5 千年の恨み
『鈴丸……やはりお前か』
「これはこれは。一寸法師ではないか」
冷たく響く鬼の声に、楓の体がすくんだ。間近で感じる鬼の力は、やはり圧倒的だった。しかも一寸法師を認めた瞬間、鬼の力は激しい憎悪に包まれた。そのすさまじい憎悪に、楓の全身には鳥肌が立った。
「もはや死体ではないか、一寸法師。かつて鬼の軍団を手玉に取った策士も、時の流れには勝てぬか」
鬼は結界に足を踏み入れた。小人族の力が鬼の力に反応し、爆発が立て続けに起こった。しかし鬼は動じた様子もなく、さらに一歩を踏み出した。
『小人族の結界だ。この結界はお前には破れぬ』
「どうかな?」
鬼は一気に力を解放した。解き放たれた鬼の力が津波のように押し寄せ、結界をすっぽりと覆った。小人族の力と鬼の力の反発が激しくなり、ひときわ大きな爆発が起こった。
「鬼の力には強い小人族の結界も、物理的な爆発には弱い」
鬼の力には耐えた結界だが、連続して起きた爆発には耐えられなかった。結界に無数のヒビが入ると、鬼はとどめとばかりに、ありったけの力を叩き込んだ。
「私を誰だと思っている。千年もあったのだ、小人族の結界を破る方法ぐらい、考えつくわ!」
『くっ……行け!』
鬼が小人族の結界を破った瞬間、一寸法師は残る全ての力で楓を結界の外にはじき飛ばした。鬼は楓には目もくれず、無防備となった一寸法師に襲いかかった。
「貴様だけは許さぬぞ! 八つ裂きにして、その身を獣に喰らわせてやるわ。貴様さえおらねば、我らはあれほどの屈辱を浴びずに済んだのだ!」
鬼は渾身の力で、何度も一寸法師をけりつけた。すでに寿命を迎え死んでいた一寸法師の肉体は、鬼が蹴るたびに砂のように崩れていった。
「一寸法師様!」
楓の叫びを聞いて、鬼は動きを止めた。
『早く……早く、打出の小槌を!』
「無駄だ」
楓が打出の小槌を振り上げた瞬間、鬼は鋭い視線で楓をにらみつけた。それだけで十分だった。楓は鬼の力に包まれ、金縛りになった。
「あ……か……」
「せっかくの機会がふいになったな」
鬼は愉快そうに笑い、楓の胸ぐらをつかんで持ち上げた。
「再び礼を言うぞ、小娘。お前のおかげで打出の小槌を取り戻せた上、一寸法師にとどめを刺すことができたのだからな!」
『その子を離せ!』
「心配するな一寸法師。この小娘は殺さぬ」
鬼は楓の目をのぞき込み、ぞっとするような笑みを浮かべた。
「殺す程度で我が恨みは晴れぬ。小娘、お前には私の子を産んでもらうぞ。千年間、お前の一族が戦い続けてきた鬼の子をな! 光栄に思え!」




