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せかい その2

 さて、食事を済ませるとまた暇になる。


 もちろん、風呂に入る予定はあるが、流石に食べてすぐはちょっとな。


 かと言って、再び布団に潜り込むほど眠気もないし、こんな夜中に散歩なんて言ったら、今度こそあの白黒女に部屋で軟禁なんきんされるだろう。


 ……という場合、俺が次にすることは1つだ。


 どでかい館の端に、渡り廊下で繋げてあるやけに高い円塔えんとう


 その重苦しい扉を開けると、中からややカビ臭さが漂ってくるが、その塔の円形の部屋の壁一面、天井まで広がる本棚が押し込められている。


 そして、その部屋に置かれている重厚な机、そこに置かれているアンティーク系の照明、妙に手の込んだ彫刻、名前も知らない観葉植物。


 そう。


 ここは塔の形をした書斎しょさいだ。


 どんな悪いことを……いや、別に悪いことでは無いかもしれないが、何にせよどんな仕事をすればこんなに蔵書ぞうしょが出来るのか、全く想像もつかない。


 ただ、何にせよ世界に忘れられたこの空間に存在する俺にとっては、唯一と言っていい娯楽を供給してくれる場所だ。


「さて……今日は何を読むか」


 ひとちながら、書架しょかの前を歩く。


 俺が確認する限り、蔵書のジャンルは小説のみだ。


 普通、実用書とか図鑑とか、そういうものも置いてありそうなものだが、何故かは良く分からん。


 そして、蔵書全てに作者欄が存在しない。


 じゃあ一体、誰がこの本を書いたのか?


 ……なんて思ったところで仕方が無いんだよな。


 分かったところで、俺に暇つぶしを与えてくれてありがとうとファンレターを書こうにも、その相手には届くわけがないからな。


「あれにするか」


 前に読んだシリーズモノの2巻を見上げ、今日の暇つぶしに使おうと思ったのだが。


「手が届かないな。踏みだ――」


「どうぞ」


「……」


 背伸びしても届かないから踏み台が必要だが、さて何処に置いていたかなと思案している内容が少し言葉として漏れていたのだが、その言葉が全て流れきる前に、相変わらず衣擦きぬずれの音すらさせず、俺の真横を陣取っていたメイドの手が差し出された。


 勿論もちろんというべきか、その手には踏み台があった。


 ホント、うちのメイドは優秀だな。


 優秀すぎて怖いくらいだ。


 いや、うちのメイドという言い方もおかしいか。


 単なる共存関係というか……いや、共存の割には俺は何もしていないから、こういうときの適切な言葉は……ヒモ?


「何ですか」


「……いや、何でもない。サンキュ」


「はい」


 無愛想な表情でメイドが差し出す踏み台を、俺も無愛想に受け取る。


「なるほど、ご趣味はそういう本ですか」


 踏み台を使用し、俺が手に取った本の表紙を見て、普段はさほど俺に興味を持たないような言動のメイドが、珍しくそんなことを言った。


「何がだ」


「いえ。その本は、悪の組織に捕まった兄を取り戻すために、妹が世界を股にかけるストーリーでしたね」


「……ああ、そんな感じだな。まだ1巻しか読んでないがな」


「ああ、失礼しました。1巻ではそこまでは描かれておりませんでしたか」


 1巻は確か国内で収まっていたはずだが、その内に世界まで股にかけるのか。


 微妙なネタバレに呆れつつも、そんなことを知っているということは、こいつも読んだことがあるのか。


 まあ、そりゃそうか。


 こんな世界では、娯楽はこれくらいしかないだろうからな。


 ……いや、こいつは編み物もしていたが。


「つまり、妹好きと」


「どうしてそうなる!?」


 たまたま読んだ本だけで、性癖まで勝手に認定すんな!


「いえ、考えてもみてください」


 唐突に、ばっと両手を広げる。


 何だか、今日はやけにテンションが高いな。


「これだけの蔵書がありながら、読む本がこれですよ。妹好きという証左しょうさではないですか」


「いや、たまたま手に取ったのがこれだったってだけでな……」


「面白くなければ、続きは読まないでしょう」


「まあ、そりゃそうだが」


「つまり、妹好きと」


 どうやら、こいつは何が何でも俺を妹好きにしたいらしい。


「だから違うっての。妹とか兄とか言われてもな、本の中だけの存在だから、どんなものか分からんし、どうも思わん」


「……」


 急に黙りこくるメイド。


「な、何だよ」


「……いえ、そうでしたね」


 急に冷静になられると困るんだが、何にせよメイドはこほんと咳払いをしてから、


「どうですか? 記憶が無いのは不便ですか?」


 と直球で尋ねてくる。


 だから、俺も直球で言い返す。


「正直、良く分からん。有った方が良いとは思ったが、有ったら有ったで前の世界を思い出して、今の生活に嫌気が差すだろうし、今のままでも特に不便は感じてないからな」


「……そう、ですか」


「何だよ」


「いえ、何でもありません」


 ふっと力を抜いたメイドは、


「私は編み物の続きをしますので」


 と言って、部屋を出ていき……何故か戻ってきて、部屋の2つある豪華な椅子の片方に腰掛けた。


 ……いや、自分の部屋でやるんじゃねーのか。


 まあ、その場に居ても、別に読書の邪魔をするわけでもないから構わないのだが。


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