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3.姫奈ちゃんと生駒くん

中等部三年 文化祭後くらいの美佐ちゃん視点です。

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 今日は姫奈ちゃんのお家でティーパーティーである。

 私は神楽美佐。姫奈ちゃんとは小さいころからのバレエ仲間で、幼稚園からの同級生だ。

 今日のティーパーティーは、先日お邪魔した芙蓉学院文化祭の感想会もかねている。


 たまに行われる白山家でのティーパーティーは、私たち桜庭女子の楽しみだった。姫奈ちゃんは知らないが、桜庭女学園では白山家のティーパーティーに呼ばれるのは一種のステータスなのだ。


 親友の白山姫奈子は、お嬢様学校と呼ばれる我が桜庭女学園から、わざわざ外部受験して芙蓉学院へ行ったのだ。芙蓉学院に行くと聞いた時は、ちょっとだけ裏切られた気がしたものだった。

 そんな姫奈ちゃんは、私たち界隈で話題の人だ。芙蓉学院に中学受験で入学した時点で、努力とチャレンジ精神が噂になったし、最近では中学生でありながら自分自身の店を持ち、メニューの開発までしている。噂では人気モデルの八坂くんのオキニだとも言われ、顔は映っていなかったが雑誌に一緒に載っていた。

 姫奈ちゃん自身を知らない人でも、その人となりを聞けばお近づきになりたいと思って当たり前だ。

 それなのに、姫奈ちゃん自身はちょっと抜けていて、学院ではバナナやらゴリラやらと色物キャラとされている。多分、男の子の前で猫を被るのが苦手なのだ。

 大人しくしていれば完璧なお嬢様なのに、それが姫奈ちゃんには難しいらしい。乙女としては気の毒だけれど、姫奈ちゃんだから仕方がないというのは、私たちの中では同一見解だ。



 白山家のティーパーティーは、姫奈ちゃんが手作りのお菓子を用意してくれる。招待された私たちは、各自おススメのお菓子や軽食を持ち寄る、いわゆる持ち寄りパーティーである。

 今日は私がサンドイッチの当番だったから、お気に入りのカフェのオープンサンドを姫奈ちゃんに手渡した。


「ありがとう! 美佐ちゃん!」


 食べ物を受け取るときの姫奈ちゃんはとっても可愛い。スキップしそうな勢いなのに、中身を揺らしてはいけないと必死に我慢しているところとか、本当に可愛い。もう、何でも与えたくなってしまう。本人は太ることを気にしているようだけど、少しぐらい太ったって、ぜんぜん問題ないと思う。前にそう言ったら、あからさまに嫌な顔をされた。そういう感情が隠せないところも、可愛い。


「ねぇ! 綱! ちょっとだけ手伝ってー!」


 当たり前のように、幼馴染の男の子を呼んでみんなが持ってきた手土産を運ばせる。

 綱と呼ばれる男の子は、ペコリと無言で私たちに頭を下げて、姫奈ちゃんに言われるがままに荷物を運ぶ。


 彼の名は生駒綱守くん。姫奈ちゃんのお屋敷の離れに住んでいる男の子だ。有能だと噂に聞く白山家の執事兼秘書の生駒さんの一人息子である。

 白山家執事の生駒さんは、小学部時代によく姫奈ちゃんをお迎えにきたりしていたので、桜庭ではちょっと名前が知られている。何しろ私たちのお父さまと同じくらいの年齢でありながら、とても「おじさん」には思えない風貌。その上、私たち子供でもきちんとレディとして扱ってくれる。姫奈ちゃんがメロメロでベッタリするのも頷けるナイスミドルなのだ。


「ちょっとお茶して待っててね? 準備するから!」


 そう言って姫奈ちゃんはキッチンに消えた。

 私たちはお手伝いさんに促され、テーブルにつき紅茶を入れてもらう。



「ねぇねぇ、生駒くんてどう思う? だんだん格好良くならない?」


 百合ちゃんがニヤニヤした顔で問う。

 わかる。私もそう思う。


「中学に入ってからどんどん素敵になるわよね」

「芙蓉で特待生でしょ?」

「それどころかベストなのよ!」

「さすが生駒さんの息子さんね」


 私たち桜庭の女子は男性との接点が少ない。日常的に接する男性と言えば、親族か先生、習い事で一緒になる人ぐらいのものだ。

 その中で、姫奈ちゃんの家で会う彰仁くんと生駒くんはちょっと特別なのだ。

 二人とも姫奈ちゃんと一緒の時は挨拶くらいの会話はあるが、個人的に話すことはない。彰仁くんや姫奈ちゃんと一緒にいる様子を眺めるくらいだ。お互いに存在は知っているけれど、それ以上ではない。多分、学園に男子がいたら『友達ではないけれど名前は知っている男の子』ってこういう距離なのかなと想像する。


「しかもこの間の学園祭!」

「ええ! あの不意打ちの!」

「「「「麗しい」」」」

「姫奈ちゃんが言われたことないなんてむくれてたけど、私だって初めて言われたわ!」

「あからさまな社交辞令だったけど、キュンとしちゃった」


 ホゥとみんなでため息をつく。私たちは女子校育ちで、よく知らない男の子に対する免疫が低いのだ。男の子とも女の子と同じ態度の姫奈ちゃんにちょっと憧れたりもする。


「でも、あれって」


 百合ちゃんが同意を得るような目で私たちを見た。


「うんうん」


 みんなでニマニマする。


「絶対、姫奈ちゃんへの意地悪よね~!」


 クスクスと笑いあう。

 姫奈ちゃんはチョロいから、まんまと生駒くんの思惑通り拗ねてしまっていた。

 私は生駒くんが感情を表に出すところをあまり見たことがない。「麗しい」なんて言いながらも、それは社交辞令だとわかる笑顔だった。でもあの一瞬、拗ねてしまう姫奈ちゃんを見て、生駒くんが満足げな顔をしたから驚いた。

 その顔が美しくもあり、正直、男の子はちょっと怖いと思ったのだ。

 そのくせ、その後のやり取りがあまりにも幸せそうで、羨ましくもあった。


「そう言えば、中一の時、姫奈ちゃんたら私の彼氏候補に『綱はどう?』なんて言ったのよ?」


 中一の文化祭でのやり取りを、みんなに暴露する。


「ええー!! 初耳よ美佐ちゃん! でもこの間は、『綱はダメ』って言ってなかった?」


 その場を見ていた友達が尋ねる。


「『綱はダメ』なんて独占欲、可愛くない? だから私、ちょっと突いてみたくなっちゃったの」


 恋バナ大好きな百合ちゃんが、頬を紅潮させている。


「百合ちゃんたら、姫奈ちゃんに『生駒くんに可愛いって言われたいの?』なんて、ダイレクトに聞くだもん! ヒヤっとしちゃったわ」


 私が言えばみんな笑う。


「あの時の姫奈ちゃん、可愛かったよね!! 『そんなんじゃないけど』なんて拗ねちゃって、絶対嘘だもん!」


 百合ちゃん、満面の笑み。わかる。わかりすぎる。


 キャイキャイと盛り上がっているところへ、姫奈ちゃんがやって来た。後ろでは生駒くんがカートを押している。


「ずいぶん盛り上がっているのね?」

「文化祭のお話してたのよ」


 答えれば、姫奈ちゃんが笑った。


「どうだった? 楽しめたかしら?」

「「「「ええ、とても」」」」


 声を合わせれば姫奈ちゃんは嬉しそうに笑った。


 サンドイッチや焼き菓子、チョコレートなど姫奈ちゃんが綺麗に盛り付けてくれて、華やかなお茶会がスタートだ。


「今日の手作りお菓子はジェラートなの!」


 姫奈ちゃんが嬉々として紹介する。


「バナナヨーグルトは低脂肪ヨーグルトを使ってるの。あとは、抹茶味とミックスベリーとチョコレート。豆乳入りホイップクリームだから、生クリームより低カロリーよ。好きなのを言って? 盛り付けるわ」


 多分、私のことを考えてカロリーや糖質に気を配ってくれているのだろう。市販のものではできない気づかいを姫奈ちゃんがしてくれるのが嬉しい。


「抹茶とチョコレートをください!」


 百合ちゃんが答える。


「私はベリーとバナナが良いな」


 私が言えば、生駒くんが取り分け皿を姫奈ちゃんに手渡した。姫奈ちゃんがジェラートを盛り付ければ、生駒くんがそれを配る。アイコンタクトだけで、流れる様に作業する姿は、そこだけで完成された世界だ。


 思わずため息だって漏れてしまう。


「溶けてしまいますので一度下げますね。必要になったらお呼びください」


 生駒くんが言えば、「綱と彰仁も好きなの食べてね」と姫奈ちゃんが笑う。生駒くんは穏やかに微笑んで私たちに頭を下げ、ジェラートの乗ったカートを押して出て行った。


 生駒くんは幼馴染と言われているが、彰仁くんと姫奈ちゃんがどんなにくだけて話しても丁寧語で返事をする。姫奈ちゃんは気にしてはいないようだが、私は生駒くんが立場をわきまえていると周りに示すために丁寧語で話しているのかもと感じてしまう。

 だからこそ、学院で不意に呼び捨てを聞いた時、そのことに驚いた。いつもはお嬢様と呼んでいるだけに、唐突な名前呼びに、いけないもの聞いたような、そんな気がしたのだ。

 自分でも理由は分からないけれど、すごくドキドキして、キュンキュンして、なんだかすごく特別みたいで、恥ずかしくて羨ましかった。

 

 今はあえて、お嬢様とも姫奈とも呼ばなかったのかな、なんて勘繰りすきかしら?


 そう思うと、ちょっとだけキュッと胸が痛む。その理由もよくわからない。



「生駒くん、かっこ……いいわぁ!」


 ワザとらしく百合ちゃんが言えば、姫奈ちゃんが慌てたように手を振った。


「騙されちゃだめよ! 確かに生駒みたいにスマートな身のこなしだけど、綱は意地悪なんですからね!!」

「そんなことないでしょう?」


 百合ちゃん、顔がニマニマしているの隠せてないわよ。


「そんなことあるもん!! すっごく、すっごく、意地悪なのよ! 勉強、間違うとすぐ怒るし」

「あら、特待生に教えていただけるなんて羨ましいわぁ」


 私も悪乗りしてみれば、キッと姫奈ちゃんに睨まれた。


「でもでも、さっきだって、カート一人で出来るって言ってるのに、『一人でしたことないでしょう』だなんて嫌味だわ!」


 姫奈ちゃんが怒るけど、それはただの惚気じゃない?


「そんなことないわよ。手伝ってくれるなんて優しいのね」

「必要になったらお呼びくださいなんて、自分だって用事があるでしょうに」

「優しいように見えるけど、本当は皆のこと見たかっただけに違いないんだから!!」


 姫奈ちゃん、それは独占欲だし嫉妬です。


「だったら光栄よねぇ?」


 意地悪に百合ちゃんが言えば、姫奈ちゃんはダンとテーブルに手をついて怒った。


「確かに綱は特待生だし、ベストだし、格好いいけど!! でも、綱はだめ!! ほんとーに意地悪なの!! 無神経だし!! だから綱は絶対彼氏に向きません!!」


 姫奈ちゃんの必死な声に、みんなで笑う。彼氏に向かないと言いながら、格好良いのは認めてるのね、姫奈ちゃん。


「わかってる。生駒くんは姫奈ちゃんのだものね」


 思わず言えば、ボッと顔を赤らめる。


「そんなんじゃないもん! 違うもん!! もー、綱の話は良いの! ねぇ、みんなこそ文化祭はどうだったの?」


 姫奈ちゃんがそういえば百合ちゃんが身を乗り出す。


「手芸部のキルトすごかったわ! 教えていただきたいくらい!!」

「百合ちゃん手芸部だものね。部長さんにお話ししてみましょうか?」

「ええ! お願い!!」


 百合ちゃんが言えば、他の友達も興奮気味に報告する。


「実は私、ボルボックス育てているの!」

「ボルボックス? 好きだったのね?」


 姫奈ちゃんが首をかしげるけど、違うわ、彼女の目的は男子の方です。友達は苦笑いする。


「育て方に自信がなくて……」

「じゃ、彰仁に聞く? 今いるわよ」


 姫奈ちゃんが言うから、私は姫奈ちゃんの服を引っ張って頭を振った。違う、そうじゃない。

 姫奈ちゃんは私を見たハタと気が付く。


「ああ! わかったわ! 生物部のどなた?」

「あのね、髪の黒くて天然パーマの……」

「任せてちょうだい!」


 姫奈ちゃんがニヨニヨ笑いながら、力こぶを作った。こんな時、姫奈ちゃんはとても頼りになる。惜しげもなく、力を貸してくれるのだ。


「私は天文部が好きだったわ」


 言えば、姫奈ちゃんが目を輝かせた。バレエ歴もあり派手な見た目の姫奈ちゃんなら演劇部やダンス部でもおかしくないのに、なぜだか姫奈ちゃんは天文部だ。


「本当? 地味じゃない?」

「確かに賑やかではないけれど、すごく落ち着くの」

「あのね、頑張ったの! だから嬉しい」


 姫奈ちゃんが本当に嬉しそうで、私まで嬉しくなる。


「そう言えばね、桜庭で最近占いが流行ってるのよ」


 友達の一人が言った。文化祭の占いを思い出しているのだろう。

 姫奈ちゃんを中心にしての占い得点合戦は、男の子たちの火花が散って面白い見ものだった。とうの姫奈ちゃんは全く気が付いていないようで、男子たちが不憫でもあったけれど。


「名前を数字に置き換えて相性占いするの」

「へぇ?」


 姫奈ちゃんが面白そうにやり方を聞いている。


「名前の母音を基準にして、母音がaなら1、iなら2って感じ。白山は、い、お、あ、あで、2511になるの。それで出た数字を合計して、10以下になるまで2で割って、最後に100をかけるとそれが相性のパーセンテージですって」

「わかったわ!」


 姫奈ちゃんが、呟きながら指を折る。小さな声で「いーおーあー」と呟いているのは、聞かないふりをしたほうがいいにちがいない。

 みんなで顔を見合わせて、小さく頷いた。占いをしようと一番最初に思いつく人、それがどういうことなのか、姫奈ちゃん自身は気づいていない。


「やだ! すごく悪いわ!!」


 結果を見て姫奈ちゃんが驚く。文化祭では結果が良くても仕方ないなんて言っていたくせに。


「同じ方法で誕生日でもできるんですって」

「ええ!? それでも相性悪かったら怖いわ」


 姫奈ちゃんが案外臆病なことを言って驚いた。怖いものなしに見えたけれど、恋には臆病なのかもしれない。


「なあに? 好きな人と相性悪かったの?」


 百合ちゃんが意地悪に聞けば、姫奈ちゃんがバっと顔を赤らめた。


「違うもん! 好きとかじゃないし! 普通だけど、試してみただけ、試してみただけよ!!」


 ふーん、とみんなで笑えば、姫奈ちゃんがワタワタする。


「ね、ねぇ? おかわりいる? ジェラートまだあるわ」


 ほら、意地悪だなんて言いながら、困ったときに生駒くんを呼ぼうとしているの気が付いているのかしら。


 きっと姫奈ちゃんのことだから、気が付いてないんだろうな。


 男の子は怖いけど、怖いばかりじゃないのかな。

 怖いものなしの姫奈ちゃんが、困ったときに呼ぶくらい頼りになるものなのかしら?


 不思議に思いながら口に含んだジェラートは柔らかく溶け出して、甘くて酸っぱくて、まだ少し冷たかった。





Twitterフォロワーさん200人超記念企画アンケートのものです。

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