No.102 時計をアワセテ
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「森」
「森だね」
「森ですね」
「森ー」
シャル、僕、ヤード、ムウが声を出す。
僕たちが降り立った場所は森の中。
「懐かしい」
「なら成功かな」
ドミニカさんが「懐かしい」と言ったなら成功だろう。
僕も吸血鬼にした宮野桜の気配を感じる事が出来る。
桜の家は東京に大病院を構えていて、これ以上の病院は無いと言われるほど凄いらしい。
「じゃあ確認しないと」
「何をだ?」
「日本に戻れるかどうか。開け、世界を繋げろ」
しかしなにもおこらない。
「あれ?」
「ドミニカさん、どうかしました?」
「呪いが解けてる。いや、宝玉の力を感じない?」
「えっ」
どういう事だ。
一応、僕も、
「宝玉の力よ」
しかしなにもおこらない。
「……なんで? 一応、混沌陰法」
「おぉ、綺麗な炎じゃないか」
陰法は使えるようだ。
今はそれだけでも御の字だな。
「こんな事なら城も持ってきてもらえばよかったな」
「ごめんなさい。ちなみに、ドミニカさんの故郷ってグロンダントですよね?」
「そうだ。ん? 宝玉をどこで手に入れたか気になるのか」
「はい」
僕は知らないんだよ。
普通は大陸が7つしかないから宝玉も7つだと思うじゃん?
「あれは紫時代の事、私はグロンダントの海で遊んでたんだ」
あっ、何となく話読めたけど、ドジっ子属性がついてたんだ。
「それで、たまたま大きな波が来て、たまたま近くにいた私が波に拐われたんだよ。そのまま海の中をさ迷ってダンジョンについた。それがユリエーエに近かったから私は人族の世界にいた」
うん、たまたまなんだよね。
うっかり、「波だー」とか言って近づいて持ってかれたとかそんな事ないよね?
「な、なんだ! みんなして怪しむような目をしおって」
「……まぁ、僕はみんなの所に行かないとなので。五帝神のみんなはどうします?」
「そうだな。とりあえず、1週間後もう1度ここに集合という事で」
「わかりました。1週間後に」
そうと決まれば、
「シャルたちはついてくるでいいよね?」
「はい! カズラのお友達に挨拶をしないとなので」
「なんで頬を赤らめながら言ってるのか聞いても?」
「いえ、気にしないでください」
シャルは急に冷静になり、そう告げた。
うん、流石のシャルでも体をクネクネさせるのはちょっと止めてほしい。
可愛いことには可愛いけど、どこか色気が出て来たから。
僕は宮野の気配だけを頼りに移動する。
「黒鬼。陽法 翠の太刀 飛雲」
道中、大きな虫ばかりに襲われた。
いや、グロンダントの魔物が基本虫型だからしょうがないけど気持ち悪い。
「燃えろ」
斬ると気持ち悪い色の血が吹き出すと学習したから燃やす。
とにかく燃やして燃やして燃やしまくる。
そして、みんなの所につく頃には夜になっていた。
「葛くん!」
「宮野」
宮野が飛び付いてきた。
いや、それはいいんだけど、シャルとチルとアイリスの視線が痛い。
シャルからは嫉妬の視線が、チルからは呆れの視線が、アイリスからは羨む視線がそれぞれ来ている。
「事情を聞きたいから皆を呼んでくれる?」
「もう少しだけ。それと少しごめんね」
「んッ」
僕は為す術無く宮野に吸血される。
この全身を巡る快感に体が軽く痙攣する。
「ぷはー。ありがと」
そう言って宮野は皆を呼びに行った。
僕はその場に経たり込む。
「か、カズラ。大丈夫ですか?」
「アハハ」
「カズラ。私も」
シャルは心配してくれてチルはもう笑うしかないみたい。
で、アイリスは経たり込んだ僕の膝の上に座った。
「おう、葛……何があった?」
浅間義宗。
富士山近くにある浅間神社の子で僕の友達。
「色々ね」
「そ、そうか。皆が待ってるから来い」
「了解」
行こうとすると、シャルに袖をクイクイと引かれる。
可愛い……じゃなくて、
「なに?」
「なんて喋ってるの?」
「あー、そっか」
僕がユリエーエに行った時は言葉の壁という理を喰らったんだっけ。
でも今は宝玉を使えない……どうにかしないとな。
「早めに解決させるよ。ごめんね」
「うん」
そのまま義宗についていくが、シャルは袖を掴んだままだった。
※
「葛くん、1年だよ! 1年!」
「ごめん、って」
時間の流れがおかしく、ここでは紫の太陽が終わってから1年が経過していた。
それに伴い色々と事情が変わっているらしい。
まず、
「そこは満更でもなくなったのか」
「あぁ、そうだな」
エルフと人間のハーフであるエリー・L・トワイライトと、一松団と呼ばれるヤクザ組織を1年で建て直したと言われている天才の一松文鷹が結婚していた。
エリーはどうやらグロンダントに戻って来る時に彼氏を連れてこないと村の誰かと結婚させられるという約束があったらしい。
それで、文鷹をニセ彼氏にしてたら話がトントン拍子に進んで結婚。
今では満更でもないらしい。
「で、そっちは?」
「アハハ」
義宗と、ドワーフと人間のハーフである石上ドーラは付き合ってた。
文鷹にエリーを取られ(ドーラのじゃない)凹んでいる時に、義宗が励まし、告って告って告ってやっと、2週間前に付き合い始めたらしい。
「ペトラはドンマイ」
「な、慰めなんていらないよ。このハーレム男が」
「えっ」
ちょっと会わない内に口調が凄い変化している。
ペトラ・ンラは獣族の中でも上に位置する王族であり、可愛い猫耳が特徴的。
怒っていながらもピョコピョコと動くのは猫耳。
てか、「ハーレム男」言われて反論出来ないんだよな、今の状況。
「私は葛くんに吸血鬼にしてもらったから!」
「私はカズラに助けてもらったし、デートもしてもらったもん!」
シャルと宮野が言い合ってる。
デートって「男女が日付を決めて会うこと。会う約束」ていう意味だし、あながち間違えでもない事は多々あったな。
まぁ、後ろからチルがつけてたからあれをデートと呼んでいいのかわからないけど。
「わ、私はダンジョンも2人で一緒に行ったし、血を吸いあった仲だもん!」
「わ、私だって頭ポンポンされたり、私の言うこと聞いてくれたりしたもん!」
なんか、僕って相当葛な事をしてたのか?
やっぱりタラシなのか。
「それに、私の事は名前で呼んでくれるもん」
シャルのその言葉が止めとなったのか、「ガーン」と音が出そうなくらい肩を落として項垂れている。
そして、ユラユラとこっちに近づいてきて、
「葛くん、私も名前で呼んで!」
「え、えっと」
「さ く ら。はい」
「さ く ら」
「はい、なんですか? 葛くん」
うっ、僕の胸に直接的なダメージが。
「カーズラ」
「な、なんでしょうか。シャル」
「もう1回呼んで」
「し、シャル」
「はい」
うっ、またも僕の胸に直接的なダメージが。
笑顔にやられるとは、こういうのを言うのだろう。
シャルは王族と言うだけあり相当な可愛さがある。
桜は1年が経過してなぜか成長出来ていて、可愛さと美しさを兼ね備えている。
「そういえば、2人はなんで会話出来てるんだ?」
昨日にブクマが2件増えてたので、後2つ更新しようと思ってます!
感想、ブクマ、ptぜひぜひくださいまし!