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メダカのキモチ  作者: freedomlife
13/13

第13話 今が幸せならば

結婚式が無事終わり、セブ島へのハネムーンも終えて、恭介とさよりの新婚生活は順調なスタートを切った。

恭介もさよりも結婚前からの仕事を続け、共働きして家計を支えている。

さよりの方が恭介よりも始業時間が若干遅いので、恭介が出かけた後、掃除や洗濯をして出発する。


朝から真っ青な夏空が広がり、強烈な太陽が照り付ける7月中旬、さよりはいつものようにメダカの水槽の掃除と、餌やりをしようと、水槽を覗き込んだ。


いつもなら、たえ子とジョリーが、餌を求めて水面近くを泳いでいる。

しかしこの日は、まったく姿が見当たらない。

不審に思ったさよりは、水槽の中をくまなく調べた。

そして、底に沈み、横たわったまま動かない2匹のメダカの姿を見つけた。


「え・・たえ子と・・ジョリー!?」


2匹は、折り重なるように、底砂の上で息絶えていた。


思い返せば、たえ子とジョリーがこの家にやってきたのは、1年前。

その時には、2匹ともすでに立派な成魚になっていたので、メダカの寿命を考えると、死因は老衰なのかもしれない。


さよりは、大事に育ててきた2匹のメダカとの突然の別れに、涙が止まらなった。


その晩、帰宅した恭介とともに、さよりは2匹の死骸を、アパート1階の物陰に埋めることにした。他のメダカたちのお墓と隣り合う場所に、穴を掘り、そっと2匹を掌の上に乗せ、穴の中に埋めようとした。

さよりは、涙ながらに、ジョリーの死骸を手に取り、つぶやいた。


「ありがとう・・本当にありがとう。」


恭介も、たえ子の死骸を手に取り、こらえていた涙を拭きながらつぶやいた。


「ずっと一緒にいてくれて、ありがとう。お前がいなきゃ、俺たちは出逢わなかったし、こうして一緒になることもなかった。」


そして、2匹を穴の中に埋めると、2人は手を合わせた。


「最後、折り重なるように死んでたね。最後まで、添い遂げようとしたのかなあ。」


「たえ子・・健気だったよな。何があっても動じなかったけど、ジョリーに出会えて、最後は幸せそうだったよ。」


「ジョリーも、メリーが死んでから寂しそうだったけど、たえ子ちゃんに出会ってからは幸せだったと思う。」


「そういえば、さより。お前・・以前、たえ子は自分みたいだって、言わなかった?」


「うん、言ったよ。」


「あれって、自分の分身ってことかい?一体どういう意味なの?」


「自分を映す鏡みたいだった。辛いことがあっても寂しくてもひたすら耐えて、好きな相手に巡り合えて、やっと自分自身を解放できるようになった。本当に、私みたい、というか、私が乗り移ってるみたいだった。」


「み、妙なことを言うなよ。たえ子が死んだからって、さよりはどっかに行かないでくれよ。」


「あははは・・・それは大丈夫よ。きっと、メダカちゃんたち、私たちのこと、見守ってくれてるよ。私たちを引き合わせてくれた彼らに感謝して、そして、私たちも幸せになるために生きて行かなくちゃね。それが何よりもの供養になると思うの。」


「さより・・」


「さ、ご飯まだでしょ?これから作るけど、いい?今日は肉じゃが作るからね。恭介くんから教わった作り方で、何とか作れると思うけど・・もしまずかったらごめんね。」


「お、おい、さより・・待ってくれよ!立ち直るの、早いなあ・・俺、まだ、涙が・・止まらないのに。」


部屋の中では、10匹ものメダカ達が、悠々と泳ぎ、水面に浮かぶ餌をついばんでいた。

死んだたえ子とジョリーの子ども達は、親たちのことを知ってか知らずか、楽しそうに泳いでいる。

追いかけっこしたり、仲睦まじくペアで泳いでいたり、あるいは、餌を取り合ってケンカしたり。


肉じゃがを食べながら、恭介とさよりは、ガラス越しに水槽を覗き込む。


「今日も、みんな元気だなあ・・パパとママがあの世に行ったのにさ。」


「いいのよ。彼らは今が幸せなんだもの。それでいいんじゃない?」


「まあ、そういわれれば、そうだけど。」


「私たちも・・今幸せなら、それでいいのよ。今までのことを悔いたり、これからのことを憂いたりするよりも、今この時の幸せを噛みしめて行かなくちゃ。」


「そう・・か?」


「さ、食べましょ。メダカちゃんたちも美味しそうに餌を食べてるし」


2人は目を合わせ、リスのように手を口に当ててクスっと笑いあった。

テレビのニュースで梅雨明け宣言が発表され、暑い夏が始まろうとしている。


「今年も暑くなりそうだね・・とりあえず、ビール飲んで涼もうか?」


恭介はニュースを見ながら提案した。


「あ、私も飲みたいと思ってた。じゃ、乾杯しよっか。」


さよりは冷蔵庫から缶ビールを2本持ち出すと、1本を恭介に手渡した。


「何に乾杯するの?」


「じゃあ・・メダカ達と、私たちに、乾杯!」


「あはは・・いいね、乾杯!」


ソファーに座った2人は缶ビールを一気に飲み干すと、さよりは立ち上がり、恭介の隣に座り、体を寄せあった。

恭介はさよりの肩に腕を回すと、さよりがその中に体をうずめた。


「恭介くん・・メダカちゃん達がいなければ、私たち、今こうして2人で幸せな時間を過ごせなかったよね。」


「そうだな・・メダカ達に・・感謝だね。」


「うん・・。」


恭介はさよりの髪をなでると、さよりは甘えるように恭介の顔に頬を寄せ、ゆっくりと頬ずりした。


「俺、ビール飲んだら眠くなってきたなあ・・一緒に、ベットに行こうか?」


「うん。行こうか。」


部屋の明かりが消え、薄いブルーの明かりが照らされた水槽の中で、メダカ達は体を寄せ合い、底を這うようにしてじっと眠りについていた。

そして、水槽のガラスには、ベットの上で、生まれたままの姿で体を寄せ合い、愛し合う恭介とさよりの姿が映し出されていた。

(おわり)


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