたら、そう思うのはダメじゃないよ。けど――――」
「――――私は怖いんです。家族はもう居ない。しかも知らない世界で。それが、もう繋がってないはずの世界なんです。もう……もうユリエーエは存在しないんです!」
シャルは瞳いっぱいの涙を浮かべて叫ぶ。
こんな訳のわからない所に放り込まれるのは相当な辛さがあるのだろう。
「カズラ。私は、今は無きユリエーエ国の第一王女です」
そう言いながら僕の事をベッドに押し倒した。
シャルは信念を宿した瞳で僕を見据えている。
「そ、そのエッチぃ事も理解していますし、出来ます」
「えっと、一旦落ち着いて」
「私は至って冷製です」
「いや。絶対に冷静じゃないって」
マンガ風に表すなら、シャルの目はグルグルだ。
それに、場所を考えてみてほしい。
ここはドリー邸で、ドリーさんはいる……あっ、反応が消えた。
ついでにチルとアイリスの反応も一緒に消えてるし。
「カズラ?」
「えっと」
シャルは僕の顔を両の手で挟んで顔を正面に、シャルの顔に向かせる。
えっ、待って。
反応が消えたって事は誰も家にいない。
って事は誰もこの状況を止めてくれないって事だ。
けど、心の中では悪くないかも、って思ってる僕がいる。
だってそうだろ?
可愛い子に迫られてるんだから。
「流されちゃっていいんだよ」
シャルは僕の心を見透かしたように、耳元で囁いた。
※
それから、気がつくと後の祭。
全て事が終わった後だった。
てか、王女と言うだけあり、喜ばせ方からナニからナニまで最高だった。
いやー、世界が輝いて見えるとはこういう事を言うんだな……とか冗談は置いといて。
「……シャル?」
「なんですか、カズラ?」
「僕はね、前に付き合ってた子がいたの。名前はシィ・ユリエーエって言ってね、文献には乗ってないだろうけど、王女だったんだよ」
「それは……600年前って事ですか?」
「そう。それでね、僕はシャルに――――」
「――――そのシィという方を重ねていた、と?」
僕の心を読めるのか?
と思ってしまうほど、綺麗に重ねてきた。
そう、今までは重ねてきた事が何度もあった。
「うん。だからごめソッッッ」
シャルはどうやら謝罪を受け取らないようだ。
僕は唇をシャルに奪われたまま何も出来ない。
されるがままというカッコ悪い感じだ。
てか、なんか大胆になったよな、シャルは。
「別にいいんです。桜ちゃんよりも1歩も2歩もリードしましたので。桜ちゃんには申し訳ないけど、私だけを愛してください!」
「それは……」
「私はカズラが好きです。大好きです……誰にも渡したくありません」
それは、懇願にも似た囁きだった。
でも、と僕は考える。
シャルが僕に惚れる所はどのくらいあっただろうか?
もし、最初に会った時に男の子として意識されてたと仮定しよう。
うん、その場合は惚れそうな、落ちそうな所は多々あるな。
逆に、意識されてないと……僕はただの鬱陶しい男でしかないな。
よって証明完了。
「お願い、カズラ」
耳元で囁かれる。
僕は優柔不断だ。
契約として残さないと何をするかわかったもんじゃない。
だから、
「契約陰法 契りの印」
今作った陰法。
相手と自分が心から思わないと成立しない『契約陰法』。
僕の血がシャルの首に、シャルの血が僕の首にそれぞれハートの印が刻み込む。
その印はハートの形をしていて、よーく見ると花が寄り集まって出来たハートである。
*
イギリスの路地裏。
「ドリーさま、どちらに行かれるのですか? アイリスまで連れて」
「なーに、親としての粋な計らいだよ」
「?」
「チルちゃんは知ってるだろ? シャルちゃんが葛くんに惚れているのを」
「はい。見ていて焦れったいと思ってしまいます」
「そうか。そうだな」
チルは辺りを見渡して、興味深そうにしている。
何処と無く、ユリエーエに似ているからだ。
「ここは」
「イギリスという国だよ」
「なんでイギリス? に来たのですか?」
「それはね」
ドリーが手を2回叩くと、その音が辺りに響く。
すると、1人の男が現れて、
「お呼びでしょうか」
「よく来たね。命令だ、今すぐに準備をはじめてくれ」
「かしこまりました」
それだけ言うと、男はすぐに消えてしまった。
「何を?」
「ん? チルちゃんは知らなくていいの。葛くんが欲しがるだーーいじな物ってだけ。じゃ、ちょっとお茶でもしてから帰ろっか」
そう言うと、夜の町に溶け込んでいった。
*
風船葛……『永遠にあなたとともに』
優柔不断な主人公、選びます!
感想、ブクマ、ptぜひぜひくださいましー!