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せかい その4

 翌日、朝食後の腹ごなしに館の探索を始めた。


 いつもなら、食事の後に追い出しのため「散歩してこい」といった趣旨しゅしのことを言い出すメイドが、今日は何も言わなかったところを見る限り、まだ何をしでかすか分からないという扱いのようだ。


 ならば、下手に外を歩き回るのはよろしくなさそうだな。


 別に、あのメイドの中での評価を下げられるのは構わないが、へそを曲げて飯抜きになったら、今後の生活に大きな支障をきたすから、あまり反抗的はんこうてきな態度は取らないようにしておく。


 ……しかし、だ。


 嬉々(きき)として始めた探索だったが、予想していた以上に面白みは無かった。


 何故なら、その大半がただの空き部屋だったからだ。


 まあ、良く考えればそりゃそうか。


 元々は大人数で住んでいたのだろうから、その館から人が居なくなったのであれば空き部屋が残るだけ、単純な引き算の話だ。


 つまり、館を探索したからと言って、特段興味深いものが見られるわけではないのも当然だった。


 結局探索して分かったのは、そんな空き部屋でも手抜かりなく、綺麗に清掃が行き届いていたという事実くらいだな。


 ……いや、ベッドやタンス、机は有ったが、本棚は無いという事実も分かったか。


 つまり、俺の求めていた新たな娯楽は無い、ということだ。


「はぁ……」


 想像以上に収穫のない探索が終了直前になり、溜息の増産のせいで口が乾いてきた俺は、後でコーヒーでもれてもらおうと思いながら、いくつ目か分からない扉のノブを捻り、


「……ん?」


 ガチン! と入室をこばむ音に首をかしげた。


 いや、別に鍵など存在しないのに開かないとか、そういう超常的な現象が発生しているわけではないし、誰も使っていないから鍵を掛けたまま放置されているという可能性も否定出来ない。


 ……ないのだが、今まで開けた全ての扉に鍵が掛かっていなかったし、この扉も当然開いているものだと思っていたから、脳内で疑問符が育ったというわけだ。


 だが「見れない」となると、途端に好奇心がむっくりと頭をもたげてくるものだ。


 他の扉と比べ、やけに年季の入った扉の、これまたやけに年季の入った鍵穴から中をのぞき込んでやろうとしゃがんだところで、


「何をされているのですか」


 冷ややかな声が降ってきた。


 ……さっきまで全く気配が無かったはずだが、こうやって俺が困っていたりすると、こいつがひそやかに近づいてるんだよな。


 おそらくこいつのことだから、何を言いつくろったところでバレるだろうし、素直に言おう。


「いや、何だ。部屋に鍵が掛かっていたから、中が気になっただけだ」


 頭をきながら言うと、質問したくせにメイドは、


「……そうですか」


 などと無感情に答えを返してくる。


 その態度にきょうがれたから、その場を去ろうとしたところで、


「見ますか?」


 と主語なしにメイドが言葉を発声したから、俺は足を止めて疑問を投げ返した。


「……何をだ?」


「部屋の中です」


「いや、別にどうしても見たいわけではないが……そうだな、開けられるのなら見るぞ。折角せっかくだからな」


 何が折角だ。


 興味があると言えばいいものの、鍵穴を覗いてまでこの部屋を確認したいと思っている様子を見られるのは恥ずかしいという気持ちが働いたらしい。


 だが、メイドは眉一つ動かさず、


「そうですか。掃除の後、誤って鍵を掛けてしまっただけですので、鍵を開けます」


 と言ってから、ポケットから鍵を取り出した。


 カチャリ。


 鍵の開く音がした後、キィ……と少しだけ錆びついた音がする扉をメイドが少し重そうに押し開けた。


 俺の興味は開いた扉の奥に向かい、一瞬で霧散むさんした。


 何も無かったからだ。


 ……いや、本当に。


 今までの部屋は、人が生活していたことを匂わす部屋が残っていたが、この部屋はさっきまでの部屋より広いのにも関わらず、何も置かれていなかった。


 そして、地下ならまだしも、1階の一等地に鎮座ちんざする部屋だというのに窓すらない。


 元々倉庫だったという可能性もあるが、それならばもう少し何か置いてあってもおかしくない気がする。


 これだけ広い家なんだから、色々と備品置き場は必要だろうしな。


 だが、


「満足しましたか」


 静かに目を伏せて言ったメイドに尋ねるのもまた、何か気恥ずかしさを感じた俺は、


「ああ、すまないな。もういい」


 と言うだけに留まった。


「構いません」


 扉を閉じ、すぐに鍵を掛けたメイドは、


「館だけではおひまでしょう。私もお供しますので、外を散歩しましょう」


 などとのたまう。


 監視付きとはいえ、外への散歩が許可されたと喜ぶべきなのかもしれないが、どちらかと言えば館内をあまり散策されたくないからなのか、と邪推じゃすいした。


 いや、それとも館探索を急に始めたから、俺の退屈に気づいたか?


 聡すぎるからな、このメイドは。


「ああ、そうだな」


 ここでえて抵抗する意味も無い。


 だから俺は、メイドの申し出を受け入れ、その扉を後にした。


 ほんの少しだけ、後ろ髪を引かれる気持ちを残して。


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