14 生きる力
自分の歌と舞いに、不思議な力があると知ったのはいつだっただろうか。
物心ついたときには、歌で天と会話をし、舞いで大地と戯れていた水蓮。しかし成長するにつれ水蓮の力はどんどん強くなり、ついには制御できないほどの力となった。
鬼子と言われ、忌まれた。
そんなとき、一人の老僧と会った。
老僧は、力が制御できず泣きじゃくる水蓮から事情を聞くと、優しく微笑み、言った。
「歌いながら、舞ってみなさい」
そしてこの歌と、簡単な舞いを手ほどきしてくれた。さらに水蓮の歌と舞いを目の当たりにした老僧は、水蓮が思いも寄らないことを告げた。
「君の力は鬼の力ではない。御仏の力、法力だ。いつか必ず君の力を必要とする者が現れる。いつか出会う誰かのために、決して死んではならないよ」
そして禅高と出会った。水蓮は禅高を愛し、禅高の願いをかなえるためにこの世界に来た。
因果一如の門開け
無二無三の道直し
無相の相を相として
行くも帰るも余所ならず
無念の念を念として
謡うも舞うも法の声
三昧無碍の空ひろく
四智円明の月さえん
水蓮が初めてこの歌を聞かせたとき、禅高は涙を流した。
「俺の子孫を……救ってくれ」
千年後に訪れる鬼との戦いのため、子孫に呪縛をかけてしまった。何もかもが鬼との戦いのためにある。そんな呪われた運命を課せられたのが、橘一族だった。
「今ここが極楽。今この身が仏……俺の子孫が、そう言えるようにしてやってくれ」
天を泣かせる歌の力が、最高潮に達した。舞いの力がそれを整え、森羅万象が水蓮の歌と舞いに揺さぶられた。
「私は……絶対生きる! 鬼なんかに、殺されてたまるもんか!」
泥まみれになった楓が叫んだその言葉に、水蓮は笑った。
(大丈夫よ、禅高)
水蓮の歌は、最後の段階に入った。集まった力が一つに束ねられ、巨大な渦となっていく。
(あなたの子孫は、生きる力に満ちている。大丈夫、呪縛なんて、自分で断ち切れる力をもっているわ)
鬼が最後の力を振り絞って、水蓮に襲いかかってきた。
水蓮は慌てなかった。
水蓮は歌った。禅高が最も好み、自身もまたつらい暮らしの中で、心の支えとしてきた最後の一節を。
此のとき何をか求むべき
寂滅現前する故に
当初即ち蓮華国
「この身即ち、仏なり!」
水蓮は、鬼に鋭い視線を向けた。
その視線を受けた鬼は、思わず動きを止めた。
「ば……かな……」
鬼は信じられなかった。水蓮の視線に、金縛りになるほどの恐怖を感じた。決して勝てない、例え神の卵があったとしても勝てない。鬼はそう感じ、恐怖に我を忘れた。
「女ーっ!」
水蓮は、ありったけの力をこめた鬼の手を、優雅に舞いながら鉄扇で受け止めた。鉄扇にこめられた小人族の力が鬼の力と反応し、乾いた音を立てた。
鬼の力が、弾けて消えた。
「終わりね」
水蓮は軽やかに地面を蹴った。
水蓮の周囲に集まり、渦を巻いていた力が一気に動き出した。
大地が割れた。奈落の底へ続くかと思われる大きな穴が、鬼を飲み込もうと口を広げた。
「女、お前は……お前は一体、何者だー!」
「人間よ」
鉄扇がひらりと舞った。穴から逃れようとしていた鬼は、そのわずかな鉄扇の動きで姿勢を崩した。
そこへ、水蓮が集めた力が殺到した。
「私はただの人間。それ以上でも以下でも以外でもないわ。あなたが鬼であるようにね」
鬼は巨大な力に締めつけられ、身動きがとれなくなった。力は鬼を包んだまま、奈落へと続く穴に向かって流れ出した。
「じゃあね」
「う、うわぁぁぁーっ!」
鬼が最期に見たもの。
それは鉄扇で口元を隠し艶やかに笑った、水蓮の楽しそうな顔だった。




